徒然
@stranger2ex
第1話 猫
2024年9月9日
今日は少し特別な瞬間に立ち会った。
建屋の裏でぼんやりと竹林を眺めていた時、ふと物音がした。何かが落ち葉を揺らすような音だ。視線を向けると、茶トラの猫が静かに葉の中に飛び込んでいった。私は、猫が前足で何かを捉えたように見えた。瞬間的な動きだったが、その動作に確かな意図を感じた。次の瞬間、猫が何かを咥えた。ネズミかもしれない、そう思った。距離があったので細部は見えなかったが、その動きと猫の集中した様子から、それが獲物であることを確信した。カメラのズームで確認した画素が荒く明瞭ではないが、その猫の右顎からは細長いしっぽが垂れている。小刻みに呼吸をするように痙攣するカタマリは、柔らかそうな質感をしていた。
猫はこちらをじっと見つめている。数秒、いやほんの一瞬だったかもしれないが、目を見つめあった気がした。その後、猫はゆっくりと車の影に移動し、狩った獲物をモシャモシャと食べ始めた。その食べ方は確かに「喰む」という表現がぴったりだった。ただひたすらに、じっくりと噛んでいるようだ。味わうためなのか、飲み込むためなのか、消化のためなのか、排泄のためなのか。少なくとも、遊びのためではない。生きるための活動の一部だ。なんどか喉の奥に入れ、アスファルトにおきなおし、さらによく噛む。丁寧に骨を砕いているように見えた。
その光景を数分間、ただ静かに見守っていた。猫が獲物を仕留める姿をこんなにも間近で目撃したのは初めてかもしれない。なぜか心が落ち着いていた。ここ数日、何かを観察することに意識が向いていたからかもしれない。友人の部屋にネズミが出たという話を聞いたり、狩人の漫画で動物の観察に関するエピソードを知ったりしていたことも、今日のこの出来事を敏感に捉えるきっかけになったのだろう。
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