第92話 カラオケ交流会(その7)

「じゃ、俺たちはこれで」

「今日は楽しかった。また明日ねー」


 支度を調えた仁達はカラオケボックスを出た。そして交流会の余韻に浸りながら複数のグループに分かれて雑談をしていた。そのとき、とある男女が先に帰ると言い出し集団から離脱した。


「えー、もしかしてカップル誕生しちゃった?」

「あの短時間でいい仲になるなんてなんてウラヤマ、いや、けしからん」

「僕たちも抜け出さないか?」

「なんで私がアンタなんかと抜け出さなきゃならないの」


 離脱した2人の行く末を応援して送り出す者、カップルになったことに対し羨ましそうに妬む者などさまざまであったが、それに続くように数組の男女が離脱して街の中に消えていった。


「さて、僕も帰ろうかな。月見里さん、途中まで一緒に帰らない?」

「しっ、仕方ないわね。兼田君の家がどこにあるかわからないけど、途中まで付き合ってあげるわよっ」


 仁はその流れに乗って音羽を誘った。彼女も返す予定のお金を使い込んでしまった後ろめたい気持ちから、仁の誘いを断るという選択肢は残されていなかった。


「私も付いて行って良いかな?」


 仁と音羽のやり取りを聞いていた日花里は、会話の中にサッと入り込み一緒に帰って良いか尋ねてきた。


「まあ、いいけど」


 仁は本当は音羽と2人で帰りたい気持ちであったが、音羽がクラスメイトの前でイチャイチャするのを拒んでいるように感じているため、波が立たないように日花里の提案を受け入れた。


「えーっ、ひかりんが兼田クンと帰るのなら私も」

「ずるーい。私も途中まで一緒に帰る」


(あの2人って小山内さんが言っていた子よね?)


 仁が日花里に許可を出したため、他の女子もそれに続こうとした。音羽は日花里の他に名乗りを上げた2人は、カラオケ交流会のときに、仁のことを好意的に見ていると日花里から教えられた人物であると気付いた。


「じゃあ、途中までね」


 結局、仁は女の子4人を伴って帰ることになった。


「兼田の奴モテモテだな」

「まあ、今回は奴のおかげで交流会に参加できたのだから文句は言えないな」

「そうだな。オレも彼女欲しかったな」


 仁と女の子4人のグループができたことを、他の男子達は妬んだが、仁がいなければ、このような交流会が開けなかったため、表だって文句を言える者はいなかった。


「ちょっと大人数になったけど、月見里さん、そろそろ帰ろうか」

「そっ、そうね」


 こうして仁と音羽、それに女子3名は、とりあえず音羽の家の方角に向けて歩き出すことになった。



「えーっ、ここまでかぁ」


 仁達が出発してから200m程度歩いたところで、1人がルートから外れるため離脱することになった。


「兼田クン、みんな、また明日学校でね」


 そういって1人目の女の子は、仁達に手を振りながら違う道を進んでいった。


「私、こっちだから」


 それから少し歩いたところで2人目の女子が分かれ道に差し掛かり離脱した。


「残念、私もここまでみたい。兼田クン、月見里さん、今日は無理に誘ってゴメンね。でも凄く楽しかった。またこういう交流会ができると良いね。それじゃ、また明日会おうね」


 さらに少し歩いたところで、日花里が分かれ道に差し掛かり、離脱していった。


「ところで兼田君の家ってこの方向じゃないよね?」

「そうだね」


 音羽は仁の歩き方を見て、ふだんの通学路として使用している道ではないと思った。そのことを不審に思い仁に尋ねたが、迷うこともなく仁は隠さず答えた。


(そっ、そうだね。って、まるで私の家を知っているような行動よね?)


 音羽は間違うこともなく自宅の方角に向かって歩いている仁を見て、不審に感じてしまった。

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