鬱ゲー世界に悪役転生した過激派ハピエン厨
傘重革
第1話 悪役転生?知ったことか
「ここは……いったい、何が起こってんだ?」
目が覚めて視界いっぱいに広がるのは見慣れない豪華な天井だった。
首を動かして周囲を見渡してみれば、重厚な装飾、きらびやかなシャンデリア。
明らかに俺の部屋じゃない…… というか、俺の知ってるどんな家よりもゴージャスすぎる。
寝ぼけてんのか? それとも夢?
いや、待てよ……
ああそうだ、少しずつ思い出してきた。
仕事で徹夜続きの毎日、行きつけのゲームショップで買った新作ゲーム『ナイトメア・ファンタジー』を徹夜でやって……
そうだった。俺はあの鬱ゲーやりながら寝落ちしたんだ。
ああクソ、今思い出しても胸糞悪い……って、今はそんな場合じゃなかった。
寝落ちから何がどうなってこんなことになってんだ?
「まさか、な?」
ふと嫌な予感が胸をよぎる。
ゆっくりと起き上がり、恐る恐るベッド脇に置かれた鏡を覗き込む。
そこに映っていたのは、見覚えのあるブロンドヘアの少年、文句無しのイケメンだが一目で性格の悪さが伺える目つき――『ナイトメア・ファンタジー』に登場する悪役貴族、アルフレッド・フォン・レーヴェンシュタインだった。
「マジかよ……」
思わず頭を抱える。
よりによってなんでこいつなんだよ!
その名の通り、悪夢のように陰鬱な世界観を誇る『ナイトメア・ファンタジー』の中でも胸糞悪い中ボスだ。
辺境の小領を治める傲慢で冷酷な貴族で、領民を虐げ、私腹を肥やし、気に入らない者は容赦なく処刑する。
毒にも薬ならないようなテンプレ小物野郎のくせに、魔族にいいように使われて、世界崩壊に一役買うっていう救いようのないクズ野郎。
その末路といえば、物語中盤に主人公パーティーにボコボコにされて、あえなく退場。
それはもう、見るも無惨な最期を迎える……
「ってことは……俺もゆくゆくはああなるのか?」
ツーッと冷や汗が背中を伝う。
だが、そんな身体の反応と裏腹に、不思議と絶望も焦りもそれほど感じていなかった。
なんなら、死ぬことくらいはどうでも良いとさえ思う。
だって、だってだ!
ここはあの鬱ゲー『ナイトメア・ファンタジー』の世界だぞ。
バッドエンド確定の、救いようのない世界だ。
だったら──
「むしろ、チャンスじゃないか!!」
俺は重度のハッピーエンド厨だ。
どんなゲームでも、どんな物語でも、ハッピーエンドで終わらないと気が済まない。
『ナイトメア・ファンタジー』のエンディングも心底気に食わなかった
そんな世界に来たのなら、保身なんかよりも先にすべきことがある。
自分はどうなっても構わないから、この世界をハッピーエンドにしたい!
思わず小さくガッツポーズを決めて、俺はベッドから勢いよく飛び降りた。
「あ、アルフレッド様……?」
驚いたような、か細い声が聞こえる。
「ん?」
振り返ると、そこに立っていたのは、薄紫の髪を肩口まで伸ばし、メイド服を身につけた可憐な少女だった。
年は10代半ばくらいだろうか。紅色の瞳をわずかに潤ませながら、不安げにこちらを見つめている。
少女は、まるで怯える小動物のように、身体をビクビクと震わせてこちらに困惑と恐怖の視線を向けていた。
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