第14話 初デート(その10)

「お待たせしました。ただ今よりイルカショーを開催します」

「おっ、始まったみたいだね」

「楽しみだわ」


 イルカショーが始まる時間になると、プールサイドにマイクを持ったお姉さんが現れた。仁と頼子は手を握ったまま始まるのを待っていたが、頼子の握る力が少し強くなったのを仁は感じた。


「さあ、本日お集まりの皆様に芸を披露するのは3頭のイルカです。まずは男の子、タロウ君です」


 司会のお姉さんはプールの中を優雅に泳いでいるイルカの紹介を始めた。


 ザバーン


「すごーい。名前を呼んだらジャンプしたわ」

「あっ」


 ジャンプしたイルカのタロウ君に対して頼子は歓喜の声を上げた。仁と握っていた手は解かれ、頼子は大きな拍手を送っていた。


(月見里さん、凄く楽しそう)


 それから残り2頭が紹介され、その間に姿を見せた飼育員さんの指示で、数々の芸が披露されていった。



「以上でイルカショーを終了します。この後も当水族館をどうぞお楽しみください」


 約10分間のイルカショーが終了し、司会のお姉さんと飼育員さんはプールの奥にあるスタッフルームに帰って行った。プールに残ったイルカ達は、再び優雅な泳ぎを見せ始めた。


「兼田君、すごかったわ。イルカがあれほど高いジャンプをするなんて驚いたわ」

「そうだね。それにイルカって凄く賢いんだね」

「そうなのよぉ、飼育員さんの指示を理解して動いていたわね」


 頼子は興奮が冷め切っていない様子で、仁に先ほどのイルカショーについて熱く語った。


「月見里さん、少し遅くなったけど、昼食にする?」

「そうね。でも、どこで食べるの?」


 仁は時間を確認すると、14時前になっていた。既に一般的な昼食時間を過ぎていたが、頼子がパフェを食べていたのを考慮し、仁はこの時間で頼子を昼食に誘った。


「まだ館内を全部見終わっていないから、併設のレストランでいいかな? 再入場ができれば外で食べられたけど、ここは再入場不可だから仕方ないよね」

「そうね。せっかく来たのだから、展示されているものは全部見て回りたいわね」


 この水族館は再入場ができないため、昼食を挟んで引き続き見て回ろうと思うと館内で食事をしなければならない。選択肢がないため、仁は頼子を併設のレストランに誘った。



「案内図ではこの辺りにあるはずだけど」

「兼田君、あったわよ」

「ほんとうだ。月見里さん、ありがとう。混雑する時間が外れたから、中も空いているみたいだよ」


 仁と頼子は、館内案内図を頼りにレストランに移動した。レストランは一般的な昼食時間が過ぎていたため空いていて、同じように混雑を避けたように思われる、小さな子供を連れた家族連れが数組いるだけであった。


「月見里さん、何にする?」

「えーっと」


(家族向けのレストランだと思って甘く見ていたわ。どれも微妙に高い。これ以上兼田君に迷惑を掛けたくないし、どうしよう)


 併設のレストランは、先にレジで注文するものを決めて支払いを済ませる前払い方式であった。頼子は壁に掲示されているメニュー表を見ながら、何を選ぼうか悩んでいたが、価格が観光地価格と呼ばれる高めの設定で、これ以上仁に金銭的迷惑を掛けたくないという気持ちになっていた。

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