第97話 武器庫

 棚にはまばらにしか物は置かれておらず、倉庫の在庫としては少々寂しい感じもするが、置いてあるものの物騒さが寂しさを上書きしていた。

 勇が感じた通り、やはりそこは武器庫と呼ぶのにふさわしい部屋だった。


「これは、少し外装が違いますが雷玉ですね。魔法陣も読めるので間違いないです」

 最初に確認したのは、最も数が多かった円筒状のものだ。

 猫の獣人の迷い人であるワミ・ナシャーラの手記にも、雷玉はここで見つかったとの事だったので、予想はしていた。

 魔法陣の内容も船上で見たものと同じなので、武器庫の外にあった同型のものが回収されたのだろう。


「こっちは……うわ、これは手榴弾か!? あーー、だから外装が雷玉より硬くて分厚いのか……」

「しゅりゅうだん?」

 横で勇の検分を見学していたエトが尋ねる。

 ちなみに他のメンバーだが、アンネマリーはエトと同じく勇の検分見学、ヴィレムはこんな機会はめったにないと、先程の点検口の中にあった魔法具の魔法陣を見に行っている。

 また、騎士達は2名を部屋の外の見張りに残し、他の4名は剣に飛びついていた。

 

「ええ。爆裂の魔法を魔法具にしたもの、と言えば分かりやすいですかね? コイツはこの金属の筒の中に爆裂系の魔法陣が入ってます。で、爆裂の衝撃で外装の金属が砕けて周囲に高速で飛び散ります。爆裂の衝撃に加えて、この金属片で打撃を与える魔法具ですね」

「それは中々にエグそうな魔法具じゃな……」

 エトが眉間に皺を寄せる。


「そうですね。元の世界でもよく使われていたタイプの武器だと思います。これは手で投げるか投石器のようなもので投げるのだと思いますが、元の世界だとより遠くへ飛ばすために別の爆裂する装置と組み合わせたりしていたはずです」

 いわゆるグレネードランチャーだ。派生・進化したものも多く大小様々、破壊兵器としてはポピュラーなものだろう。

「これはあまり広めたくない魔法具の一つですね……。自分達だけで使えれば、かなり強力な武器になりますが、相手に使われたら大変ですよ……」

「確かにの……。外で発見されたのが、雷玉のほうで良かったの」

「ほんと、そう思います」

 ひとまず持ち帰りはするが、どう扱うかはセルファースとよく協議する必要がありそうだ。


「これは何だ?? 魔法陣自体はこっちの手榴弾と似た爆裂系だけど、外装も薄いし……。何よりこの細かい粉は何だろう? 金属粉っぽいけど……」

 次にバラしたのは、丸型の金属球だった。

 野球ボールとソフトボールの中間くらいの大きさで、中心に爆裂系の魔法陣が配置されており、それ以外の空間は謎の金属粉が詰められていた。


「爆裂させるって事は、広範囲に粉をバラ撒きたいのか? あー、後は何かアルミの粉末で焼夷弾みたいなのが作られてるって、化学の時間に習った気がするけど……」

「コイツは粉が何の金属か分からん事には、迂闊に試さん方が良さそうじゃな……」

「そうですね……。それか、帰りに岩砂漠の人気のない所で試すかですね」

 形状的に投擲する前提で作られているので、ある程度の距離さえ確保できれば大丈夫だとは思うものの、念のためである。


「使い捨てっぽいのはこの3種類だけですかね」

「うむ」

 3種類の投擲武器(仮)の検分を終えた勇とエトは、無言で棚の一角に目をやる。

 そこには、蓋を開けた箱の中から大量の無属性の魔石が顔を覗かせていた。


「まぁ、サイズ的にこの投擲武器の起動用だと思うんですが……」

「うむ。つけっ放しにして万一誤作動したら大変じゃからの。ただ、なんで使い切ったヤツばっかなんじゃ?」

「ですよねぇ……」

 エトの言う通り、魔力が抜けてすりガラスのようにくすんだ無属性の魔石が、わざわざ蓋付きの箱に収められているのだ。

 魔力を使い切った魔石は、それ以上は使い道が無いので基本的に廃棄される。

 色付きのものであれば外壁や庭の装飾に使われることもあるが、クズ魔石たる無属性魔石をわざわざ使うようなことはまず無い。


「何か再利用しようとしていたんですかねぇ……?」

「どうなんじゃろうなぁ……。まぁ考えて分かるもんでもないし、次は剣と鎧を検分するか」

「そうですね。そうしましょう」

 いつ魔物が襲ってくるかも分からないので、続いて騎士達が飛びついていた剣を見てみる。


「ああ、イサム殿。そちらは終わりましたか?」

 勇とエトとアンネマリーが歩いてきたのに気付いたフェリクスが声を掛けてきた。

「はい。雷玉と爆裂の魔法具、もう一つはちょっと現時点では分かりません」

「おお! それではまた二つ、新たな魔法陣を発見したということですよね!? 探索した甲斐がありましたな!」

 いつの間にか織姫を抱えていたミゼロイが、どっちが理由か分からない笑顔で言う。


「今回は敵の数も多い上、何泊もしてますからね。騎士の方達には感謝ですよ」

「いやいや、魔法コンロと足湯、そして何よりイサム殿の料理のおかげで快適でしたよ? 騎士団の遠征と比べたら天国ですよ! いやぁ、専属護衛になってホント良かった」

 横で話を聞いていたリディルが嬉しそうに言う。

「リディルはずるいっす。私も専属護衛に入りたかったっす! そうすればオリヒメ先生もモフり放題っす!!」

 ティラミスが頬を膨らませて抗議しているが、理由が理由だけに子爵家の騎士団が心配になる。


「さて、じゃあ剣から見てみますね」

「「「「お願いします(っす!)」」」」

 真っ先に剣に飛びついた騎士達ではあったが、起動させるのは自粛していた。

 大丈夫だとは思いつつも、下手に起動させて何かあったら大変なので、勇の検分を待つ程度の分別はああ見えて皆備えている。


「ん~~」

「「「「どうですか?」」」」

 勇が剣を鞘から引き抜き、魔法陣を検分する。

 刀身が短めなので、いわゆるショートソードに分類されるだろうか。魔法陣は刀身の根元に描いてある。


「あ~~、すみません。これは読めない魔法陣ですね……。雷の魔石が嵌ってるようなので、いくつか予想は付きますけど……」

「読めませんかぁ」

「まぁ、使い捨てではない可能性が高いという事でもあるな」

「これも、外に出たら試してみましょう」

「「「「了解|(っす)!」」」」


 残念ながら解読できなかったショートソードを脇に置き他の剣も確認していくが、全て同じ魔法陣が描かれているようで、残念ながら解読できるものは無かった。

 続いて勇は鎧を手に取る。鎧は一番数が少なく、2着しかない。

「軽いな……。金属っぽくはないけど、プラスチックとかそっち系か?」

 やや光沢のあるプラスチックのような素材で出来たそれは、部位ごとに分割された防護用パーツを繋ぎ合わせるようにして出来ている。

 勇の感覚だと、鎧よりプロテクターと言ったほうが違和感がない。


「うわっ! これは凄いな…………」

 勇が防護用パーツの裏側を見て絶句する。

「ん? どうしたんじゃ? うおっ、確かにコイツは……」

 驚きの声を上げた勇の横から覗き込んだエトが、同じく絶句する。

 そこには、細かな紋様がびっしりと隙間なく描かれた魔法陣があった。


「これは読めるには読めるんですが、複雑すぎてちょっとすぐには解読できなさそうです……」

 目を瞬かせながら勇が言う。

「お前さんがすぐに解読できんと言うのは珍しいの。それだけ複雑という事か……」

 エトが勇の台詞に驚く。


「ええ、これはヤバいですよ。何やら色んな種類の外部パラメーターの取込みと、それを使った複雑な条件判定式、そして条件ごとに異なるこれまた複雑な挙動……。いやぁ久々に骨のあるアルゴリズムに出会いましたよ~。解読のしがいがあるってもんです」

「そ、そうか。そいつは良かったの……」

 複雑すぎる魔法陣を前に、うんざりするどころか嬉々としてそれを語る勇に、エトが若干引き気味で返答する。


「これは持って帰ってじっくり解読します。なぜコイツが読める魔法陣なのかは分かりませんが、これ一つで相当勉強になりそうです」

「ふふふ、良かったですね! 初めて読める魔法陣を見つけた時と同じ顔をしていましたよ? やっぱりイサムさんは、その表情が一番ですね」

 隣で見守っていたアンネマリーが、ニコニコしながら勇に言う。

「あはは、もうこれは職人の性でしょうね……。でもきっと役立つものが作れると思いますよ!」

 対する勇が、頭を掻きつつ照れ笑いを浮かべた時だった。


「うわぁぁぁぁっ!!!」

 少し前まで点検口で魔法陣を鑑賞し、武器庫内へ戻ってきたヴィレムの悲鳴が聞こえる。

「どうしましたっ!!?」

 武器庫内にいた全員が慌てて声のした方へと駆け寄る。


「う、うう、腕がそこにっ!」

 広い倉庫の壁際で、半分腰を抜かした状態で前方を指差すヴィレム。

 全員が釣られて指差されたほうを見てみる。


「うおっ」

「なっ」

「ひっ」

 皆が口々に驚きの言葉を口にする。


 果たしてそこには、地面から生えるように大きな腕が、カンテラに照らされ浮き上がっていた。


「何じゃ、これは……」

「腕、ではありますが……。大きくないですか?」

「ああ。それに鎧をつけとりゃせんか?」

「確かにゴツイですね……。まぁ流石に本物の腕ってことはないでしょうし、魔物でもなさそうですから、ちょっと見てきます」

「お供します」

 ある程度落ち着きを取り戻した勇とフェリクスが、腕に向かって歩いていく。


「やっぱり大きいですね……。この前のオーガくらいですかね?」

「ええ、それくらいの大きさだと思います」

 目の前で見ると、人の二倍くらいはありそうな立派な腕だった。

 エトの言う通り、手の甲、前腕、上腕を鎧のようなものが覆っている。


 よくよくそれを見た勇が、ふと呟いた。


「…………これ、ロボットじゃないのか??」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る