第39話
俺とアリサはラカント大陸とドーヴァー大陸の間に広がっている海を眺めていた。
波止場から見つめる水平線は、どこまでも続いている。
この一年間で、俺はずいぶんと背が伸びた。
既にアリサより高くなっているが、今でも結構な頻度で成長痛に悩まされている。
多分だけど、まだまだ大きくなるのだろう。
「私、海って見るの初めてなのよね!」
「俺もずいぶん久しぶりだよ」
今の俺達は、二人とも見た目を変えている。
アリサは赤い髪に紫の瞳。俺は緑の髪に青い目だ。
ちなみに色を変えているのは比較的目立つ眼鏡ではなく、足首につけているアンクレットだ。
――この一年間でアリサの魔道具作りの才能は開花した。
彼女は既に髪色を変える魔道具を解析し、そこに改良を加える形で、瞳の色をいじることも成功させていた。
眼鏡である必要もなくなったため、今の俺達はどこからどう見ても田舎から港町に来た少年少女にしか見えないだろう。
「しっかし……この海ってやつは、どこまで続いてるのかしら」
「どのくらいの広さがあるのかはわからないけど、少なくとも一日二日の船旅でなんとかできるような距離ではないみたいだね」
おまけに波もかなり荒く、水棲の魔物まで出現するっていうんだから、渡りたいこちらからするとたまったものじゃない。
ラーク王国では海を往復して移動することはかなり厳しいと聞いていた。
ただヴィクトールさんが言うには、厳しいだけで決して不可能ではないらしい。
ひっきりなしに襲いかかってくる魔物を倒すことができれば、渡ることは可能ということだった。
なので渡るためにはかなり武闘派の人間を揃えて、周到な準備をしておく必要があるということらしい。
「海の水ってしょっぱいって聞いたんだけど、本当なのかしら?」
「せっかくだし、試してみたら?」
「それもそうね……(ごくっ)。――っ!? ゴホッゴホッ!!」
アリサが掬った水を思いっきり飲み干し、そして噎せた。
あまりの塩辛さに半泣きになっている彼女に水筒を渡す。
すると懐かしい匂いがふわりと漂った。
生臭くて磯臭い、海の匂いとしか表現のできないあの匂いだ。
「何これ、本当にしょっぱいじゃない! 塩として使えるんじゃないかしら!」
「たしかそのまま使うと、苦みやえぐみが強くてとても食べられたものじゃないはず。たしか加熱してしっかり製塩しないと使えなかったはずだよ」
はしゃいだ様子のアリサを窘めながらも、俺も内心ではかなりテンションが上がっていた。
やっぱり海は少年の心をくすぐるものだ(前世の年齢足したらおっさんだけど)。
最後に海に行ったのはたしか……じいちゃんと一緒の潮干狩りだったかな。
沢山取れたハマグリを焼いたり味噌汁に入れたりしながら、頑張って消費したっけなぁ。
三食ハマグリなのが当時は悪夢だったけど、今となってはいい思い出な気も……。
「ほらほら二人とも、遊んでないでいきますよ」
「「は~い」」
いけないけない、しっかりと気を引き締めなくては。
多分……というか間違いなく、港町のヴォロスコには俺達をここに転移させた第二王子子飼いの人間がいるはずだ。
そんな風に監視がある中で、俺達はなんとか船に渡りを付け、ドーヴァー大陸へ渡らなくちゃいけない。
正規のルートで行けるかは怪しいので、恐らく密航することになるだろう。
大陸を渡ってしまえばどうとでもなる。
正念場は、ここからだ。
ヴィクトールさんの伝手を使うことで、話はスムーズに運んだ。
彼の弟子達とは何度か接触を持ったが、皆なんやかんやで各地で俺達に力を貸してくれた。
やはり彼は、借金さえしなければいい師匠なのだ(n回目)。
確認してもらったところ、俺達は既に指名手配をされているらしい。
とうとう向こう側も、なりふり構わなくなってきたな。
俺達はヴィクトールさんの弟子であるモンタルさんに船頭をお願いし、漁船を装ってドーヴァー大陸へと向かうことにした。
人目につきにくい夜明け前を狙って出航する形にさせてもらった。
ちなみにここでお別れかと思っていたヴィクトールさんは、なぜかラカント大陸についてきてくれる人らしい。
面倒見がいいというか……素直にご厚意を受けさせてもらうことにする。
俺達は緊張の面持ちで船に乗り込み……そして拍子抜けするほどあっさりと、船は出航した。
検問で堰き止められているうちに衛兵を呼ばれたり、後ろをついてくる小舟がやってきたりするようなこともなく、俺達は何事もなく出航することができたのだった――。
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