異世界童話禁忌目次録~開かずの間に千年間封印され、読んだ者の命を奪う謎の本を残業代替わりに渡されたオッサンの物語~
西の果てのぺろ。
第1話 千年の『開かずの間』
ダリル著『異世界童話禁忌目次録』。
それは、シュタール王国建国時に、禁忌指定された謎の書物である。
読めば死ぬのは確かであり、なぜ作られたのか、何の為に存在するのかさえもわからない。
言えることは、当時の偉大な研究者や魔法使いでさえ、それを読めば必ず命を落としたということである。
そして、この本は、燃やすことも、破ることもできず、処分することが誰にも出来なかったことで封印することとなり、誰も手にすることがないように、建国王が自ら『禁忌の部屋』を作って封印したのであった。
その建国から長い歳月が経った。
シュタール王国は、その間に、歴史の一部も、伝承も風化していく。
『禁忌の部屋』についていも、その存在理由を記す書物は失われ、いつの間にか王家でさえ、なぜそその部屋が王宮の奥に存在するのか、わからない有様となる。
そして、千年経った今、『禁忌の部屋』という名も忘れ去られ、誰もがその扉を開けることが出来ない『開かずの間』という扱いになっていたのでった。
シュタール王国王都は、王家から民衆に至るまで飲めや歌えの大騒ぎとなっていた。
それもそのはず、建国千年を祝って、一か月に及ぶ建国祭の最中なのだ。
建国から千年の間、シュタール王国は存亡の危機もあれば、大陸最大版図を誇る栄華を極めた時期もある。
そして現在は、中程度の国家として千年の間大陸に存在し続けることが出来ていた。
だからこその、お祭りなのである。
各国からも賓客を招いて、連日、国を挙げてのどんちゃん騒ぎだ。
建国祭の一か月の期間、王国全土、各地方都市も含めて色々な催しを用意しており、大陸全土から剣豪を呼び寄せての大会を開いたり、各国自慢の魔法使いによる秘技の披露なども行われている。
その中で、シュタール王国王都では、とっておきの催しが、大トリに控えていた。
それが、建国当初から存在するという『開かずの間』を千年ぶりに開くというものだ。
千年もの歴史となると、その経緯が有耶無耶になっているものが数多くあるのだが、その一つがこの『開かずの間』であり、歴史研究家などの間でもなぜ存在するのか、資料が全く残っていない為わからないというのがこの部屋である。
その部屋は王家の恥部が隠されているという説が、現在では一番有力視されていることもあり、王家は長い間その部屋の存在を否定し続けていた。
しかし、建国一千年を迎えて、王家はその『開かずの間』の存在をついに認めたのである。
さらに、その『開かずの間』をお祭り期間中に開けるという催しを企画、それを建国祭の目玉とした。
今は丁度、大陸全土から我こそは世界一の偉大な魔法使いと称する者達が集まっていることもあり、その者達に『開かずの間』を開けてもらうことにしたのだ。
というのも、この『開かずの間』、百八本の高位の魔法を帯びた鎖で部屋全体を縛り、五十四個の鍵で扉を施錠。さらに二十七の魔法陣で封印していることから、王家の者が開けたくても開けられなかったのである。
もちろん、この『開かずの間』を開けた者には、王家が莫大な謝礼を用意していることから、大陸全土の魔法使い達が建国祭中に挑戦していた。
「俺は、ルーマー帝国の皇宮魔導士団長なり! 千年前の古い結界魔法を解くことなど、児戯にも等しい!」
魔法で有名な帝国の高位魔法使いがそう高らかに宣言して挑戦するも、失敗。
「私は、大陸冒険者ギルド最強の魔法使いだ。これまで攻略したダンジョンと比べれば、昔の解けかけている封印を破るなど容易いこと!」
歴戦のS級冒険者魔法使いが、全力で挑戦するも、これも失敗。
「みなさん、わたくしの為に前座を務めてくれてありがとう。わたくしはあの歴代最強の魔法使いと名高いフォルン導師直系の弟子、ガス長老からの流れを汲む在野最強の魔法使いです。この程度の封印、一時間もあればあっという間ですよ!」
数百年前に史上最強の魔法使いと名を馳せた人物の弟子の弟子の弟子の……を自称する期待の女性魔法使いもまた……、失敗した。
「部長、この『開かずの間』、期間中に開かなかったらどうするのですか?」
目の下にクマを作った中年の王宮管理省総務部職員が、上司にこのあり様を見て、質問した。
「馬鹿者! その時は貴様が責任を取って建国祭終了までに開けてみせろ! それができないなら、王都に招いている魔法使いに片っ端から声をかけて、なんとしてでも開けさせるんだ!」
口髭の端がピンと跳ねている上司は、普段からこき使っているこの使えない部下に無茶な命令をした。
「私にそんなこと出来るわけがないじゃないですか……。それに、もう、七日間徹夜しているので、さすがに少し休ませて──」
「休む暇があるなら、とっとと『開かずの間』を開けろ! それが出来なければ、貴様は死ぬまで寝るな!」
上司は、そんな無茶を告げると、怒ってその場をあとにするのであった。
「うーん……。これはどうしたものでしょうか……」
上司の無理な命令をなんとか遂行しようとしていたおっさん平職員のヨハン・ブックスは、疲労困憊の状態で頭を悩ませていた。
すでに、各国から招いた高名な魔法使いのほとんどに声をかけ、裏で密かに『開かずの間』の開錠をお願いし、挑戦してもらっていたのだが、それも悉く失敗していたのだ。
それだけに打てる手は全て打ち尽くしたつもりでいた。
「ふむ、噂は本当じゃったか」
ヨハンが『開かずの間』である大きな箱型の部屋の前で考えこんでいると、いつの間にかその隣に一人の老人が立っており、そう漏らした。
「うわっ!? ──どちら様ですか?」
普段、冷静なヨハンも気配もなく隣に突然現れた老人に驚くのであったが、この数日声をかけた魔法使いの一人かと思い返し、冷静になって名前を思い出そうとする。
「儂はフォルンという。世間では、遠い昔の偉大な魔法使いなどと評価されているようじゃ。──ところで、小僧。この『禁忌の部屋』の封印、本当に解いて良いのじゃな?」
「フォルン? どこかで聞いたような……? あの……、この部屋は『禁忌の部屋』ではなく『開かずの間』ですよ?」
ヨハンは、数百年前に実在した最強の魔法使いの名前にピンとこず、質問に答える。
「なんと嘆かわしい……。千年も経つと本来の呼び名も失われていたか……。この部屋は、元々『禁忌の部屋』と言われていたのじゃよ。少なくとも数百年前までは正しくそう呼ばれていた。知らぬ間に、この部屋の存在自体が正しく伝承されずにきてしまったようじゃな……」
フォルンと名乗った老人は、溜息を吐いてぼやく。
そして、説教を始めた。
「よいか? 建国当初から、この部屋は存在したと言われているのは知っておるな? それは事実じゃ。そして、すでに儂が大魔法使いとして世間に名を馳せていた頃には、この『禁忌の部屋』は誰も開けられない部屋になっておった。『開かずの間』に呼び方が変わったのは、当時の儂が開錠に失敗したのが、原因かもしれんがのう……」
フォルン老人は、最後は愚痴っぽく漏らす。
「そうなんですか? ではお聞きしたいことが。この『開かずの間』、いや、『禁忌の部屋』の中には何があるのでしょうか?」
ヨハンは、寝不足で頭が働かない状態で、その疑問だけが浮かんできたので質問する。
「さあのう……。儂もそれが知りたくて、この五百年、山に籠ってこの開錠の為に魔法技術を磨いておったのじゃよ。当時王家にそのことを聞いてみたが、すでに、その中身についての伝承は失われておった。時間とは残酷じゃ」
フォルン老人は、悲しそうに溜息を吐く。
「そうなんですね……。──って、今、開錠の為に魔法技術を磨いていたと言いましたか!?」
七日徹夜して全く働かない頭でも、ようやくそのことに気づいた。
「そうじゃ。失敗した日以来、『禁忌の部屋』の開錠が王家から許されることもなく五百年の時を経ていたようじゃが、お祭りの催しの一環でその許可が下りたと噂に聞いてな、その機会が来たと思い、下山してきたのじゃ。試してよいかのう?」
フォルン老人はそう言うと、最初から持っていた杖とは別に、年季の入った杖を異空間から取り出す。
魔法収納能力だ。生で見るのは初めてだが、とても貴重な魔法能力の一つだと聞く。これは、本当に凄い魔法使いなのかもしれない!
ヨハンは、それを目の当たりにして、期待に胸が膨らむと、
「もちろん、お願いします! 開錠してもらえたら、私も七日ぶりに睡眠が取れますから!」
と目を充血させ、鬼気迫る顔でお願いする。
「なんじゃ、お主、切迫しているようじゃのう。開錠には時間がかかるだろうから、しばらく寝ておれ。その間に儂が開くか試みるからのう」
フォルン老人は、そう言うと、杖の先をヨハンの頭に近づけた。
すると、ヨハンは、緊張の糸が切れたようにその場に倒れ込み、七日ぶりのまともな睡眠を取ることになるのであった。
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