逃げられるものなら

何者かになろうとして

心臓を捧げてきたけれど

何か重大な勘違いをしていたらしい


学校から逃げていい

仕事から逃げていい

家族からだって逃げていいよ

それは簡単なことではないけれど

逃げられるうちは逃げていい

取り返しのつかないものにつかまる前に


逃げるのだって勇気がいる

逃げるのだって戦いだ

逃げるのなら全力で

新しい居場所を見つけなければならない

ゆっくりまどろんでいられるような

やさしさに包まれた居場所を


でも大抵の人は逃げることから逃げている

それを「逃げずに戦っている」なんて言っている

闘争と逃走のグラデーション

それもまた選択と言えば選択で

大人と言えば大人かも


けれどもそうやって戦って

心と体が傷ついて

癒せないほどに損なわれてしまったら

もうどこにも逃げ場はない


損なわれた魂はどこまでもつきまとう

周りを飛び交う小蝿のように

振り払っても

振り払いたくても

どこまでも自分はつきまとう

どこまでも自分は追ってくる

物置にしまっておくことも

誰かに預けることもできない

あの憧れの旅行先にもついてくる

休日をのんびり過ごすつもりだったのに


いったいどこで間違えてしまったのか


いいえ 人生に間違いなんてありません

あなたは少し遠回りをしただけです


嘘でもいいからそう囁いて

誰かにやさしく抱きしめて欲しい


何者かになれなくても

生きている価値はあるのだと

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