第30話
俺達が最初に囚われていたのは、ファスティアという街だった。
そして今やってきたのは、セカンダルムと呼ばれている。
規模としてはファスティアより多少大きく、なんというか雑多で人の多い街だ。
ファスティアを東京というなら、セカンダルムは新宿といった感じだろうか。
もちろん、規模は現代日本とは比べものにならないけれど。
「私、冒険者登録するのって初めてなのよね」
ギルドへ向かうアリサの目は、キラキラと輝いていた。
ちなみに今の彼女は眼鏡をかけて、髪色を黒に変えている。
ラカント大陸では黒髪が多いので、そこに溶け込めるようにという配慮からだ。
足取り軽くステップも踏んでいる彼女を見ると、本当に楽しみなのがよくわかる。
なんだかこちらまで、心が軽くなってくるような気分だ。
「ギルドに入ると大柄な冒険者のおじさんに絡まれて、そこを隠れた実力者である私がズバッと一刀両断するのよ」
「一刀両断しちゃダメだからね? 殴る蹴るはオッケーみたいだったけど」
アリサが想像しているような事態にはならず、登録は非常にスムーズに終わらせることができた。
当てが外れたアリサはつまらなそうにしていたが、俺が頭を撫でるとすぐに機嫌を治した。
ちょろいやつめ、愛いではないか愛いではないか。
ちなみに俺もアリサも偽名を使うことにした。
別に本名じゃなくてもいいらしいからね。
冒険者ギルドで軽く素材を売り、この国の通貨を手に入れる。
銅貨、銀貨、金貨の十進法なのは変わらないけど、見ている感じ銀貨がしっかりとしていて、金貨は少し金の含有量が低そうだ。
聞けばこの国は銀の産出が盛んなので、基軸通貨は基本的に銀貨なのだという。
俺達が今いる国は、ラカント大陸のゴルブル帝国という場所らしい。
ラカント大陸は現在二つの大国に分かれていて、そこで覇権争いをしているんだと。
まあ俺達には関係のない話だろうから、情報収集はそこそこにして切り上げる。
さっそく手に入れた通貨を使い、昼飯を済ませる。
露店で少し多めにお代を払いながら、軽く世間話がてら俺がほしい気力についての情報を集めることにした。
そこでわかったことがいくつかある。
一つは、別にラカント大陸にいる人間だからといって全員が気力を扱えるわけではないということ。
気力使いは俺達のいたドーヴァー大陸における魔法使いのような感じで、ある種の尊敬される立場というか、特権階級にいるらしい。
そしてそれぞれの流派があり、互いに反目し合っていると。
なんだかどこかで聞いたような話だ。
このあたりの構造は、世界中どこにいても基本的にはあまり変わらないらしい。
ただ気力使いは、ほぼ全てが生粋の武人だ。
そのおかげで基本的に気力使い達は常に門下生を集めており、気力を使える人間の割合はかなり高いそうなのでまだ目はある。
一つ問題を挙げるとすれば、俺があまり目立つわけにはいかないということだろうか。
アリサのことをバレないようにする必要があるわけだが、実際に封魔の腕輪をつけられて拘束されていたことからもわかるように、ある程度上の立場の人間なら彼女についての触書なんかに目を通している可能性がある。
なので俺が狙うのは俗世との関わりの薄い求道者や一匹狼、あるいは破門された気力の使い手だ。
そういう人間は都会を嫌い片田舎に住んでいることが多いらしいので、少し郊外に出たら調べていこうと思う。
ちなみにアリサは、俺が気力操作を覚えることに反対だった。
「そんなことしたら、身体が内側からはじけ飛んじゃうわ!」
カムイからの薫陶を受けている彼女からすれば、なぜ俺がここまで頑なに気力を使えるようにしているかがわからないのだろう。
なので転生のことはぼかしつつ、俺は自身が魔力と気力の両方を使える可能性があることを告げることにした。
すると彼女は「そんなのズルい!」と言いながらも、それ以上文句を口にすることはなくなった。
「クーンのこと、信じてるもの!」
最近、アリサの俺への信頼が篤い。
それになんだかすごく寄り添ってくれている気がする。
以前のようにキツい態度を取られないと彼女が普通の女の子に見えてきて……ちょっと困る。
俺は女の子への免疫があまりないので、「あれ、こいつ俺のこと好きなんじゃ……?」とか思っちゃいそうになるのだ。
これでは話しかけられただけで惚れるヲタクくんを笑えない。
なんにせよセカンダルムで取れそうな情報は大方集められたといっていい。
次の街へ向かうことにしよう。
乗合馬車を利用することも考えたが、俺達の場合とにかく人目につくと面倒なことが多すぎる。
長時間の走行も別にそこまで問題にならないため、徒歩で進んでいくことにした。
道中も適度に魔物の相手をしながら、お互いできることをやっていく。
俺は気力使いの男達が殴り合っていたあの光景を思い出しながら、どうやったら気力を練ることができるようになるかのイメージしていく。
俺がイメトレをしている間、アリサは身体強化を無詠唱発動を練習している。
この国には魔法使いの数がかなり少ない。
魔法が使えるということがバレても一発アウトというわけではないけれど、まあまあマズい。
今は身体強化と小声で口にする詠唱破棄を使っているけど、人の目というのはどこにあるかわからない。
なので彼女も気力を使って戦っている風に見せかけるため、無詠唱の練習をしているのだ。
ちなみに三つ目の街に着くまでに、彼女は簡単な初級魔法なら無詠唱で使うことができるようになっていた。
俺の成果の方は……ノーコメントで。
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