第83話 仁と音羽の関係(その2)
「せっかく2人分の弁当も用意していたんだけどなぁ」
仁は音羽が食べるかもと思い、同じ弁当を2つ購入していた。机の上には開封済みの弁当と、未開封の弁当が2つ置かれていていた。仁は1人寂しく弁当を食べようとしていた。
「兼田クン、同じ弁当を2つ用意してるけど、好きなの?」
「えっ?」
仁は1人の世界で弁当を食べようとしていたが、不意に女性の呼びかけに驚いてしまった。
「驚かせちゃったかな? ちょっと気になったから聞いただけよ」
「別に1人で1つ食べるつもりはないよ。一緒に食べようと思った人に逃げられたから余っているだけ」
「それなら私がもらっていいかな? 今から学食に行こうと思ったんだけど、食べないのなら私がもらっても良いでしょ? もちろんお弁当の代金は払うわよ」
話しかけた女子は同じクラスメイトであった。先日学食で一緒に食事をしてから、妙に仁に話しかけてくることが多くなった子である。
「欲しいのならあげるよ。お金はいらないよ」
「えー、うそー。食費が1回分浮いたわぁ。後で返してって言っても返さないわよ」
仁は弁当を2つ食べられるほどお腹に余裕がなかったため、持って帰って食べるか、帰るまでに痛んでしまったら破棄するつもりでいた。引き取ってくれる人が居るのであれば、その子に弁当を譲っても良いと考えた。
「月見里さんの席を借りるわね。よいしょっと」
その女子はそう言ってから、音羽の席をクルリと回転させて仁と向かい合わせの席を作った。教室で昼食を食べる人の中にはグループになるものもいて、他の場所に行って空席になっている人の椅子や机を借りることがあり、その女子が取った行動もそういったものであった。
「えーっと、確か」
「もしかして、兼田クン、私の名前がわからないのかな? 今は2学期だけど、もしかして覚えていないとか言わないでよ」
「顔はわかるけど、ごめん」
「がーん、ショック。改めて自己紹介するわ。私の名前は小山内日花里(おさないひかり)だよ。みんなからは、ひかりんって呼ばれているよ」
音羽の席に陣取ったクラスメイトの女性は改めて仁に名乗った。
「わっ、ひかりん、兼田クンと一緒に食べるなんてズルい。私も一緒に食べるっ」
「えっ? ひかりん抜け駆けなんて許さないわ。私も参加よ」
「先を越されたわ。私も参戦するわ」
教室で食べようとしていた女子が、日花里の行動を見て、今がチャンスだと思い参戦してきた。気が付くと仁と音羽の繋がった机を囲むように複数の女子が、自分の弁当を持って集まってきた。
(はぁ、本当は昼休みに返そうと思っていたのだけど、朝、キツく当たってしまって言い出せなかったよ)
一方その頃、音羽は屋上に繋がる階段の最上段で、家から持参したおにぎりを食べていた。
「やっぱりこのお肉美味しいわ。たまにはこういうプチ贅沢も良いわね」
この日はいつもの白おにぎりではなく、昨晩残った国産肉を詰めた肉入りのおにぎりであった。ふだんより少し贅沢なおにぎりを食べていると、音羽は次第に帰す予定だったお金を後回しに考えるようになっていた。
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