第22話 ねんがんの ゴートゥーぶんをてにいれたぞ!
「よっしゃーーーーー!!! やっぱりGOTO文はあったんだっ!!! 父さんは嘘つきじゃなかった!!!!」
勇のハイテンションな叫びが、工房に響き渡った。興奮のあまり、台詞が某天空の城風だ。
すぐ近くで、省エネ魔法陣を描いていたエトが飛び上がる。
「ふぉっ!!? なんじゃっ!? どうしたっ!!?」
「エトさん、これを見てください! ついに、念願の、GOTO文を手に入れたんですっ! ほらっ、これ! しかもラベルまで使えるっ!! はあぁぁ、嬉しいなぁ……」
エトに、GOTO文だと言う場所をぐいぐいと押し付けるが、当然エトには読めるわけもなく、困惑する一方だ。
「構造化はされてないしサブルーチンも無いし関数なんかも無いけどとりあえずGOTO文があれば何とかなる後は書く方が間違えずに書けば無限ループにもならないし」
「ええぇいっ! いい加減に落ち着かんかっ!!」
「っ!!!」
言葉からついに句読点が無くなってしまった勇に、業を煮やしたエトがついに怒鳴り声を上げる。
雷鳴のような一喝にようやく我に返る勇。
「はっ!? 俺は何を??」
「まったく……。で、何が見つかったって? ごーつーぶんとはなんじゃ?」
「ああ、そうなんですよ。GOTO文が見つかったんです。簡単に説明するのは難しいんですが、これで出来ることが100倍くらいになったと思ってもらえれば良いですね」
「はあぁぁ!? 100倍じゃと?」
「はい。冗談ではなくそれくらい一気に可能性が膨らむのがGOTO文なんですよ。あーー、そうですねぇ……、今まで火が無かったのに、火を使えるようになった、くらいですかね?」
「むぅ、火が使えるか使えないかの差か……。そりゃ確かにとんでもないな……」
「でしょ?それくらいの発見なんですよ。例えば……。これまでって、あまり小さい魔石って、魔法具には多分使えなかったんじゃないですか?」
「うむ。魔石は基本、大きさが魔力量と出力に直結するからな。あまり小さい魔石は使えんのじゃ。精々粉にして魔法インクに入れる程度じゃから、二束三文じゃの」
「ですよね? それが、このGOTO文があれば、使えるようになる可能性がある、と言ったら?」
「なんじゃと!? どういうことじゃ??」
勇の発言に、思わずエトが前のめりになる。
「まぁ、実験もしていない机上の空論ですし、いろんな制限なんかも当然出るでしょうけど……。少なくともこれまで見向きもされなかったものにも、新たな活用方法を見いだせるのは間違いないです」
そもそも小さい魔石が使えないのは、魔力の出力が足りないからだ。
しかしこのGOTO文と、先に見つかっていた魔力変数を組み合わせることで、疑似的に出力を上げる事が出来る可能性がある。
どう言う事かと言うと、コンデンサのように魔力変数に魔力を一時的に蓄えるのだ。
例えば、発動に10以上の魔力が必要だったとする。
魔力を5しか出力する事が出来ない魔石を普通に使っていたら、永遠に発動しない。
しかし魔力変数を使って、
①魔石から魔力を5取り出す
②魔力変数に入れる(0+5=5)
③魔力変数に魔力が10以上入ってるかチェック
④5しか入っていないので①の処理へ
①魔石から魔力を5取り出す
②魔力変数に入れる(5+5=10)
③魔力変数に魔力が10以上入ってるかチェック
④10入っているのでOK
⑤魔力変数の魔力を使って発動
と言うアルゴリズムを組めば、本来動かないはずの、魔力が5しか流れない魔石で動かせる可能性があるのだ。
ここでポイントになるのが④の処理だ。
①の処理へ飛ばす事が出来るGOTO命令のおかげで、繰返しの処理が可能となる。
例のように流れる魔力の値が分かっていれば、同じ処理を続けて書く事で似た結果にはなるが、ワンオフでは無いので魔力の量は分からない。
しかも繰り返し書く事で魔法陣もどんどん大型化してしまう。
それらを解決できるのがGOTO文なのだ。
「もちろんこれは、あくまで例の一つです。もっともっと、無限の可能性を秘めているものが見つかった、と思っていただければ」
「ほぅ、正直俺にはまだ凄さが良く分かっておらんのじゃが、イサムがそこまで言うなら凄いんじゃろうな」
「はい。必要だった最後の一つを手に入れたので。これで、私の元の世界での知識が役に立てられるはずです。もっとも、現時点では魔力変数にどれくらいの値が貯められるか不明ですし、蓄えた魔力も一度使えば無くなってしまうはず……。色々と検証が必要ですね……」
「うむ。しかし僅か7日でこの成果じゃ。そんなに焦る必要はなかろう」
「あははは、そうなんですけどね。最初は役に立とうと必死だったんですが、どんどん楽しくなってきちゃいまして……。今もどんな事が出来そうか考えるだけでワクワクしちゃってます」
苦笑しながら申し訳なさそうに言う勇に対して、エトはニヤッと笑いながら答える。
「なに、それがモノ作りをする人間と言う物よ。お前さんがな、初めて魔法陣を見た時からワシらと同類じゃと確信しとったんじゃ。かっかっか。これから楽しくも忙しくなるぞい?」
「あはは、バレてましたか。そうですね。ひとまずこれで起動陣の分析は終わったので、いよいよ機能陣を本格的に調べてみます。合わせて、もっともっと沢山の魔法具を見たいですね」
「そうじゃな。嬢ちゃんに言って、まずは街中の色んな魔法具を見て回るのが早そうじゃな」
「ええ。いちいち全部買ってたんじゃ破産するので、見られるだけでも十分です」
「そういう事なら、他の街へ見に行くのも手じゃな。この街は魔法具を作ってこそいるが、高級品や限定品、アーティファクトの類を見ることは出来んしな。アーティファクトならカレンベルク領のベルクーレ、高級品ならフェルカー領のフェルッカ辺りが本場じゃな」
「カレンベルク……、フェルカー……。どこかで聞いたような名前だな?? ここからだと遠いんでしょうか?」
「ベルクーレまでが馬車で4日かそこら、そこからフェルッカが2日と言うとこかの。隣り合った領じゃから、行くならまとめていくのがよいじゃろな」
「ありがとうございます。この街のものを一通り確認したら、アンネマリーさんにお願いしてみます」
「うむ。明日からは、工房にある色々な魔法具を持って来てやるから、まずはそこからじゃ」
「はい、お願いします!!」
こうして勇の魔法陣研究は、次のステップへと進むのだった。
日は二日ほど遡る。
午後に魔法陣を研究する一方で、午前中は引き続き旧魔法のレクチャーと、勇自身の魔法の練習に充てられていた。
クラウフェルト領を代表して旧魔法を先行して習得中なのは、領主の妻であるニコレット、娘であるアンネマリー、騎士団からリディル、マルセラの4名だ。
もちろん勇も、最初から旧魔法で魔法を習得すると言う大胆な方法で挑戦中だ。
領主のセルファースも候補なのだが、体調が優れないため偶に見学するに留めている。
森に囲まれたクラウフェルト領は、他と比べて魔物の脅威が大きい領地だ。
そのため、年に最低一回、1~2か月かけて魔物討伐の遠征に行くそうなのだが、その遠征部隊のメンバーが良くかかる病気があると言う。
通称”遠征病”と呼ばれる病で、原因不明の出血死に至る事もある恐ろしい病だ。
今回はセルファースもこの病にかかってしまい、目下療養中である。
新魔法の腕前、特に威力は、ほぼ投入する魔力量に依存するため
ニコレット>>リディル>マルセラ>アンネマリー>勇
の順だ。クラウフェルト領の中では、ニコレットの魔力量は突出しており、”森の魔女”の異名を持っている。
ところがこれが旧魔法になると、
アンネマリー>マルセラ>勇>>ニコレット>=リディル
となる。
もちろんつぎ込む魔力量を増やせば差は縮まるが、同一魔力量でもかなり威力に差があるのが旧魔法の特徴だろう。
ちなみに勇の場合は、まだ魔力操作が拙く、標準的な魔力量で魔法が使えないための暫定順位だ。
旧魔法の威力の違いは、今の所”イメージ力の違い”であると、アンネマリーたちは考えていた。
『見えざる刃よ、風と共に刈れ。
アンネマリーの詠唱後、見えない刃がうなりを上げて正面に立つマルセラへと飛んでいく。
『渦巻く風よ、守れや守れ
対するマルセラの周りを魔力に満ちた旋毛風が覆う。同じ風属性の防壁魔法を唱えてこれを迎え撃つ構えだ。
アンネマリーの
パキン、という甲高い音がしたかと思うと両者の魔法がそこで解除され、あたりに突風をまき散らした。
「やるわね、マルセラ」
「お嬢様こそ、可愛い顔してえげつない威力ですよ?」
勇から魔法語の意味を教えてもらって三日ほどで、二人とも風と水の初級魔法を旧魔法としてある程度使えるようになっていた。
これ以上威力を上げると、的がいくつあっても足りないのと、実戦で使うとどうなるのかを検証すべく、二人は模擬戦形式の訓練を取り入れている。
二人以外は、まだ威力が安定しないため引き続き的当てだ。
「いやぁ、ここまで威力が違うのか……。もはや別の魔法だね」
「ええ。多分私が全力で魔力を込めた新魔法より、アンネやマルセラの全力の旧魔法の方が上ね。魔力量が倍以上違う訳だから、単純に威力が倍以上になってるって事になるわ。脅威としか言いようが無いわね……」
旧魔法で楽しそうにやりあう二人を見ながら、セルファースとニコレットが真剣な表情で話をしている。
「初級魔法でこれだから、もっと威力や規模の大きい魔法だとどうなることやら……。楽しみではあるけど、色々と気を付けないと駄目だね」
「そうね……。後は、感覚派の二人以外がちゃんと使えるようにならないとね。私とリディルは未だに使いこなせて無いのだけれど、今後広めることを考えると……」
「あの二人は、先生役には向いていないからねぇ。今後、領内に広めていくにあたって、ちゃんとコツを言葉に出来る人は必須になる。苦労かけるけど、頼むね」
「ええ、もちろんよ。それに、このまま使えないのは悔しいもの。絶対ものにして見せるわ!」
楽しそうにそう言う妻を見て、やはり親子だなとセルファースは一人納得していた。
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