第27話


【side アリサ】


 私には付与魔法の才能がある。

 誰も持っていない才能がこの手にあると聞いた時の幼い私は、とても喜んだ記憶がある。

 けれど私に説明をする父さんと母さんの態度が妙に固かった。


 どうしてそんな顔をしているのか。

 普通娘が天賦の才を持っているのなら、喜ぶのが普通じゃないか。


 そんな風に不満を持っていた私は、その理由をすぐに理解することになる――高い授業料を、払わされる形で。






「アリサちゃんはすごいね~」


「ふふん、そうでもあるわ!」


 私は小さい時からずっと、孤独だったわけじゃない。

 五歳になる頃までは、友達だってたくさんいた。


 当時、私は気付けば子供達のリーダーになっていた。


 私は弱いものいじめが大嫌いだった。

 だからいじめっ子を成敗しているうちに、気付けば周りには人が集まるようになった。


 当時の私には、誰も勝てなかった。

 何せ五歳で魔法が使える子なんていうのは、私以外には誰もいない。

 父さん達の英才教育を受けたことで、私より一回りは身体が大きい地元の悪ガキを相手にしたって、完勝ができた。


 私にはたくさんの友達がいた。

 その中でも一番仲が良かったのは、ミーナちゃんという子だ。

 右目が赤で左目が青のオッドアイをしている、とても綺麗な子だった。

 その見た目のせいでいじめられていたところを助けてから、私とはどこに行く時も一緒だった。


 付与魔法が使えることは、絶対に誰にも言ってはいけない。

 父さんと母さんとはそう口を酸っぱくして言っていた。


 けれど親にそう言われれば反抗されたくなるのが子供というもの。

 五歳の私には、その約束がどれくらいの重みを持っているかなんてことはわかっているはずがなかった。


 もっと褒められたい、もっとすごいと思われたい。

 そんな功名心から私は言った。

 言って……しまった。


「あのね……誰にも秘密だよ?」


 私は付与魔法の秘密を、ミーナちゃんに教えた。

 それがどんな事態を引き起こすかなんて、考えもしないで。


「すごい……すごいよアリサちゃん!」


 ミーナちゃんに褒められて良い気分になったことを覚えている。

 それからしばらくは何事もなく過ぎていった。

 けれどある日――事件は起こった。


 あの時のことは、正直思い出したくない。

 今でもトラウマとして残っているからだ。


 結果だけ言うとするならば。


 ミーナちゃんは死に、私は連れ去られそうになり、父さん達は事件の関係者を皆殺しにしたせいで、街を出ていかなければならなくなった。


 見ず知らずの男達に縛られ誘拐された時の恐ろしさと寂しさ。

 動かなくなったミーナちゃんを見せられた時の涙。

 戦闘が起こった後の、血なまぐさい匂い。

 街を逃げ出す時に感じた強い後悔。

 目を閉じればそれら全てを、鮮明に思い出すことができる。


 だから私はもう、父さん達以外の誰に頼るつもりもなかった。

 私の秘密を、教えるわけにはいかない。

 それをすればまた、後悔するに決まっている。

 私はもう、間違えない。

 そう、思っていたのに……。


 私のせいでまた、襲撃された。

 そして今回、父さん達は間に合わなかった。

 ここがどこなのかもわからなければ、どうすればいいのかもわからない。


 けれどなぜだか、前のような寂しさや恐ろしさを感じることはなかった。

 なぜか。

 決まっている――私の隣に、クーンがいてくれるからだ。


 クーンとは、ずっと戦ってきた。

 私は正直、彼のことがあまり好きではなかった。 

 でも一歩引いて見ることが多かったからこそわかる。

 クーンは私にとってライバルで、目標で……だからこそ私は、彼の強さをよく理解している。


 私だって戦うための実力は身に付けてきたはずだった。

 けれど実際に親元を離れて戦うとなると、身体はすくんでまったくと言っていいほどに動かなかった。


 けれどクーンは違った。

 彼は何をすればいいかわからない私のことを、助けてくれた。

 両親以外にこれほど頼りになる人は、彼が初めてだった。


 私は役立たずだ。

 迷惑をかけているくせに何もできない駄目な人間だ。


 だから私には、ただクーンに謝ることしかできなかった。

 自分で自分が情けなくて仕方なかった。


「謝る必要なんか、ないさ。アリサも、カムイ達も……何も悪くないじゃないか」


 そんなわけ、ないのに。

 クーンも一緒に連れ去られてしまったのは、間違いなく私が原因で。

 それなのに彼はなんでもないと、平気な顔をしながら言ってくれる。

 クーンだって、寂しくないはずがないのに。


「う……うええええええええんっっ!!」


「……もう、しょうがないな」


 気付けば私は、泣きじゃくってしまっていた。

 不安に押しつぶされそうになっていた私のことを、クーンはギュッと抱きしめてくれた。

 それだけでまるで魔法みたいに、不安な気持ちが溶けて消えていく。


 クーンに頼ってばかりいてはダメだ。

 私も彼を助けることができるようにならなくちゃいけない。

 そう強く思った。


 気付けば身体の震えは消えていた。

 間違いなくこれは私にとって、二度目の産声だったのだと思う。


 もうクーンの足手まといにはならない。

 私は……いや、私達は、父さん達のところへ帰るのだ。

 二人で、力を合わせて。


 私は彼が困っている時に頼ってくれるくらいに強くなろうと、そう誓った。

 もちろん、戦闘能力だけじゃなくて、心の強さも必要だ。


 そして強くなることができたならその時は、クーンに今まで受けた恩を返すのだ。

 彼に感じていたわだかまりは、気付けば完全に消えていた――。

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