結婚したのにお預けなんて。待つだけは性に合わないから、行動で愛を勝ち取るのだ!
uribou
第1話
貴族の令嬢なのに行動力だけはある変わり者、とはよく言われる。
私は魔道に魅せられた。
いや、魔法を上手に使えるとかじゃないの。
魔法はセンスだね。
私みたいな運動神経のないぶきっちょにはムリムリ。
憧れはするけどムリムリ。
魔法をうまく使えないなら、当然魔道具を研究するわけさ。
魔道具だって面白い。
自分の発明品を魔法学校の教諭に見せてみた。
「これさえあればマンパワーで大量生産が可能です! 土地を有効活用できます!」
「マリエ君。君、我が国が農業国だってことを忘れてない?」
「あ……」
言われてみれば、我が国フーヴァス王国は近隣諸国に農産物を輸出してるんだった。
私が作ったのは魔力を注入することによって、作物を促成栽培する魔道具。
私は植物の栽培も好きだから。
「構想は極めて大胆で独創的だ。発想は評価Aプラスあげよう。実現可能性もかなりの努力が認められるね。効果範囲が大きく、また廉価で作れそうだ。評価Aをあげよう。しかし実用性や必要性がね、我が国ではもう一つ……」
「で、では他国に輸出するというのは……」
「どこにだね? 食物は我が国の強みだよ? 他所の国を利するのは非国民だ。国立魔法学校の生徒の発するべき言葉ではない」
「……」
ごもっとも。
隣国バセラとの関係は、フーヴァス王国の成立以来最悪と言われているし。
ギスギスしている国際関係のせいで、私の発明が評価されない。
うう、悲しい。
それ以上に卒業に必要な単位のピンチ。
しかし教諭は、促成栽培は品種改良にもメリットがあるという考えを捻り出してくれた。
で、もう少し魔力効率を上げることで、無事単位をもらった。
先生ありがとう。
魔法学校の卒業生は、国立の魔道研究所や民間の魔道具ラボに就職するのが普通だ。
しかし私マリエ・セントクレアは伯爵家の令嬢なのだ。
自分で令嬢って言っちゃうのは何だけど。
どうして伯爵家の娘が魔法学校卒なんだって?
普通は貴族学院か、さもなくば淑女カレッジだろうって?
その通りなんだけどさ。
だって私は魔法に興味があったんだもの。
うちは自由を重んじる家風と言うか。
ぶっちゃけ父様が私に甘いので、魔法学校に通うのを許してくれた。
私の唯一の長所である行動力を生かせる場と考えたのかもしれない。
父様ありがとう。
まあでも卒業すれば貴族の義務からは逃れられんわけだ。
すなわちどこかに嫁入りだ。
魔道具作製に天才的な才能を発揮して惜しまれたというわけでもないので、魔道研究所や魔道具ラボから積極的な引きもなかったし。
ここで問題発生。
私は貴族学院に通っていたわけじゃないから、令息令嬢との交流がなくて。
淑女カレッジ卒でもないから、マナーや貴族の嗜みに欠けるところがあって。
あるのは半端な魔道知識だけ。
ちゃんとした令息が娶りたいとは思わない不良品です。
父様ごめんなさい。
いや、私も売れ残りたいわけじゃない。
幸せな結婚というものに憧れているという、俗な一面も持ってるの。
変わり者をもらってくれる変わり者はいないかなあ?
いた。
美形貴公子として有名なレイモンド様。
バーナードムーン侯爵家の後継ぎ様だよ。
何でそんな優良物件が突然私の婚約者になるんだって?
おかしいだろ、どんな裏技を使った。
とっとと白状しろ?
もちろん事情があるんだよ。
レイモンド様は次男で、本来バーナードムーン侯爵家には跡継ぎとして期待されていた長男様がいたの。
ところが子をなさぬまま儚くなってしまわれて、急遽騎士のレイモンド様が跡継ぎってことになった。
当然騎士なんか辞める予定だったんだけど、今隣国バセラ王国との関係がよろしくないでしょ?
戦争になるかもってことで辞められない。
万一の場合に備えバーナードムーンの血を残すために、すぐ輿入れできる令嬢を探してたってことだったの。
まあ侯爵家に嫁入りできるだけの家格があって年回りの合うフリーの女なんて、そうそういないわけさ。
私に白羽の矢が立った。
ラッキー以外の何物でもない。
「不出来な娘で申し訳ありません」
「とんでもありません。急なことなのにすぐ対応していただいてありがたいです。マリエさんはとても丈夫そうですしね」
あれっ?
評価されてるのは丈夫な身体だけ?
いや、一ヶ所評価されれば御の字だわ。
もらっていただけるだけありがたい。
バリバリやってみせます。
ところがトントン拍子なのはここまでだった。
隣国バセラとの戦争が勃発したのだ。
きな臭いのはわかってたけど、嫁入り前にレイモンド様は出征してしまった。
私に期待されていたのは子作りだろうに、何ということ。
美形令息と公認でキャッキャウフフできる機会がお預けだ。
私にとってはアンラッキー以外の何物でもない。
おのれバセラめ、許すまじ。
「いい機会かもしれないわ。友人を紹介させていただきますね」
「お願いいたします」
そうだ、私には足りないものが多い。
レイモンド様が帰ってきた時に愛想尽かされてはかなわん。
マナーもコツコツも身につけるべし。
私はやればできる子。
またお義母様やお義姉様(レイモンド様の兄の妻。実家に帰らず、バーナードムーン侯爵家に残ってくれてるの。嫁の気持ちをわかってくれる得難い存在)に従い、社交に精を出すことにした。
「当家でも甥が従軍しているのです」
「わたくしの弟もなのです」
「新聞ではフーヴァス軍優勢という報道ですが……」
お茶会に参加し、大人しく話を聞く。
ふむふむ、御婦人方の間でも、やはり戦争は一番の関心事のようだ。
「状況がわからないのは心配ですわねえ」
「私が調べてみます」
「マリエさんは軍に伝手があるのですの?」
「私は魔法学校出身ですので、宮廷魔道士に知り合いが多いのです。当然魔道士も従軍しているはずですから、新聞とは違う情報を持っているのではないかと」
「「「「お願いしますわ!」」」」
御婦人方に期待の目で見られた。
私もレイモンド様のことが心配だしな。
差し入れを持って宮廷魔道士の事務局へ。
「先輩、こんにちは」
「おお、マリエ嬢じゃねえか。久しぶりだなあ」
「これ、つまらないものですが」
早速戦地の実態を教えてもらお。
「いや、主力同士の戦闘らしい戦闘は起きてないんだ」
「そうなの? 新聞から読み取れる印象と随分違うけど」
「まあ新聞は派手なことを書きたがるからな」
やっぱり宮廷魔道士は結構情報を持ってるみたい。
聞き出していかないと。
「バセラは速攻で勝負を決めたいんだ。何故なら食が足りてねえから。しかし我が軍が付き合う義理はないだろう? 強固な陣を構築して、バセラ主力を食い止める策を取っている」
「常道よね。でもだったらフーヴァスが負けることはないんじゃないの? バセラ軍を通しさえしなければ、いずれ撤退するはずじゃない」
「そこがバセラの狡猾なところでな。バセラの目的は、どうやら勝つことじゃねえんだ」
「どういうこと?」
勝つことが目的じゃない戦争なんかある?
「バセラがここ数年不作だってことは知ってるな?」
「知ってる。だからバセラは糧食に不安があるんでしょ?」
私が作物を促成栽培する魔道具を発明したのも、飢饉や不作をどうにかしたかったから。
お腹が減るのは一番よろしくないから。
我が国には不要扱いされたけど。
「バセラが攻めてくる。当然フーヴァスは迎撃軍を出す。そのフーヴァス軍に送られてくる輜重を奪う」
「ええ? 泥棒が目的なの?」
「そうだ。正規軍同士の戦いならともかく、バセラの遊撃ゲリラは民兵もかなり混ざってるんだ。えらく大人数だから対応しきれない。輜重も半分近く強奪されてるって話だ」
「ひどい」
そんなことになっているとは。
正規軍は前線を突破されたら勝敗に直結するから動けない。
その間にゲリラに好き放題やられてしまっている?
構造を変えないと食料を奪われる一方じゃない。
ん? 食料?
「……輜重隊の援護に魔道兵器は使えないの? 魔道具はフーヴァスの強みでしょ?」
「もちろん使えるが、投入しどころが難しいだろ。攻めるか攻めないかの選択権は向こうにあるんだぜ? やつらは勝てる時だけ襲ってくるんだ。万が一魔道兵器を奪われたら目も当てられねえ」
「わかったわ。私は戦争を終わらせる!」
「え? ど、どうやって?」
「私の発明品で!」
農作物を大量生産、奪いきれないほど運搬してホニャララ。
「ええ? 何だそれ。奇想天外な作戦だな」
「先輩はどう思う?」
「……いや、戦いか飯かの二択を迫るのは面白いかもしれねえ。バセラの意識を変えらせる可能性がある。そうでなくてもいくら食物を奪われても困らないと知らしめるのは、フーヴァスと争うことの愚かしさに思い至るだろ」
「じゃあ考えといてくださいな」
「このアイデア、もらっちまっていいんだな? マリエ嬢は自分の魔道具に関する権利を国に供出することになるが」
「もちろん構いませんわ」
役に立たないと言われた発明ですもの。
それでレイモンド様が早期に無事帰ってきてくださるなら十分。
「直ちに検討を加え、陛下に奏上するぜ!」
◇
「我々が戦争を終わらせるのです!」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
私の持つ作物を促成栽培する魔道具『おませさん』の権利を王家に譲渡した。
魔道具ラボで『おませさん』が大量に生産されると、我が国フーヴァスの農業生産力は飛躍的に増強した。
国民総出の魔力提供もあり、二ヶ月後には兵糧が積み上がる。
「マリエさん。これで戦争は終わるのね?」
「終わらせてみせます。私自身が戦地にまいります」
「マリエさんだけに任せておくのは、フーヴァス淑女の名折れだわ。我々も活動に参加させてくださいな」
「え?」
急遽『淑女連合』が結成され、私がリーダーに選出された。
バーナードムーン侯爵家の嫁だし、夫のレイモンド様が戦争に参加してるから当然なんだって。
そうなの?
もっとも私が言いだしたことなのだ。
率先してやらせていただきますとも。
『淑女連合』は王都で新作戦の啓蒙活動をお願いします。
私は護衛の騎士・魔道士及び大量の兵糧とともに戦地へ。
「リーダー、ゲリラのお出ましですよ」
「リーダーはやめてくださいよ。でも魔道探知はさすがですね。手筈通りに」
魔道士部隊から音響砲を連射!
これは敵軍近くで炸裂するとすごい音が出るというだけのもの。
殺傷力はない。
驚かせてからが勝負だ。
拡声の魔道具を使い、ゲリラに呼びかける。
『バセラの勇士達よ。我々は敵ではない。話に耳を傾けよ』
ハハッ、女声でビックリしたろ。
私は声だけは可愛いと言われているのだ。
『当輜重隊が所持しているのは、最近フーヴァスで開発された新技術によって増産された兵糧である。飢えているなら持てるだけ持っていってかまわん』
敵軍に食べ物好きなだけ持ってけと言われたのは初めてだろ。
混乱してる混乱してる。
畳み込め!
『しかし我が方の話を聞かないならば、兵糧は全て焼いてしまう。これは脅しではない』
引き出された輜重車両二台が積み荷ごと焼かれる。
もったいない、ごめんなさい。
しかしそれ以上にゲリラ達が呆然としていること。
そりゃそうだろう。
奪うべき食料が、フーヴァスにとっても重要なはずの食料が、無価値のごとく焼かれてしまうのだから。
『もう一度言う。フーヴァスは新技術によっていくらでも農作物の増産が可能になった。バセラ人の勇士達よ。盗賊のような無様なマネを晒すのがそなたらの矜持か? 我がフーヴァスは人材を求めている。移住したい者は申し出よ!』
心が揺れてるのはわかる。
が、結論はすぐには出せまい。
『よく考えよ。では糧食を配る。欲しい者は武器を捨てて並べ』
◇
最前線の陣地に着くまで、何度かバセラ人ゲリラに糧食を配った。
バセラ人も私達を信用するようになり、色々話してくれるようになった。
バセラ人を餌付けする作戦ここまで大成功。
「不作も不作なんだけれどもよ。王家が贅沢ばかりで対策を打とうとしねえんだ。商人が穀物を買い占めちまって、苦しむのは庶民だ」
「ふうん。それでバセラ王家が商人から賄賂をもらってるというオチかしら?」
「多分な。まあ不満を外に向けるために、対フーヴァス戦が企てられたってのは間違いないところだ。フーヴァスが中原諸国の食糧庫なのは周知の事実だしな」
「フーヴァスを攻略しさえすれば、腹はくちくなると?」
「そういう煽り文句だった」
「バカねえ。泥棒の推奨じゃないの。恥ずかしい。王家なら資産を切り崩してでも食料を輸入すべきだったでしょうに」
「違えねえ。だが姐さんに言われるまでは、フーヴァスから食を奪うことばかり考えてたぜ」
いつの間にやら姐さん呼びだ。
ゲリラの親分になった気がする。
「バセラの領主貴族も王家から心は離れてるはずだぜ。ただ国軍は強力だろ? 反逆者は許すなって軍を向けられちゃかなわねえから、王家を支えてるふりをしてるだけだ」
「なら軍を寝返らせれば決着ね」
「そううまくいくかい? 高級士官の家族は都にいるんだぜ? 王家に人質に取られているも同然だ」
状況はわかった。
この際後顧の憂いを断つためには、バセラを吸収してしまうのがいい。
さて、前線の陣地の到着だ。
◇
前線で睨み合っていたバセラ軍と密かに手を結んで無力化、バセラの領主貴族を次々に調略した。
食料をたくさん持ってると無敵だな。
無人の野を往くがごとく、バセラの王都に向かってゆるゆると進撃した。
一方でムダに抵抗しなければバセラ王家を公爵として遇することを通知すると、あっさりと降った。
我が軍大勝利。
バセラ軍の高級士官の家族も全員無事で、すごく感謝された。
めでたい。
「私はレイモンド様とラブラブ生活を送りたかっただけなんですよ」
「うむ。俺も責任を果たした上で退役できる。思う存分イチャイチャしようではないか」
まあ、レイモンド様ったらお茶目なんですから。
ポッ。
バセラ戦役において、勲功一位は軍人でも何でもない私だった。
ちょっとビックリ。
いや、『おませさん』の権利を無償譲渡したからだろうけど。
勇気ある女傑ということで、一躍社交界で知られるようになった。
ほとんど交流のなかった人達と話せるのは嬉しいなあ。
レイモンド様の妻として、積極的に社交に励まねば。
私の出身校として、魔法学校が注目を集めているんだって。
予算が増えたと教諭達に感謝されたけど、偶然だわ。
くすぐったいわ。
でも魔法も発達するといい世の中になるよ、きっと。
旧バセラ王国領の各領主貴族は、フーヴァス王国の統治下になったことに特に不満はないみたい。
旧バセラは街道の交差する要地があるし、大きな港もある。
併合によって大きな発展が期待できるって言われているからだ。
食も満ちるしな。
で、私はどうかって言うと。
今レイモンド様にぎゅーされてるわけだ。
幸せ。
レイモンド様も籍だけ入った結婚には思うところあったらしく。
戦地にありながら結構思い煩っていたみたい。
侯爵家の令息を悩ませる私すごい、うっふーん。
ってのは冗談として、私が戦争の解決策を持って前線まで行ったことが、レイモンド様にはツボだったみたい。
騎士の妻は戦地に赴く夫のために刺繍とかを贈るそうなんだけど、私は自分で行っちゃったからな。
刺繍が下手ってことは内緒だ。
いやでも『淑女連合』の皆さんも活動してくれてたんだよ?
王都で士気が落ちなかったのは『淑女連合』のおかげ。
私ばかり功を独占するのは申し訳ないわ。
え? 私が『淑女連合』のリーダーだから?
どうも過大評価され過ぎのような。
「マリエとはゆっくり語り合いたいのだ」
「ええ、これからは時間がたくさんありますからね」
レイモンド様が無事帰って来てくださったことが嬉しい。
レイモンド様の優しい視線に心癒される。
未来を自分の手で掴み取った充実感。
これが私の幸せの形なのだ。
結婚したのにお預けなんて。待つだけは性に合わないから、行動で愛を勝ち取るのだ! uribou @asobigokoro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。