第24話 魔力量の把握と最適化
柔らかくて温かいものがお腹に乗っている感覚に気付き、意識が覚醒していく。
頭の芯がぼーっとしているが、何となくベッドに寝かされているようだと言う事が分かる。
「むうっ……」
「……ん! ……さんっ!!」
もう少し意識をはっきりさせようと身じろぐと、勇を呼ぶような声が小さく聞こえたような気がする。
「イサムさんっ! 大丈夫ですか!?」
声の主を意識した途端、はっきりと自分を呼ぶ声が耳に飛びこんできた。
ゆっくりと目を開けると、まず目に飛び込んできたのはお腹の上で丸まっている織姫だった。
「にゃう~~」
勇の目が開いた事に気付くと、小さく鳴きながら体の上を歩いてきて鼻の頭をひと舐めし、また胸の上で丸まった。
「ふふ、重いよ織姫」
小さく微笑みながら、胸の上の愛猫の後頭部を優しく撫でた。
「イサムさんっ! 気が付いたんですね! よかった……」
続いて枕元から、先ほどから自分の事を呼んでいた声が、また聞こえてきた。
「ああ、アンネマリーさん。どうしてここに……」
そこまで言ってから、ようやく記憶が蘇ってくる。
「そうか、魔法を使ってたら急に意識が遠くなって……」
「はいっ!
そう言うアンネマリーの目には、涙が浮かんでいた。
「すみません、ご心配をおかけして……。そうか、魔力が切れるとこうなるんですね。魔力の無い世界にいたので、全然分かりませんでしたよ、はははー」
「いえ、ご無事で何よりです。2鐘程眠られていたので、魔力は回復していると思いますが、お身体は大丈夫ですか?」
「そうですね、少し頭が重いですがもう大丈夫です」
「良かったです。昔から、
「らしい、ですか?」
「はい。これまでまともに使えた人がいなかったので、魔力の消費量がよく分かっていなかったんです。ただ、全身を同時に強化する魔法なので、魔力の消費は多いだろう、と」
「あーなるほど。確かに体全体で魔力を使っていたような感じでしたね……」
「そうなんですね。でもこれで、やっぱり魔力消費が本当に大きい事が証明されました」
「ええ。魔力量の調整も出来ないまま、全身の魔力を使う魔法を使ったから、きっと全力で魔力を持ってかれたんでしょうね」
「そうですね。もの凄い効果で常時消費型の
「ああ、確かにウォーターボールとかで練習してた時は、そんな感じでしたね。でもこれで、全身に流れている魔力を視れるようになりましたからね! 発動さえさせなければ、魔力の操作の練習が効率よく出来そうです」
「ふふふ。魔力切れで倒れたばかりだと言うのに、全く懲りないんですね、イサムさんは」
そう言ってアンネマリーが優しく微笑む。
「あははは、念願の魔法ですからね! このチャンスを逃す手は無いですよ」
「頑張ってくださいね! 私も応援しますから。でも、くれぐれも無理しないようにしてくださいね!」
「はい。ありがとうございます」
「では、私はイサムさんが目覚めた事を両親に伝えてきますね。マルセラも自分のせいだと青くなってましたから、聞いたら安心するでしょう」
そう言って、アンネマリーが退室していった。
(イサムさん、か……。ようやく様付けじゃなくなって良かったけど、あまり心配させないようにしないとな……)
はじめはマツモト様で、それがイサム様になり、ようやくイサムさんになった。
何かと気にはかけてくれていたが、どこか壁のようなものを感じていたのだ。
今回それが、ようやく無くなったような気がして勇は嬉しかった。怪我の功名と言う奴だ。
(よし、ますます頑張ろう!)
勇は、そう決意を新たにするのだった。
それからの勇は、まさに水を得た魚だった。
発動前の状態はそう長くは持たないし、発動させる魔法のイメージをある程度持たないと、発動用の魔力に変換がされない。
魔力を動かすことを意識すると、どうしても最初の魔法のイメージが甘くなり、魔力の変換が止まってしまう。
なので、一度の挑戦で使える時間は10秒程度だ。普通は、決して効率が良いとは言えないし、ぶっちゃけ苦行のようなものだ。
しかしコツコツと検証を行う事が好きな勇にとっては、何も問題無かった。
むしろ、魔力が操作出来るとそれがはっきりと確認できることで、モチベーションはうなぎ登りだ。
そして
ちなみに直近の二日間は、もう少しでコツが掴めそうと言う事で午後も魔力操作の訓練に当てた。
そのため、魔法具担当のエトが大きく不満をこぼし、逆にアンネマリーがご機嫌になったのだった。
そして、魔力操作のコツを掴んでからさらに5日。今日も裏庭で、イサムが魔法の練習を行っていた。
引き続き魔法の練習に時間を多めに割いていたが、魔法具工房での時間もある程度は確保する。
そうしないとエトが拗ねるのだ。
しかし、機能陣の本格的な解読に着手するような時間は無く、起動陣のマイナーチェンジやその実験を行っていた。
『水よ、無より出でて我が手に集わん
勇が魔法を発動させると、野球ボール大の水球が突き出した右手の掌の前に現れる。
「見事ね……それでどれくらいの魔力量なの?」
腕組みをして、心底感心しながらニコレットが問いかける。
「今の所コントロールできる最小の量がこれですね」
「分かったわ。じゃあ次は……、そうね、今のの5倍くらいの魔力を込められる?」
「やってみます!」
そう答えた勇は、一度魔法をキャンセルすると、再度魔法を発動させる。
今度は、大きめのバランスボールほどのサイズの水球が顕現する。
「これで5倍くらいだと思います!」
「んーー、大きさは10倍くらいになってるわね……。ありがとう! いったん休憩して頂戴」
「了解です」
流石に大きさが大きさなので、急に解除はせず地面すれすれを少し先まで動かしてから解除する。
ばしゃあ、と水球が形を失い、まわりが水浸しになった。
何をしているのかと言うと、ある程度魔力操作が出来るようになった勇が、魔力量を調整する練習をしていたのだ。
ようやく魔力の操作が出来るようになったとはいえ、まだまだ精度は甘い。
特に使用する魔力の量をコントロールできないと、魔力切れを引き起こすだけでなく暴発の恐れもある。
なので、比較的安全な魔法で数値化した魔力を込める練習をしているのだった。
最初は、あまりに漠然とし過ぎていて多いか少ないかくらいしか調整できなかったのが、
今ではコントロールできる最小単位を1として、その倍率で量を調整できる所まで来ていた。
この世界の人たちは、生まれた時から魔力が当たり前にあるためか、あまり魔力を定量化する事はしないらしく、最初は勇のやり方に驚いていた。
勇からしたら、「だいたい3倍くらい」とかで本当に3倍の魔力を込められる事の方が信じられないのだが……。
また、魔力量の調整が出来るようになってもう一つ便利になったのが、自分の魔力量を定量化出来た事だ。
こっちに来て最初にステータスを計られたときに、魔力は105とか言われはしたが、全く実感のない無意味な数字だった。
平均が100らしいので、ほぼ平均値と言う事にはなるのだろうが、それで何が出来るのかこれまで分からなかった。
ところが、魔力をコントロールできるようになり、意識して使える最小の魔力量を1とすることで、勇の魔力は勇の中で完全に定量化された。
本当は、最低魔力でぶっ倒れるまで魔法を使うのが最も正確に魔力量が測れるのだが、前科があるため却下。
代わりに、「魔力の残りが半分を切ると、身体が怠くなってくる」と言う、この世界で常識となっている経験則を使っている。
その手法で計測した結果、勇は最小魔力の魔法31回前後で、体が怠くなってくることが分かった。
枯渇するまで無理をすると、60回ほど使える計算となる。
一方、同じような測り方でアンネマリーが測ったところ、45回前後で体が怠くなるらしい。
およそ勇の1.5倍程度ある事にはなるが、最小単位が勇と同等とは限らないため、絶対量の比較はできない。
しかし、実用面を考えると、「その人の最小魔力の魔法が何回使えるか」のほうが、運用しやすいだろう。
ちなみに”森の魔女”の異名を持つニコレットは105回前後と、文字通り桁が違った。
本人は「魔力量の違いが戦力の決定的な差では無い」と、某赤い彗星のような事を言ってはいたが、小鼻が膨らんでいるのを勇は見逃さなかった。
こうして魔力操作を覚え自身の魔力量を把握した勇はようやく満足し、翌日からは当初の予定に戻し、午後の時間を全て魔法具の研究に充てることにした。
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