第45話


 とりあえず尋問をしながら情報を集めていくことにした。

 ちなみに向こうも情報漏洩に対しての対策は事前にしており、口の中の義歯には自殺用の毒が入ってた。

 当然気絶しているうちに抜いておいたけど。あってよかった前世知識。


 俺に拷問の知識なんてものはないが、こちらにはあっちの世界にはなかった光魔法がある。 どれだけ傷を負わせても治すことができるし、身体の一部を千切ってから再び回復させて、何度も神経をブチリと切るようなこともできる。


「ぎゃああああああああっっ!! 話す、話すから待ってくれ!」


 流石にそういった拷問の訓練は受けていなかったらしく、実にスムーズに情報を得ることができた。


 まず彼らは俺達が予想していた通り、ゴルブル帝国の第二王子ザンターク子飼いの密偵だった。


 彼らの目的は、付与魔法を使うことができるアリサを誘拐すること。

 ちなみにメルの側にはカムイが控えているため、子供だけの俺達を狙ったということだった。


 できれば捕らえてそのまま第二王子に手渡したかったらしいが、それが無理だった時のためのプランBというのが、転移の魔道具の使用だった。

 アリサをラカント大陸へ飛ばし、あとは人海戦術で捕まえるという大雑把極まりない作戦。 成功しない確率の方が高そうだと思うんだが、彼らからするとアリサが死んでもそれはそれで構わなかったらしい。

 最悪ヒュドラシア王国にアリサの力を使わせなければそれでいいと思っていたんだと。


「ふざけるな、お前らアリサのことをなんだと……」


「やめてクーン、それ以上やったら死んじゃうわ!」


 途中焦って危うく殺しかけてしまうことにはなったが、およそ必要な情報を集めることができた。


 あの馬面がゴルブル帝国の諜報面を仕切っていたらしいこと。

 そして密航を監視するために帝国の諜報員として北海の監視を行っていたこと。

 ただ大陸を渡って活動ができる諜報員の数はさほど多くはなく、カムイに斬り殺されたことで人員はここにいる五人で全員になるほど減ってしまったこと。

 そして諜報組織自体半ば活動停止となっており、彼ら自身まさか本当に俺達が来るとは思っていなかったこと。


 どうやらこの五人をなんとかすれば、俺達を襲ってくるような奴らの影に怯える必要はないようだった。

 俺達は取れるだけ情報を取ってからきっちりとトドメをさし、落ち着いてから一度話し合いをすることにした。

 そして当初の想定通り、領都ベグラティアを目指すことを決める。


 カムイ達がまだ滞在しているかはわからないが、どこに向かっているにせよ、家になんらかのメッセージくらいは置いておいてくれるはずだろう。

 カムイだけならうっかり忘れているかもしれないが、メルがいればそのあたりもぬかりはないはずだ。






 山火事を起こしかけたせいで問題になりかねないと思い港町を早々と抜け出してきた俺達は、南西に進んでいったところにあるツヴォイトという街に入った。

 軽く情報収集がてら魔道具で変装していない姿をさらしてみたりもしたが、何も問題は起こらない。


 衛兵達の前を、怪訝そうな顔をされるほど通りまくっても何も言われなかったので、俺達が指名手配をされているような様子もなさそうだ。


 流石の第二王子と言えど、他国にまで指名手配を回せるだけの権力はないということなのだろう。


 ギルドに行くと、ギルドカードも問題なく使用することができた。

 そこで俺は、なんだか妙な感じを覚えた。


(なんだろう、この感じ……)


 自分が感じている違和感の理由を上手く言葉にすることができず、なんだかもやもやしながらギルドを後にする。

 いつものように警戒をしつつ逃走経路を探し、宿で部屋を取った。


 そして警戒のための魔道具をインベントリアから取り出そうとしたところで、ようやく自分が感じていたものの正体にたどり着く。


 ――俺達の一年にもわたる逃亡生活は、終わったのだ。


 こうして俺達は無事、ドーヴァー大陸へ戻ってくることに成功した。

 俺は気力も使えるようになったし、アリサは付与魔法で魔道具がしっかりと作れるようになった。

 かわいい子には旅をさせろ的な感じで、保護者を離れたおかげで成長できたのかもしれない。


(ただ一応、警戒の魔道具は使っておこう……)


 あの男への尋問でこれ以上の追っ手はなさそうだとわかってはいるが、そういう時に限ってもしもというのは起こるものだ。

 以前何度か魔物の襲撃に遭った頃の癖が抜けない、ビビりな俺だった。

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