辺境集落

 そこは最低限の文明と呼べないこともなかったし、そのうえで最低限の文化があった。少なくとも、百人ほどの人々が家畜を優先しながら、野生化した雑穀を刈り取る半定住生活を営んでいた。


 一応原始的とはいえ、刈り取り後の田起こしとタネ撒きもしてゆくが、全体に土地が冷えて枯れていることから、穀物そのものをと言うよりは、その藁を家畜に食べさせることで家畜の乳を増やし、間引くことで肉を得るのが目的になっている。

 だから、刈り取りの方法も農民のそれに比べてひどく杜撰で植え込みに入っていって穂の上の方を掴んでむしって集めてゆくだけだ。


 そんなことをすればつま先で穀物の茎を踏むことになるからほかの茎を押し倒すことになってつぎの穂が遠くなって取りにくくなり収穫量がどんどん減るわけだが、この集落の人々はそれでいいことにしている。


 右と左にあるのだからそれを取ればいいのだと。


 食うに困り、子どもの首を絞めている親まで居るのに、奇妙な話だ。

 穀物そのものが野生化しているから実りが貧しいのは仕方ないとしても自分たちで実りを減らすのは如何にも嬉しくない。


 半日ばかり先行して、夜明けとともに穀物平原を刈入れして束ねて回った。

 穂の高さには手が届かないが根本であれば手が届く。

 見渡す限り刈入れて束ねておいた。


 刃物を磨いていると集落の長に声をかけられた。

「小僧。あんな方法をどこで習った。親か」


 問われても返答に困る。

「穂をたくさんこぼさないように地に塗れないように集められれば、飢える者が減ると思った」

 そうか。と村長は去っていった。


 それで多少マシになったのかどうかはよくわからない。

 だが本当に足りない分はどこかで狩りをしてくれば足りる話でもある。

 自分の子供を殺す親というのはどうにも悲しいものだと感じた。

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