第60話 3回目のデート(その1)

(学校では完全に拒絶されたような形になったけど、月見里さん、来てくれるかな?)


 日曜日、仁は頼子と約束をした場所に、待ち合わせ時刻よりかなり早い時間に来ていた。音羽から金曜日に、もう一緒に昼食の時間を過ごさないと言われ、教室でも話しかけられるような状態ではなくなり、完全に嫌われてしまったのかもしれないと思っていた。だが、会う約束をしていることについて、彼女から何も言ってこなかったため、僅かな望みにかけて駅前広場で待っていた。


「だぁれぇだぁ?」

「うわっ!」


 突然、仁の背後から何者かが忍び寄り、手で両目が塞がれた。いきなり視界が塞がれたことで仁は驚いた声を上げた。だが、その声は仁のよく知る人物のものであった。


「月見里さん?」

「正解っ、よく私の声だってわかったね」

「それは僕が待っている人の声だから忘れないよ」

「嬉しいこと言ってくれるわねぇ」


 仁が目を塞いだ人物の名前を言うと、目を覆っていた手が離れて視界が回復した。そして目の前には、待っていた人物の笑顔があった。


「来てくれないかと思った」

「ごめんね。私も少し言いすぎたかなって思って反省したところよ」


(音羽と擦り合わせをしておいて良かった。もし知らずに会っていたら兼田君を困らせてしまうところだったわ)


 頼子は仁に声をかける少し前、不安そうな顔をして待っている仁の顔を遠くから見ていた。それを見て正面から行くのをやめ、気持ちをほぐす意味を兼ねてこのような変化球を出していた。


「今日は兼田君に会いたくて早く来たつもりだったけど、私より早く来ているんだもん。ビックリしちゃったわ」

「ははっ、待ち合わせ時間より早く会えて、一緒にいられる時間が増えたから結果的に良かったかもしれないね」


 頼子も会えるのが嬉しくて早く来たのだが、それ以上に仁が早く来ていて驚いていた。結果、お互い一緒に過ごせる時間が増えて良かったと2人は思った。


「先週プレゼントした服を着てきてくれたんだね」

「もちろんよ。せっかくプレゼントしてくれたものだからね」


 頼子は先週、仁がプレゼントした服など一式を着用していた。月見里家のお財布事情では綺麗に装えるのものこれしかないと言う事情があるのだが、仁はよりこの格好を見てとても嬉しく感じていた。


「兼田君、今日はどこへ行く?」

「いくつか考えていたのだけど、早く合流できたし、遊園地へ行こうか」

「遊園地ってお金がかかるよね?」

「家の事情は聞いているからわかっているよ。今日もお金のことは気にしなくても大丈夫だよ」


 仁は行き先をいくつか考えていたが、早く頼子と会えたため、計画を変更して遊園地へ行くことを提案した。頼子はお金がかかることを気にしたが、音羽から月見里家のお財布事情を聞いていたため、そのことも織り込み済みであった。


「兼田君、いろいろごめんね」

「どうして謝るの?」


 仁から月見里家のお財布事情の話が出て頼子は少し驚いた。本当は音羽に金銭的な苦労をかけたくなかったが、自分の力が及ばず学校での交友関係まで影響を与え、そのことを仁に心配させてしまったことに詫びを入れたが、仁はなぜ頼子が謝るのかわからなかった。

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