第11話 初デート(その7)

「月見里さん、次で降りるよ」

「ええ、わかったわ」


 仁と頼子はバスに20分ほど揺られ、水族館がある最寄りのバス停に近づいていた。バスの車内は立ち席が出るほど混雑していて、小さな子供を連れた家族連れやカップルなど、同じ目的地と思われる人達が多く乗車していた。


「次は水族館前。お知らせがない場合、通過します」

「兼田君、降車ボタンを押さないと通過してしまうわ」

「そっ、そうだね」


 同じ場所で降りる者が多い場合、誰かが降車ボタンを押すだろうと思い、結局、誰も押さないときが希にある。まさに今がその状態であった。バスの運転士が確認の放送をすると、慌てて仁も含め複数の人が同時に降車ボタンを押した。



「バスが通過するかと思って焦ったよ」

「そうね。慌てて何人か同時に降車ボタンを押していたけど、見ていて少し笑ってしまうところだったわ」

「僕は早押しが得意だから、きっと反応したのは僕が押したボタンだよ」

「ふふっ、そういうことにしておいてあげるわ」


 バスは水族館前のバス停に停車し、乗客の半分以上が降車し、それぞれのペースで水族館の建物に向かって歩き出していた。


「大きい建物ね。私は初めてこの水族館に入るけど、兼田君は来たことがある?」

「いや、僕も初めてだよ」


 今回訪れた水族館は、数年前に完成した比較的新しい施設であった。頼子と仁はお互い初めて訪れた施設であった。


「それじゃ、入場チケットを買ってくるから、少し待っていてね」

「ええ、わかったわ」


 今回のデートは、仁がすべて奢る約束になっていたので、当たり前のように仁は頼子に待つように伝え、チケット売り場に移動した。


(水族館くらいなら、兼田君の懐はあまり痛まないよね)


 頼子は喫茶店で仁に多くのお金を出させてしまったことを反省し、あまりお金がかからないイメージのある水族館を選択した。だが、その考えが甘かったことを、この後知ることになった。


「お待たせ。月見里さんの入場チケットはこれね」

「ありがとう。って、水族館の入場料ってこんなにするの?」


 入場チケットを購入して仁が戻り、頼子に1枚手渡した。頼子が入場チケットを見たところ、記載されていた額面に驚いてしまった。


「公営の施設なら、もう少し安いかもしれないけど、民営ならこれくらいだと思うよ。水族館って建物や設備を整えるのに加えて、維持するためのエサ代や人件費なんかのコストが結構かかるから、それを回収するために、高めの料金設定になっているんだって」

「そっ、そうなのね」


 仁から入場料が高い理由を聞かされ、頼子は入場料の設定に納得した。


(入場料が3000円もかかるなんて知らなかったわ。また兼田君に負担を掛けてしまったわ。ゴメンなさい)


 頼子は口に出さなかったが、仁に多くの出費をさせてしまったことに対し、申し訳ないという気持ちになっていた。

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