第82話 仁と音羽の関係(その1)
「彼女持ちかぁ。学園でどう声を掛けたらいいか悩むなぁ。にひひ」
翌朝、仁は支度を調えた後、学校に歩いて向かっていた。昨日の事があり、仁は前の席の子と付き合うことになったと勘違いしているため、これからの学校生活が楽しいものになるだろうとほのかな期待を寄せていた。
「お母さん、あの人笑ってるよ」
「しっ、見てはいけません」
終始にやけ顔でときどき不気味な声を上げて笑っている仁の姿を、母親と一緒に保育園に向かっている女児に見られ、指さして母親に尋ねていた。そのようなことがあったとは知らない仁は、周囲の反応よりも早く彼女に会いたいという気持ちでいっぱいだった。
「そうだ。昼食に何か買っていった方が良いかな?」
仁はもう一緒に昼食を食べないと音羽に言われていたが、彼氏、彼女の関係になったことで、それも帳消しになった可能性を考え、途中でコンビニに立ち寄り、彼女のために甘いお菓子を購入してから学校に向かった。
「おはよー、月見里さん」
「えっ? おはよ。何だか今日は凄く嬉しそうな顔をしているね」
仁が教室に到着すると、音羽は既に席に付いていた。仁は自分の席に座る前に音羽に声をかけた。だが、笑顔で返されると期待していたが、音羽から帰ってきた反応は、今まで通りで突っぱねるような刺々しいものであった。
(もしかして、月見里さんを怒らせるようなことをしてしまったかな? よくよく考えるとデートが終わって帰る途中に逃げられたような気もするし)
仁はふと昨日の別れ際を思い出した。頼子は終始笑顔で接していたが、突然逃げるように去って行った。そのとき、次に会う約束のことを話していたので、機嫌を損ねるようなことはしていないと思ったが、音羽の表情を見て何か機嫌を損ねることをしてしまったのではと思った。
「まあ良いわ。それと気安く話しかけないでって言ったよね? 耳でも詰まっているのか、私の言葉が頭で理解できないのかしら?」
「えっ?」
音羽はそう言って挨拶のために顔を仁の方に向けていたが、再び前の方を向いた。
(話しかけないのは継続なんだ。あっ、そうか、学校でイチャイチャしたら恥ずかしいもんね)
仁は、前向きに解釈してから鞄の中から授業で使用するものを出し、机の中に入れていった。
「さて、昼休みだ。月見里さんは……もういない」
朝のホームルームを経て、午前の授業はあっという間に終わった。仁は用意していたお菓子を持って音羽を昼食に誘おうとしたが、彼女の姿は既に消えていた。
「逃げられた。のかな。今日はコンビニで弁当を買ったし、ここで食べてしまおう」
仁は音羽のためにお菓子を用意していたが、逃げられてしまったため、一緒にコンビニで購入していた弁当を出して、自分の席で昼食を取ることにした。
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