第24話


 目覚めると同時、意識が覚醒する。

 あれだけのことがあったのに、不思議と心は落ち着いていた。


 まずは現状の確認からだ。

 薄く目を開き、周囲の状況を確認する。

 薄暗くて、だだっぴろい空間だ。

 ここは……どこかの倉庫か何かだろうか?


 身体が臨戦態勢を整えようとするが、動かない。

 見れば手足を、縄で拘束されている。


 右を確認すると、そこにはぐったりとした様子で眠っているアリサの姿があった。

 急ぎ這い寄りながら確認すると、彼女の年齢のわりにたわわな胸がゆっくりと上下している。


 ほっ、良かった……。

 ダイ○ンと変わらない吸引力の胸部から必死になって視線を外し、まずは風魔法を使って状況を確認しようとした。


 すると……妙だ。

 魔法を使うため魔力を体外に出そうとすると、身体と外側の境目の辺りに妙な引っかかりを感じる。


 腕の関節を外しながら前に回してみると、手枷に何か模様が描いてある。

 これが魔力を押しとどめようとしているらしい。


 この魔力を吸い込まれるような感じには覚えがある。

 測定球を使った時の感覚に似ているのだ。


 それなら……と、俺は一発で測定球をぶっ壊したあの時のように、魔力を大量に込めまくる。


 すると枯れ枝を踏んだような音がして、あっという間に手枷が壊れた。

 よし、力業だけどなんとかなったな。

 やはり魔力量は正義、はっきりわかんだね。


 枷を壊したことで制限がなくなったので、まずは自分の身体を確認する。

 何一つおかしなところはなかった。


 記憶が確かなら意識を失う前、俺の胸にはナイフが刺さっていたはずだけど、傷跡はまったく残っていない。

 刺さっただけで強烈な眠気に襲われたことと併せて考えると、あれは特殊な魔道具か何かだったのかもしれないな。


 続いて風魔法で改めて周囲を確認する。

 隙間から微風を通すと、扉の先に二人の男がいることがわかった。


 他に出入り口に使えそうな場所はない。

 さほど出来が良くないからか天井には小さな穴が空いている。


 まず確認だが、ここの場所は不明。

 ただあの爆炎で、カムイ達は間違いなく俺達に異変があったことに気付いたはずだ。

 その上で彼らが来ていない……となると状況は最悪に近いだろう。


 敵がカムイ達ですら勝てないくらい強いか、もしくは手出しができないようにする手立てを持っているということだ。


 助けが期待できない以上、俺達は自力でここから逃げる必要がある。

 警備の男達を相手にして勝てるだろうか……俺にはメルのような敵の魔力を感知できる魔法もなければ、カムイのように強さを感じ取れる嗅覚もない。


 ……できるのか、俺に?


「んうぅ……」


 不安に思っている中、アリサが間抜けな声を出す。

 寝返りを打とうとして失敗し、眉をしかめていた。


 彼女を見れば、不思議と決意が固まった。

 できるか、じゃない。やるんだ。


 俺はなんのために強くなった?

 ――大切な人を、守れるようになるためだろ。


 アリサは俺にとって、大切な人だ。

 であれば躊躇する必要なんて、何一つない。


 まず最初に、風魔法を使って音を集める。

 警備のやつらの話し声から、取れる情報は取っておくべきだろう。


「しっかし、変な命令だよなぁ。封魔の腕輪まで使って閉じ込める必要があるのかよ? 大体あれが本当にお偉方が探してるやつだって保障はないだろうに」


「まあそういうなって、特徴は言われてた通りだし、当たれば儲けものってやつだろ?」


「特徴ったって……あんな女の子、どこにでもいるしなぁ」


 話しを聞いていくつかわかったことがある。

 恐らく今回の狙いは俺ではなく、アリサだ。


 脳内で作戦を立てていく。

 ゆさゆさとアリサの肩を揺らすと、パチリと目を覚ます。

 起きた彼女に音を立てないジェスチャーで伝えてから、風で空気を攪拌しながら状況を説明する。

 脱出作戦を始めよう。

 帰るんだ、カムイ達のところへ。



 とりあえず、できるだけ戦闘は避けることにした。

 真っ向から戦う選択肢は取るのは、不確定要素が多すぎる。


 ここで下手に戦闘音を立てて増援を呼ばれたりしたら厄介だ。

 あの馬面男を含めて、敵は手練れ揃い。


 戦わないに越したことはない。

 俺の中のリトル孫子もそう言ってる。


 とりあえず監視の男達が壁面近くの倉庫の床を、火魔法を使い焼いて切断する。

 風魔法を使って匂いを散らしながら、焼いた先に見えた地面を土魔法を使って掘り進めた。

 くいくいっとついてくるよう指で示すと、アリサは何も言わずこくりと頷いた。

 ちなみに彼女の方にも封魔の手枷はついていたので、当然ながら既に壊している。

 彼女にはアイテムボックスに入れていた、カムイからもらった剣を持ってもらっている。


 土魔法を使いトンネルを掘り進めていき、通った場所の土を埋める。

 時間稼ぎにしかならないだろうが、やらないよりマシだろう。


 外との穴を開通させ、あたりを確認してから飛び出す。

 幸い監視の男達はまだこちらに気付いていない。


 どうやらここは街の中らしい。

 右側には街道が続いており、左へ進んだ先には城壁が見えている。

 城壁の形状はベグラティアのものではない。となると街の外に運び出されたと考えるのが妥当だろう。


 街の中に逃げるか、外に逃げるか。

 どちらを選ぶか考えている俺の手を、後ろにいるアリサが取った。


 彼女が進む先は……左。

 俺とアリサは脇目も振らずに走った。


 城壁を土魔法で抜けると、その先に広がっているのは鬱蒼と茂る森だ。

 自然と人、本当に恐ろしいのはどちらか。

 それを理解している俺達は、森の中へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る