第25話
森の中を進んでいくのには慣れている。
成人前は家にいる時間よりも森にいる時間の方が長かったくらいだし、カムイ達と暮らすようになってからも魔法の練習は基本的に森の中でしてたしな。
それはアリサも変わらないはずだ。
けれど、彼女の足取りは重かった。
「はあっ、はあっ……」
俺よりも体力はあるはずなのに、まるで体力お化けの普段が嘘みたいに、息切れをしていた。明らかに余裕がない様子は、むしろこっちが不安になってくるほど。
表情筋も死んでいて、その瞳からは完全にハイライトが消えていた。
どうやら魔物と戦いをする余裕もないらしく、道中の戦闘は全て俺が担当だ。
魔物の強さ的には、おおよそCランク前後の魔物が多い。
魔の森ほどではないけれど、魔物の生息域としてはある程度強い部類に入るだろう。
「今日はこのあたりで夜営しようか」
「うん」
森の中を体感で二時間くらい駆けてから、今日泊まる場所の選定に入ることにした。
俺が眠ってからどれくらいの時間がたったのか、既に夕暮れが近付いてきていたからだ。
「本当はもうちょっと距離を稼ぎたかったけどね……」
「うん」
アリサがbotのようになってしまった。
不安なのは俺も大して変わらないけれど、俺には前世分の人生経験がある。
彼女が安心できるよう、いつもと変わらぬ態度を心がけねば。
適当な洞穴を見つけたので、今日の宿はここでいいだろう。
獣の住処らしく中は少々ワイルドな匂いもしたが、たまにはこういう野性味あふれた感じもいいだろう。
風魔法で中を綺麗にしてから、土魔法を使って凹凸を直していく。
メル印のミニサイクロンを使って埃を一箇所に集めてからポイッと捨て、その上にシートと寝具を取り出す。
匠の技によって、あっという間に快適一歩手前くらいの居住空間ができあがった。
しかも、俺には夜営の強い味方がある。
インベントリアからメルからもらった杖を取り出し、空間を切り取っていく。
これでこの住処の持ち主が帰ってきても安心だ。
そういえば使う機会が少なかったこともあって、この杖にまだ名前つけてないんだよな。
そうだな……以後こいつは『
「よし、それじゃあご飯にしようか!」
努めて元気な声を出しながら、道中拾っておいた枯れ枝を組み合わせて即席の焚き火を作る。
前世でアウトドア動画を見ていて良かった。
サンキュー、○ッド。
火魔法で種火を起こしてから、インベントリアの中から肉を取り出す。
以前森で狩りをしていた頃の肉は、未だに大量の在庫が余っている。
積極的に狩りをしなくても、しばらくはなんとかなるだろう。
木串に肉を刺し、炙ってから食べる。
使ってるのが魔物素材で食中毒とかちょっと怖いので、火加減はしっかりとウェルダンだ。
「……(もぐもぐ)」
どんな時でも腹は減る。
顔色は死んでいたけれど、アリサはもぐもぐとご飯を食べ始めた。
腹を満たせば、機嫌も治る。
ぽっこりと膨らむほどよく食べた彼女の顔色は、さっきまでと比べると明らかに良くなっていた。
「……ねぇ」
「元気出た?」
「うん、ありがと……」
「そんなに殊勝に謝るなんて、アリサらしくないじゃない」
アリサは俺の軽口に反応することもなく、視線を泳がせた。
そして実に彼女らしくないことに……ゆっくりと頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「何を謝る必要があるのさ? アリサは何も――」
「ううん、違うの。今回私達が襲われたのは、私のせいなの……だからごめんなさい」
狙われたのがアリサだということは、あの男達の話から知ってはいる。
けどなぜ狙われるのかは、わからない。
だから俺は懺悔にも似た彼女の告白に、耳を傾けることにした。
そして知らされる真実は、今まで俺が感じていた色々な疑問を解消させてくれるものだった――。
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