「ヴォルフ」

「はっ」


 彼がオトゥのそばに寄ると、彼女は声を潜めた。

「よいか。貴様の指揮で配下の者と共にヤマトと接触し、ここへ連れて来るのだ」

 ヴォルフは思わず口元を歪めた。

「え? 俺?」


 オトゥが無言で眉間にしわを寄せ、針で刺すような目つきをする。

 彼は慌てて付け足した。

「……っすか?」


「なんだ? 不満なのか?」

「とんでもない……っす。全ては姫の御心のままに!」


(我ながら、しつこいな。笑)


 ヴォルフは、言葉とは裏腹に、オトゥとのやり取りにいい加減辟易していた。

「こんなことがいつかあろうと、私の監修した新しい作戦艇が用意してある」

 それだけで、オトゥの拉致作戦への意欲が知れる。

「行け! ヴォルフ、日本へ!」

 ヴォルフは、思わず天井に目をやった。


(なんで、あんな男のためにそこまで)


 思わず出てきかけたため息を一心に飲み込んで、踵を返す。

 オトゥの痛いほどの視線を背中に感じながら、彼は足早に指令室を出た。

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