第12話 初デート(その8)

「すごーい、イワシがたくさん泳いでるわ」

「月見里さんは、イワシが好きなの?」


 水族館に入場し、順路を少し進んだところに、大きな水槽があり、その中でイワシの群れが固まって同じ方向に泳いでいた。頼子はそのイワシを真剣な眼差しで見ていたため、仁はイワシが好きなのだと思い頼子に尋ねた。


「えっ? そっ、そういう訳ではないけど、活きが良いなって思って見ただけよ」

「そっ、そうなんだ」


 イワシは漁獲量の増減により価格が変動するが、比較的安価な部類に入る魚である。月見里家でも、安価な時期限定で食卓に並ぶお馴染みの魚であった。頼子は活きが良いイワシを見て、美味しそうだと思っていただけであった。仁はそれを聞き、あまり思い入れのない魚を、活きの良さだけを基準にして、頼子が真剣な眼差しで見ていたことが不思議に思えた。


「うわぁ、今度はタラバガニ、あっ、こっちはズワイガニだって」


(月見里さんがすごく喜んでいるから、連れてきて良かった)


 2人は順路を進み、カニが展示してあるところで足を止めた。水槽の中にいるカニを頼子は真剣な表情で見ていた。その様子を見ていた仁は、これほど喜んで貰えたのなら、この場所に連れてきて良かったと思った。実はそのとき頼子は、価格が高すぎて月見里家の食卓に並ぶことのない高級食材に対し、憧れの眼差しを向けていただけであった。


「兼田君、サメがいるわ。大きいわねぇ」

「そうだね。すごく大きい。口をよく見ると尖った歯がいっぱいあって、噛まれたら痛そうだね」


 更に順路を進むとサメが展示されている水槽があった。大型の魚が自由に泳げるようにするため、水槽はとても大きく、複数のサメが優雅に泳いでいた。頼子と仁は見上げるように水槽の中をのぞき込み、その大きさと迫力に圧倒されていた。


「兼田君、チ○アナゴよっ」

「月見里さん、このシマシマの方はニシキアナゴと言って、チ○アナゴは白地に黒い斑点がある方なんだよ」

「えっ? 本当だ。両方ともチ○アナゴだと思っていたわ」


 順路を進むとチ○アナゴとニシキアナゴが展示されている水槽があった。頼子はニシキアナゴを指さしてチ○アナゴと言っていたが、仁は本物のチ○アナゴを指さして頼子に教えた。すると頼子は水槽横の説明書きを読み、仁の言っていることが正しいことを知った。


「月見里さん、そろそろイルカショーが始まるみたいだよ」

「そうなの? 私、イルカショーって見たことないの」

「それなら、一緒に見ていかない?」

「ええ、いいわよ。凄く楽しみだわ」


 仁は水族館に行くことを想定し、イルカショーの時間も頭にたたき込んでいた。ちょうど時間が近づいていたため、頼子に見に行くか尋ねると、彼女はとても乗り気であった。こうして2人は、イルカショーが開催される屋外プールへ移動することにした。

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