Chapter1:月は真実を照らすらしい。
01:カウンターは不動の0らしい
ダンジョンには、様々なお宝がある。
ダンジョンを取り扱うゲームや漫画では、ずっとそんなことが謳われてきた。
……こんにち見られるダンジョンでも、それは変わらない。
ただし、お宝の種類は宝石や剣などではなく……代替エネルギーがメインだったけど。
ダンジョンで取れる様々なお宝を持って帰り、国に富をもたらす存在。それを人々は――迷宮探索者と呼んだ。
そして、俺もそのひとり。今日も今日とて、ダンジョンに向かい……浅い層、草原エリアで最弱の敵であるスライムを狩っていた。
「おりゃ!」
包丁よりも少し大きいくらいのナイフを、スライムめがけて振り下ろす。
ぶよぶよの体をしているスライムはさほど素早くない。俺が振り下ろしたナイフをよけ切れずに、ゼリー状の体を切り離した。
核を外しちゃったな。スライムは核を壊さないと死なないのが少しだけ厄介だ。……攻撃面積が広いメイスとかで思いっきり潰せたら楽なんだろうけど。
ただ、メイスのような金属の塊はやっぱりその分お金がかかり。今しがた足で踏みつぶしたスライムの素材で買おうとするなら、3年はダンジョンにこもらなければならない。
「なんだよ100万円って、そりゃ軽量化の魔法がかけられてるからだろうけどさぁ」
もっとこう、未来ある若者に何か支援価格的なね、そういう手心があってもいいと思うんですよ。俺は。
はぁ、と1個500円程度のスライムの魔石を拾い上げる。スライムの魔石は淡い水色の球体で、ビー玉みたいな安っぽい感じ。
ワンチャン駄菓子屋とかに売ってあるんじゃないかな。……そんなことを思った瞬間、少し離れた場所で声が聞こえた。
見れば、俺より少し背丈の大きい、同年代くらいの男子がメイスを振りかぶっていた。そのまま振り下ろせば、一撃でスライムが倒れて粒子になった。
――やはり金、金なのか……。
受験戦争でも散々見せつけられた金の力。ここ迷宮でも、資本の違いは大きな要素として存在するらしかった。
……金があったら〈迷宮学校〉への入学金をこうしてダンジョンで集めなくてもよかったのかなあ。
深いため息が出てしまう。とにもかくにも俺には金が必要だった。
「……くよくよしてられないな、次のスライムを見つけないと」
どっこらしょ、とおじさん臭い掛け声で立ち上がった時だった。
耳に着けていたイヤホンから、ぴこんと通知の音が鳴った。
まさか!?
「しょ、初見さんいらっしゃい――!」
急いでチャット欄を見ると、そこには「初見です」のコメント。
今日初めての視聴者だ! とりあえず挨拶は済ませたし……今ここで何してるかを言わないと、この1人は命より大事な1人だ……!
「今はダンジョンの第1層でスライム狩りをしていますっ。初心者ですが皆さんの目を――」
そこで、まるで見計らったかのように登場するスライム。これは配信の神様が俺にチャンスをくれているに違いない!
「今からこのスライムを倒してみようと思います!」
大きく声を張り上げて、スライムへとナイフを突きつける。
スライムはフルフルと震えているが、動く気配はない。視聴者さん、見てろよ……!
ナイフを上段に構え、縦一閃。振り下ろされた切っ先は、当然リーチが足りずスライムには届かない。
空振りかと思うでしょ? だけど、スライムがぱきりと縦に割れた。どうだ、視聴者さん!
これは俺のとっておきの”スキル”だ。流石に盛り上がって――。
「……うん。まぁ、そうだよな」
現在俺の配信を閲覧している人数を表す数字は、元の1から0へ。つまり誰も俺がスライムを倒す姿を見ていなかったということで。
ため息を吐き出す。心が折れそうになるが、これにももう慣れっこだった。
「やっぱりダンジョンストリームは、一握りの有名人にしか稼げないんだなぁ」
ダンジョンストリーム。ここ10年ではやり始めた、ダンジョン内の様子を配信するコンテンツのことだ。
国が若者ダンジョントラベラーを増やしたいとか、企業がダンジョン周りの利権をうんぬんとかで、とんでもない成長を遂げたモンスターコンテンツ。
トラベラーは配信するだけでお金がもらえるし、視聴者は家に居ながらダンジョンの様子を臨場感たっぷりに見ることができるのだ。
……まぁ、お金がもらえるのは”収益化ライン”を超えたストリーマーだけなんだけど。俺はもちろん超えてません。
「どうしたら伸びるんだ……? やっぱり有名ストリーマーと絡むしか手はないのか?」
そんなコネがあったら、の話だけど。
そういえば、さっきメイスをふるっていた男子の近くにもドローンが浮かんでいた。彼も配信中だったのだろう。
興味本位で、ダンジョンの名前と階層を入力して、彼のストリーミングを探してみる。
「……視聴者300人にスパチャまで?!」
登録者も1000人を超えているので、収益化も終わっているようだ。
チャンネルの情報を確認してみると、チャンネル開設後すぐに中堅ストリーマーとのコラボ配信。
金か、やはり金なのか……! 金を積めばコラボもしてくれるのか……!
うらやましくてしょうがない。
はぁ、と。思わず漏れるため息。うつむいてもしょうがないとは思うけど、ここまで資本力の差を見せられたら”なんで俺には”って思う気持ちも少しは出てくる。
視線の先には真っ白な魔法陣があった……魔法陣?
おかしい、ここは草原エリアだ。うつむいたらそこには草があるはずで。
異常を察知したときには、もうすでに遅かった。目の前が真っ白になり、俺の意識はそこで途絶えた。
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