第43話




(ようやく帰ってこれたか……)


 思えば既に俺達が転移させられてから、既に一年が経っている。

 カムイ達は元気に過ごしているだろうか。

 アリサを狙っての犯行ってことは、ひょっとすると彼らの方にも追求の手は伸びているかも……などと考えているうちに、そのまま街にやってきた。


 周囲は暗く、気力で視力を強化しなければよく見えないくらいの光度だ。


 魔具や魔道具のランプはそこそこ高級品であるため、この世界で夜に使える光源はろうそくやたいまつがメインだ。

 油や蝋を使って長時間燃やすのはコスパが悪すぎるため、皆店は夜になるまでに閉めることが多い。


 俺達が夜更けを狙ってやってきたこともあって、街の中はひどく静かだった。

 ただその中にもポツポツと明かりも見えている。


 俺達のような密航者が多いからか、警邏の数が非常に多いのだ。

 アリサと一緒に話し合っていた通り、風魔法で索敵をしながら警備兵達に遭遇しないようにスニーキングを行っていく。


 建物の影に隠れてやり過ごしたり、屋根上に飛び乗って視界から外れたりと色々とやっているうちに、違和感を感じた。

 自分の身にさわさわと触れる微弱な風。

 これは……俺と同じ風魔法の索敵を使われている?


 この魔法のいいところは、わずかな風でできるおかげで相手に気付かれる心配がほとんどないことにある。

 意識を張っている今じゃなければ、俺も気付くことはできなかったかもしれない。


(盲点だったな、索敵ができる人間が相手にもいるのか……)


 この索敵の魔法が使える人間は決して多くない。

 レーダーやソナー、反響定位なんかの知識がある俺だから普通に使えるだけで、本来であればメルさんでも使えないようなかなりの高等技術なのだ。


 もしかすると俺達が突然襲われた時も、こいつに魔法を使われていたのかもしれない。

 無論自分が使われる側になった時のための対抗策は既に考えてある。

 まさか使う機会が来るとは思ってなかったけどな……。


 気合いを入れて、気力を使いながら索敵を強化する。

 気力と魔力は、実のところ併用が可能だ。

 気力で聴覚を鋭敏にしながら索敵の魔法を使うことで、感知できる範囲を伸ばすことができるようになる。

 俺達から少し離れたところにいる二人組を発見できた。

 そしてさっきは気付かなかったけれどよくよく確かめるとこちらの位置を察知しているようなグループが更に二つほど。

 合わせて六人が、明らかにこちらを意識した動きを見せている。


「気付かれました、戦闘準備を」


 街中で戦っていたら、間違いなく衛兵が来る。

 なんとかあちらに気付かれていない風に装いながら、城壁をよじのぼって外に出る。

 同様に駆け上がってやってくる襲撃者達から距離を取りながら、その様子を確認する。


 すると強化した視覚が、妙に見覚えのある馬面の男を捉えた。

 あれは……一年前に俺を倒した男だ。

 悔しくて何度も夢に見たこともあるし、間違いない。

 まさか雪辱を果たす機会がやってくるとは……。

 あの時とは違うってこと、しっかりと見せつけてやらなくちゃな。






 俺達は主要な街道を外れたところにある雑木林の中へ入り、ジッと来るべきタイミングがやって来るのを待ち続けていた。

 索敵の反応がどんどん近付いてくる。

 どうやらこちらに気付いていないふりをするのはもう止めたらしい。

 そして合流していた合わせて六人ほどになる刺客達が、とうとうその姿を現した。


「……おい、こっちで本当に合ってるのか?」


「ええ、間違いありません」


 ひひんといななきそうな馬面の男が、不機嫌そうに眉をしかめている。

 恐らく索敵をしているのだろう他の男は、魔法を使いながらも、彼に気を遣っている。

 どうやらあの馬面、この集団のリーダーをしているらしい。


 刺客達が索敵をしている男を頼りに森の中へと入っていく。

 その様子を見てから、俺達は互いに頷き合い、作戦を開始することにした。





「――ここです、この先にやつらがいます。どうやら待ち伏せをしているようです、気付かれてたみたいですね」


「流石にそこまでバカじゃねぇってわけか」


 男達は最低限の会話だけ交わしながら、ずんずんと進んでいく。


 彼らは皆一様に耳にカフのようなものをつけていた。

 どうやら連絡を取り合うための魔道具らしい。


 既に反応を補足しているためかその足取りはかなり速いが、まったく足音を立てていない。 なんにせよ、身体強化をかなりのレベルで使いこなしているのは間違いない。


「よし、行くぞ。パターンBだ」


 馬面男を先頭にして、男達が一気に前に出る。

 そして……全員がその場から姿を消した。


「「「なああっ!?」」」


 事前に用意しておいた落とし穴に見事にハマった男達を視認しながら、俺とアリサは前に出る。

 そして準備を終えている魔法を発動させた。


「バーストフレイム!」


 アリサの放った白色の炎が穴の中へと降り注いでいく。

 それに少し遅れる形で時間差で俺が使うのは、核融合炉をイメージさせて放つ上級火魔法であるエクスプロージョンだ。


 俺がありったけの魔力を注ぎ込み圧縮に圧縮を重ねた炎の玉が弾け、そして爆発する。

 森の中に響く轟音と共に炎の柱が吹き上がり、近くにある木々へと炎が燃え移っていく。

 同時に起こる衝撃波が辺りの木々をへし折り、森の中に巨大なクレーターができた。


「クーン、ちょっとやり過ぎ……」


「しょ、しょうがないでしょ!? 下手に手を抜いたりするわけにはいかなかったし!」


 そんなことをして倒せなかったら本末転倒だからね。

 というかこれで本当に倒せたかは正直怪しいと思う。


「――どうやらまだ、戦いはまだ終わっていないみたいよ」


 そう言ってアリサが指し示す先――そこには、噎せながらもこちらに這い上がっている二つの影があった。

 それは因縁の馬面の男と、その脇を固めていたひげ面の男だった。

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