ローゼンヘン館夜半 共和国協定千四百三十一年天地始粛

 二三日子守を頼んだ娼婦たちのところでゴロゴロしたのちに馬蹄屋で荷馬車を借りて出かけることにした。

 決心がとか計略がというよりは、馬の体調を慮っての事だったし、久しぶりに女の肌に耽溺してしていただけでもあった。


 商売女達も、ガラの悪い男にも年若いガキにも賞金稼ぎの相手も慣れていたが、その全てまとめてとなるとなかなかないらしく、子連れとなるとさらに珍しく、カネの面倒をかけない客であることの幸運を笑って受け入れていた。




 生死不問の懸賞金付き尋ね人の回状をあるだけ揃えてもらってきたら、デカートの裁判所発行分だけで五百枚を越えた。通し番号は十四桁で結構番号が進んでいると思ったら、上の四桁は発行年次の二桁は裁判所次の二桁は裁判所下の街の番号で手違いで間違えにくいように事件番号は七の倍数で飛び飛びになっているらしい


 すべてが生死不問ではなく、裁判出頭命令だったり、証人喚問だったりと死体ではカネにならないものや、逆に怪我をさせると大きな騒ぎになるものもあるわけだが、それでも事件番号は結構な数に進んでおりデカートの人口を想像させた。


 賞金も上は五万タレルから始まって三百番目位は千タレルだった。

 一万タレルを超えているのは八人。

 五千タレルを超えているのは九十二人。

 相場としては二千から千くらいがひとつのボリュームゾーンでその下が八百から五百。下の方は強盗殺人。上の方は各種再犯者が多いようで脱獄や銀行強盗などの計画的組織犯罪が更に上に立つ。


 五百タレル金貨五枚と言えば銃か馬かのどちらかは買えるが、農場でまじめに働いていても貯められる額で、思いつきで命をかけるような金額ではない。

 金額の上の方から百人ばかりの似顔絵は覚えたあたりで、ふとどれくらい似ているのだろう、と疑問を感じてなんとなく集中力を欠いてきて、二百人あたりで怪しくなった。


 結局、自信があるのは上から百九十人位と数十人、いるのがほぼ確実な先に渡された四十人位だった。

 この顔を覚えておけとアルジェンとアウルムには旅の中で読ませていた図鑑代わりに渡しておいた。

 駅馬車はまだ十日ばかり来ないらしいし、馬を買うには足りないほどのカネは女に渡したままに赤ん坊二人を預け、三四日ほど土地を見て回る、とだけ伝えてアルジェンとアウルムを連れて町を出てきた。


 あながち嘘ではないが、果てなく戻らない可能性もあった。

 馬車は件の館から二リーグほど離れたところで駐めることにした。

 四五十人の集団なら当然に見張りが建っているはずだし、三分の一を超える人頭を見張りに割くとは思えないから半リーグを超える警戒網をつくるのは難しいけれど、思いのほか人が多かったり、荷馬車が通れるような道くらいは長く伸ばしてくるかもしれないと思ったからだ。


 荷馬車を見張れる位置で休憩しつつ日が落ちるを待つ間。

 ナンバーツーはお留守番。と言い含めてアルジェンに荷馬車の番をさせることにした。

 ナンバースリーの仕事はナンバーツーのところに走ること。というと、アウルムは少しムッとしたが、そのときまではマジンと一緒にいられることに満足したらしい。

 アウルムに藪漕ぎをさせ、その後をついて行くと歩哨を見つけたことを知らせてきた。


 歩哨まで立てているにしては随分たるんだ雰囲気だった。ポンチョをまとった体の下には鎧があるようには見えないし第一見張りと言うには見通しの悪すぎるところで木に寄りかかってタバコをふかしている。

 タバコのおかげでアウルムは随分前から気配に気付いていたようだし、夜の森の細い小路だというのに遠目には人影とも見えない姿が木の影に紛れそこなっていた。


 アウルムに紐や鋼線の類には触れないように鉄の匂いと火薬の匂いに気をつけるように言って歩哨は遠巻きに迂回することにする。


 歩哨は囮捨て駒の類の気配がした。

「生死不問。ヴィーゴマレンツ。千三百五十タレル。奴隷家畜殺害、窃盗と馬泥棒」

 アウルムがこちらに意識を向けてそっと言った。


「すごいな。わかった」

 意味がわかって軽く驚くとアウルムは耳と尾で返事をした。褒められて機嫌がいいらしい。


 少し迂回すると編みヒモを発見した。

 そのまま沿って進むと拳銃が二丁くくられた木があった。館を中心に大雑把に直径半リーグくらいを囲っているらしい。


 軽く木を登ってみると森の薄くなった辺りに胸壁付きの塔が見える。なるほど奇妙にカネのかかったお屋敷のようだ。


 ヒモの反対側を確かめていないので、木を伝って線の向こう側に渡ると拳銃のシリンダーを抜くだけにしておいた。仮にこれが百組二百丁あるとして、外の歩哨は銃の音を聞いたことをしらせればいいだけならだらけていても面倒にはならない。お尋ね者が野営をしていて銃声を聞き逃すわけもない。仕掛けの雰囲気から銃声は二発聞こえるのだろう。


 働きが良ければかかった獲物を確認するくらいはするだろうし、拳銃のハンマーを上げるくらいしようともするだろうが、その辺は寄せ集めの技量であればどうするかは当人に任せているはずだ。


 一人で対処できない相手の可能性ももちろんあるが、不意を打たれた侵入者の狼狽え方で対処を考える時間を求めれば、引くか粘るかは個々の判断になる。

 銃声を響かせて押し寄せれば、待ち構えている連中が館の中でお出迎え、引き上げて帰るのを待って歩哨の誰かが報告すれば、それはそれでおしまい。


 表にいる歩哨も一人二人ということはあるまいから、生死が無駄になることもない。


 なかなか巧妙だと思った。

 寄せ集めの集団に自裁を与えつつどちらに転んでもいいように仕掛けは作った上で、何かの獲物がかかると講評が行われる。


 あの仕掛けでは大風や倒木でも獣でも銃声がなる可能性はあって、確認にいかないままどこかにいる応援を求めれば臆病者扱いされるし、歩哨の誰もが聞いていた銃声を聞き逃がせばツンボ扱いされる。


 逆にかかった獲物を持ち帰れば猟果を掲げてひとはしゃぎだろう。

 マトモに知恵の回る大物が一人二人いるらしい。


 数を頼んでも殺気に曇った素人混じりでは返り討ちに合うはずだ。

 ヴィーゴマレンツのいたあたりに行ってみると二人になっていた。


「生死不問。ミケーロドミトス。千四百タレル。強姦殺人、窃盗と馬泥棒」

 アウルムの言葉に黙って頭をなでてやると耳が嬉しそうに撫でている手を叩いた。

 足元に竈が火を揺らめかせている。


 一手矢で二人を狙うとアウルムを走らせた。

 崩れる身体にとどめを刺してアウルムは死体を少し入った木の上に隠す。零れたコーヒーカップはそのままに竈の火を消すと二人は茂みを進んだ。茂みは周囲を囲む歩哨用の小路とその中心の広場とをつなぐ放射状の小路とで囲われた扇型だった。


 広場側には左右の小路と合わせて鉄柵がはられており、闇雲に駆けてきた侵入者が緩やかな袋小路にぶつかるのを館の中から狙い撃つことができる。


 これで堀でもあれば平城だなと思えば、鉄柵の向こう側は一間ほどの水路になっている。


 どうも元からこの館は自意識過剰な人物がすんでいたところを、野盗に乗っ取られたという風だった。


 五人では掃除の手も足りなさそうだ。


 鉄柵のこちらから館の様子を見ればちらちらと明かりの漏れる部屋もあり、何より二棟の塔と屋上の胸壁がすべて空であるというのは都合が良すぎるように思えた。

 小路の広場側は左右が一際高い鉄柵で囲われており、広場の入口は扉が閉まっていた。


「逃げていく連中を狙え」

 そうアウルムに言ってマジンは旗竿のような長戦斧を組み立てると茂み側の鉄柵は乗り越え、わざわざ道を塞ぐ門の扉は打ち破って広場に入った。


 押しいるやその場で胸壁に向かって矢菅まで鉄でできた矢を放ち、二人を射抜いたが胸壁のざわつきを聞けば、他にもいることがしれ、反対の胸壁でも一人射落とされたが、黒色火薬の長く響く銃声が始まった。


 それを更に一人射落とす。


 マジンは忍びこむことも考えていたが、塔と本館がつながっているか怪しい作りに一切を諦め正面から押し入ることにすると、重たく長い弓と矢筒を棄て、早馬に並べるほどの速さで一息に叫びもせず広場を駆け抜けた。

 夜目と速さに距離を失った銃弾は幾つか長戦斧で爆ぜたが、マジンには当たらなかった。


 戸口にかけるマジンの背後で銃声が続いた。胸壁の見張りはしばらくマジンを見失い、その隙にマジンが長戦斧を力まかせに戸口に振るい、鉄仕込の扉を閂ごと打ち破った。


 アウルムがいいつけとは別に胸壁の銃手を撃ったのだろう。銃弾の行方とは別に結局その僅かな間が戸口を破らせすべてを決した。

 そのまま中央の階段を登り最上階から下へ下へ殺していった。


 拳銃の装弾数の優位と奇襲効果が生きている戸口を破って数分のうちに本館四階の十二の部屋の利用者は全て死に、本館三階の制圧が終わった頃にようやく出てきた手勢を二階の踊り場から片付けるのに使った火薬の包みがおもったより多くて、鉄釘混じりの嵐が一階への階段を崩してしまったために首実検をしながらの止めには思ったよりも時間がかかってしまった。


 二階の大部屋に魔族らしきものはいたが、文字通りの肉布団のような存在で何かこう、想像していたものと違う違和感が拭えなかった。穀物のタネのような魔血晶を拾い集めると大部屋いっぱいに広がっていた花の香のする布団のような魔族は縮れるように枯れていった。


 肉布団にくるまっていた連中は高くもない賞金首ばかりだったが、皆妙に穏やかな寝顔で奇妙ないらだちを感じながら殺した。

 散発的に手元の銃で抵抗や反撃をしてくるものもいたが、戸口を狙うことがそれほど難しいのかという技量の者の方が多かったし、引き金を引いても不発。もう投げたほうが早いと空中で踊る時間の中に撃たれた者もいた。


 拳銃のパーカッション式は当たり前でも、小型化簡素化のために薬莢を使わず六連装のシリンダーを薬室として黒色火薬を直に流し込み紙の座具でいびつな鉛球を押しこみ支えグリスでフタをする。少し手入れを怠れば汗や雨で簡単に湿気り、殺したくても殺せない、当てたくなくてもあたってしまう、そういう拳銃ばかりだった。

 印象として東の方よりも武器の水準程度が低いし、管理が悪い。


 小銃の金属薬莢がそれなりに普及したのは薬莢を引き出す仕掛けを作る寸法上の余裕があったことと、なにより前装銃というライバルに対して威力で劣ることが許されないこと、そして何よりそこにカネをかけられることが、技術的な努力の結晶を産んでいた。逆に言えばカネをかけられない使い方の銃ではいまだに多くが前装銃ということになる。

 辺境に伏せる野党であればカネ回りが悪いのかもしれない。


 ステアが残した拳銃は無謀な者たちがルーレットの代わりに撃ちあう景気付けや将校が跪いた受刑者の血で手を汚さないための道具ではなく、音よりも早く鉄を貫き命を奪うための武器だった。


 当世で市販されている拳銃とは材料も機構も精度も装弾数も全く違って、間違っても不発は起こらず、指をさすように真っすぐ飛び、再装填は早く正確に行える。

 そんな武器をまさに指の延長のように使って殺していった。戸口の一切を破壊したければ重さのある長戦斧でも腰の大小でもほとんどのところで十分な破壊力を見せることができたが、単に戸口や壁や家具の向こう側のヒトを殺したいというなら拳銃で十分だった。

 相手の使う回転弾倉から転がり出る黒色火薬のソレとはちがって、鏃を細くねじり込んだような尾部を裁ち落とした紡錘形をした弾丸は失速したコマのように曲がって飛ぶことはなかった。


 マグヌス効果とかライフリングとかをそれと知って目で見ていることを理解した。

 ホコリの舞う月明かりの中、雑多な銃から放たれる雑多な銃弾は、それぞれ全く異なる挙動を見せる。


 夜目の中でも集中して銃口を追えるなら指先より大きな歪な鉛球があまり綺麗な円形をしていない銃口から転がり出るように音速の壁に遮られながら渦を孕んでいるのが見えたし、体勢さえ十分なら腰の大小いずれでも鉛球を渦ごと切り飛ばすこともしてみせた。なにかに酔ったような奇妙な高揚感と全能感はかつてステアの呪いの元を絶とうとしたときににているが、それよりも遥かに鮮烈な確信を伴った形で五体を駆けた。

 打ち破った戸口から漏れる月明かりといくらかの灯火で廊下の左右は十分に見渡せた。


 白刃両手に抜き放ったマジンを挟み、同士討ちを恐れない如何にも自分本位の銃口の列は辛うじて散弾銃がない程度の連帯の慎ましさを持っていた。こちらの刃を恐れたのか左右を二息で平らげる間合いではなかったし戸棚や机を盾にしている者もいる。

 得物の型が揃っていない雑多な様子から、集団が如何にも軍勢としては寄せ集めであることが分かる。それでも過去一回は防衛に成功し反撃に襲撃をしたという事実は、機能としては十分ということだろう。


 左右それぞれでまとめ役の必殺を期した、放て、の合図でバラバラと銃口が火を吹いた。

 不発もあるようで揃ってもいないようだが、それでも構わないという笑みがそれぞれから伝わった。

 自分には流れ弾は当たらないという歴戦の悪党どもらしい態度だった。

 実のところ銃口は見渡せなかったのだが、黒い火薬の煙の煤と火の粉が輝くように弾丸の進路を示してくれていた。一際早く飛び込んでくる小銃弾を切り払い、さらに右二つ左三つを捌ききればよかった。みる間に右四つ左二つ増えたが、一息に捌ききった。


 バケモノ、と狼狽え罵る声もあるが、内心で同意しているので薄く笑うしか無い。

 小銃弾は初めて見たが十分に見切れ、捌ききれる。

 或いは小銃を押し並べ軍隊張りの統制射撃であれば捌ききれることもなかったろうが、適度な明りに照らされた煙がしずかな空気の中で弾丸の航跡を示している幸運が助けている。

 殆どの弾丸はもちろん予め撃たれた瞬間に的を外すように飛んでいたわけで、危険な弾丸は僅かだったわけだが、曲芸の威圧効果は覿面だった。


 弾が残る間に流石に背中を見せるわけにもいかず、さてどうしたものかと曲芸公演を続けていたが、どうやら一同の拳銃から銃弾が尽きたようだった。


 まずはこの中では危険そうな金属薬莢を贅沢にも使っていた後装小銃を持っていた千二百タレルのマギスロイア氏の心臓を貫くことにした。罪状は確か妻を含む複数名の殺人。

 あとは記憶にある高そうな懸賞金の心臓を貫いていくだけだった。

 少し前より人数が減っているみたいで逃げ出した者たちも幾分いるようだったが、それはそれで構わなかった。外から数を教えるような拍子で銃声が響いている。


 ふと思い立って稚気を出してみた。

「さてみなさん。この場で全員死んでくれたほうがボクの都合は良いんだけど、敢えて降服するというヒトは武器をその場に捨てて玄関まで来たまえ」


 そう言って鞘に太刀を収めようとしたところでクイックドローの勝負に出た気骨のある挑戦者が二人。二人合わせて八千二百タレル。流石に三千を超えると気合の入った悪党どもになる。


 一人は投げつけられた太刀に顎から胸まで割かれ、もう一人はハンマーコックのモーションの途中で胸を撃たれた。余計に一人巻き添えになったが誰もなにも言わなかった。


「次の挑戦者の方~」

 そう言いながら脇差しを鞘に戻し、投げつけた太刀を拾うが、男たちは静かなものだった。


 生きて降服した男たちは十六人いた。

 結局、マジンは自分の言葉通り、男たちを生かしたことで余計に苦労することになった。


 見張り塔の上から逃げる盗賊の流れがなくなったことに納得したアウルムがやってきたのに館の中を捜索することを命ずる。


 朝になって生きた女二人と男一人を縛り上げ他に死体を五つ並べた荷馬車でアルジェンが館の玄関先にやってきた。どういうわけか館にいた結婚詐欺と重婚で証人喚問の男女で殺さないように生け捕ったらしい。なにがあったのかアタマからパンツを被せられている。


「随分生け捕りにしたけど、みんな生死不問。懸賞金総額五万一千五百タレル。三千タレル以上が五人もいる。トップはジーグミジェッタ、八千四百タレル、銀行強盗」

 アルジェンの不思議そうな言葉にミジェッタはピクリとしたがなにも言わなかった。


 アルジェンにも館の捜索をさせることにした。

 しばらくするとアルジェンとアウルムは男と女をそれぞれ捕まえてきた。

 二十一人か。


 少し多い。


 五万四千七百五十タレルになった。


 男たちは三人が三人とも子供であることに驚いたが、一番騒がしい八百七十五タレルの男の胸を派手な音で蹴りつけてやれば静かになった。


「ボクが面倒くさく感じたら殺す。お前らから欲しいものは何もないから、聞きたいこともない。お前らの家族のことも興味はない。死にたければ、騒いでいろ」

 如何にも生意気な小僧のいいそうなセリフだが、鼻息と衣擦れが聞こえるほどに静かになった。


 アタマのネジの抜けた連中との付き合いもあるならず者には、ならず者なりの処世術があった。


 夜更けの押し込みの最後を飾った降服への一幕をもあれば、返り血を楽しんでいるようにさえ見えるマジンの有様は断首塔と大差なく見えた。


 この中の誰かが拳銃を隠し持っていたとして、不意をつこうとしたらもろとも全員が死ぬだろうと誰もが思い、小賢しいバカの動きを防ぐような奇妙な連帯感があった。

 幾人かは当然のように隠し銃を持っていたが、必殺も脱出も算段の見えない時に使うものではなかった。


 あぐらの形でベルトとズボンで男たちを縛り上げていたマジンは無造作に一人づつ抱え上げ、馬車の骨に縛り付け目隠しをする。瓦礫から拾われた金釘や石などの凶器を取り上げ、釣り上げ伸びた戒めを締め直して動けないようにしてゆく。


 幸か不幸かその過程で隠し武器はほとんどが見つけられてしまった。


 縛り付けられた上からリネンを重ねて被せて日よけ雨よけを作ってやって臨時の護送車が出来上がった。

 アウルムに館にいた馬を二頭使わせて先行させてヴィンゼの役場に掃討が終わったことを知らせることにする。


 なにをどうやっても馬で丸一日、馬車なら一日半、徒歩なら三日。往復ならそれを倍にしたものに手間を足した分だけ時間がかかる。町から応援が来るとして揉めなくても最低三日かかることになる。


 ついさっき自分の口から出た言葉がそのまま本当になったことに面倒臭さを感じる。


 荷馬車の中では捕らえた連中が口々に色々言っているが、アルジェンは取り合わず、たまに銃をリネンの上で鳴らした。

 休憩中、急にふと思い立って、無言のまま馬車を館に取って返す。


 アルジェンは素直に従った。


 生き残りの中に脱獄犯がいたことでさっさと引き渡したくて移動を始めたわけだが、運良く逃げ散った者たちの一部が帰ってくることは予想できたし懸念もしていた。


 幾つかの方向に伸びている道が何処に通じているかは知らなかったし、町の地図にもなかったが、盗賊稼業をやっていれば、追手を撒くためや散ったときの集結や或いは取引のために拠点のそばに通じているのだろう。


 百人からの食料をどこからかどうやってか運び込む必要もあるし、そうあるためには襲われた集落ヴィンゼの規模は小さすぎる。


 この館の位置は盗賊の拠点としては堂々と知られすぎていて、山狩りを返り討ちにしたとはいえ、いずれは力押しで攻め切られることも考えてはいたはずだ。

 応援が来るかもしれないし、偵察が来るかもしれない。


 どちらのどういう立場であっても話が通じる相手が来ると予想するのは虫が良すぎる。

 そうでなくても、一旦逃げた連中が屍肉漁りに戻ってくるかもしれない。

 昼前には森に包まれた広場への小路に戻っていた。


 マジンは馬車を門扉の外の小路の左右の柵が迫る手前で止めさせると馬をアルジェンに預けた。そのまま一人で厩舎に向かうと馬が二頭増えていた。

 予想通りだった。


 馬の主を待つ間に更に四騎がやってきた。

 中でくつろがれると厄介だと思いながら焦れる。


 新たに来た四騎は厩の外の水場に手綱を預け、思い思いに館に散る算段をつけていた。

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