第14話


 結論、カムイはめちゃくちゃ強かった。


 風魔法を使う加速や、全方位に風の刃を飛ばすトルネード、人なら簡単に押しつぶせるだけの威力と速度を持った岩石砲。

 俺が大量の魔物を相手に磨いてきたはずの全てがまったく効かなかったのだ。


 知識チートによる魔法改良は、圧倒的な実力差の前には意味をなさなかった。

 彼は俺が放つ魔法の全てをかわし、またあるいは一刀の下に斬り伏せてしまったのである。

 だがカムイとの腕試しは、俺にとって非常に実りの多いものだった。

 もちろん一度として勝つことはできなかったが……魔の森の魔物を相手にした時より、はるかにためになった。


 俺は全身傷だらけになっては光属性の魔法を癒やし再び戦うというビ○ー隊長も真っ青なほどのブートキャンプを、日が暮れるまで行った。


 今日だけで、ビリビリに切り裂かれて駄目になった服の数が上下で十セットを軽く超えてしまっている。

 明日の朝になったら、とりあえず衣服の補充をしに行く必要がありそうだ。


「まあまあやるじゃねぇか。魔物ならBランク、騎士団なら伍長クラスってところか」


 俺は何度もボロ雑巾のようにやられていたが、カムイの方は息一つ乱していない。

 実力差と言われればそれまでだが、やっぱり手も足も出ずに負け続けるというのは悔しかった。


 ただ何事も完璧な人間など存在しないようで……彼は言葉を使って指導をするのが、めちゃくちゃ下手だった。


「こう……グッと踏み込んで足裏に力を溜めてだな、腕と剣を一体にしたらスパッと切れるんだよ」


 そう言ってデカい岩石を真っ二つに切ってみせるカムイの話は、正直聞いていてもまったく参考にならない。


 身体強化の使い方を聞いても、


「そんなのあれだ、腹の奥でぐぐっとしたら、バーンって感じだ! なあ、わかるだろ?」


 と言われた。

 そんなんでわかるわけないだろ……。


 カムイは直感型の剣士だった。

 流派は斬神流といい、彼の元いた国ではオーソドックスなものだという話だった。


 彼の使う斬神流は、基本的には戦場闘法の剛剣だ。

 こちらが死ぬまでに相手を殺すというめちゃくちゃ物騒な流派である。


 この世界では回復魔法があるため、とにかく自分の被害を無視して相手を殺すことを重要視する。

 そんな薩摩示現流も真っ青な殺伐とした流派でカムイは免許皆伝を持っているらしい。


 俺からするとどれくらいの高みにいるのかわからないくらい強いカムイであっても、身体強化を使えるようになるまでには何年もかかったということだった。

 何年も剣を振っているうちに、ある日突然身体強化が使えるようになったんだとか。


 剣に魔力を乗せて斬撃を飛ばしたり、超人的な速度で移動をすることができるようになったりとその応用能力はかなり高かった。

 見て盗むことしかできないけれど、なんとかして習得しておきたい技術だ。

 何年かかるかはわからないけどな。


 ……っと、いけないいけない、腕試しに話を戻そう。

 何度も何度も敗北を知って土を舐めるうちに、俺はカムイ相手にどんな風に戦えばいいかがわかるようになってきた。


 鋭い直感を持つカムイは、こちらの弱点を一瞬のうちに看破してしまう。

 彼はその野性的な直感を遺憾なく発揮させ、こちらがついてほしくないと思っているところばかりを的確に攻めてくる。


 ああ嫌だなと思うタイミングで魔法の発動を阻害されたりすることもあれば、無意識のうちにやりづらさを感じる呼吸をズラすための斬撃を放ってきたりもする。


 だが嫌なところばかりをついてくるということは、逆を言えばその部分を直していけば俺の弱点が消えていくということだ。


 それがわかってからは俺は意識的に魔法発動のタイミングをズラしたり、自分のペースを保ったまま逆に相手のペースを乱すために仕切り直しのための魔法を放ったりしながら、試行錯誤を繰り返していくことになった。


 最終的には嫌がらせばかりをするような感じになり、カムイは露骨に眉をひそめていた。

 一矢報いることくらいはできた……と個人的には思いたい。


「うし、帰って飯にするか!」


 俺が光魔法で傷を治し終えると、カムイに連れられて領都へ戻る。

 道中遭遇する魔物は、カムイがサクサクと葬っていた。


 後ろから見ていても、惚れ惚れするほどに見事な剣だった。

 荒々しいんだけどその中に術理があり、野性的な美しさが内包されている。


 街に戻り、家路を行く。

 歩いているとぐうぅ~とお腹が鳴る。


 昼からぶっ続けで戦い続けてたからな……なんかちょっと恥ずかしい。

 頬の熱を感じながら素知らぬ顔をして歩こうとすると、カムイの方が立ち止まった。


「ほれ、メルには内緒だぞ」


 そう言って手渡してくれたのは、俺の腹の虫が鳴った元凶の香ばしい匂いをした肉串だった。

 手渡されたそれをたまらず頬張ると、自分の分も買ったカムイもバクバクと食べ始める。


「飯はちゃんと食えよ、残したらバレるからな」


「……うん」


 前世ではあまり、帰り道の買い食いをしたことはなかった。

 けど同級生を見て、羨ましいと思っていなかったと言えば嘘になる。

 なんだか遅れてきた青春を取り戻しているようで、少しだけ心が弾んだ。


 俺達はそのまま家に帰った。

 そしてカムイが口の周りにタレを付けていたせいで、買い食いは一瞬でバレたのだった。

 だ、だらしねぇ……。

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