第10話
「――とまあそんな感じで、門前払いを食らったんですよ。魔法使いっていうのは皆あんな風に高飛車なものなんですかねぇ」
「まあその辺りは人によるだろうが、少なくともこの街で俺が見た魔法使いはどいつもこいつも似たような感じではあったな」
実はこの世界に来てから、誰かとまともに話をするのは初めてのことだった。
魔法然り知識然り、俺はたくさんの秘密を抱えていて、そのせいであまり下手なことを言うわけにはいかない。
そんな状況では、どうしても人に心を開くのは難しい。
けれど少なくともこのおっさんは、今の俺が戦っても勝てないと思わせるだけの強さを持つ人物だ。
そんな相手に隠し立てをしても無駄だというある種の開き直りのおかげで、俺は気付かないうちに自分でかけていたブレーキが外してしまったらしい。
「しっかし……ふぅむ、なるほどなぁ……」
おっさんは、俺の話をしっかりと聞いてくれた。
まともに話をしていなかったせいで時々つっかえてしまい、話はお世辞にも上手いとはいえないようなものになってしまったが、それでも文句を言うでもなくきちんと相づちを打って、耳を傾けてくれる。
「災難だったな坊主。この国の魔導師どもはクソだから、多分何度行ったところで大して結果は変わらないと思うぜ。偉いやつの紹介状か袖の下があれば話は別だがな」
「袖の下って……賄賂ですか……」
流石にそれは想像していなかった。正解は頭を下げることじゃなくて、金を渡すことだったのか……。
あれだけ一生懸命頼み込んだ俺が馬鹿みたいじゃないか。
なんだか一気に馬鹿馬鹿しくなってきた。
貴族だけじゃなく、魔法使いまでそんな感じとは。
この国はつくづく腐っている。
(しっかし、今のおっさんの言い方……なんだかひっかかるな)
この国の魔導師……ってことは、もしかして……。
「おじさんは、ラーク王国の外から来た魔法使い……なんですか?」
「似たようなもんだな。専門は近接戦闘だから魔導……この国の言い方なら、魔法剣士ってやつだ」
「魔法剣士! ということは身体強化の魔法も使えますか!?」
「ん? ああ、まあ使えるが……」
成人するまでに俺が切望しながら何度も試し、結局のところ身に付けられなかった魔法がある。
それが魔法による肉体の強化だ。
どれだけ筋肉や神経などの明確なイメージを持ちながら使用しても、魔法はまったく発動する兆候もなかったのだ。
俺の家にある教本に、身体強化の魔法は存在していなかった。
恐らくだが身体強化の魔法は、上級より上の高等技術である。
それが使えるということはつまり……このおっさんは、俺が師事しようとしていた、上級以上の魔法が使える人間ということになる。
「弟子にしてください! その……後でしっかりお礼もしますので!」
俺の言葉に、おっさんは眉をしかめた。
何かマズっただろうかと思っていると……なぜか頭を撫でられた。
その指先は、信じられないほどにゴツゴツとしている。
この人は一体どれほど、剣を降り続けてきたのだろうか。
だが固い感触に対して、その手つきはとても優しかった。
「子供がそんな心配するんじゃねぇよ。余計なことに気を回すのは、大人になってからで十分だ。あと他人行儀な言葉遣いもなしな」
「あのー……自分、成人してるんですが……」
「生憎俺の元いた国では成人は十五でな。俺からすれば、お前はまだまだケツの青いガキさ」
おっさんは何事もなかったかのように、ポケットに手を入れる。
そしてどこかから取り出していた葉巻を吸いながら、こちらをちらりと向いた。
「来いよ、ウチの連れに紹介してやる。二人とも良いやつだぜ」
風下になる場所で吸っているおかげで、煙はこちらにやってこない。
そのさりげない優しさが、なんとなくくすぐったかった。
おっさんはそれだけ言うと、こちらを振り向くこともなく歩き出し始める。
歩幅がでかい上にペースも速いので、止まっているとすぐに見失ってしまいそうだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は慌てておっさんの後を追って、小走りに駆け始める。
これが俺とおっさん――カムイとの出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます