第10話:盗賊は財布

 根城に向かうと見張りが立っていた。

 無防備に近づく俺を見て武器を構える。


「と、止まれ! 何者だ!」

「冒険者様だよ」


 瞬間、盗賊の頭がはじけ飛んだ。

 死体には目もくれず俺は洞窟内へと足を踏み入れ、奥へと進んでいく。

 道中、盗賊に遭遇するがすべて頭部を消し飛ばす。


「ここか?」


 すぐに盗賊のボスがいるであろう場所に辿り着いた。

 扉があり開けようとするが施錠されているのか開かなかった。

 ふむ。こういう時はあれしかない。


「――ゴラァ!」


 扉をやり破って中に足を踏み入れた。

 すると、一人の囚われたであろう金髪碧眼の美少女と筋骨隆々のおっさんが呆然と俺を見て固まっていた。

 これからヤろうとしていたわけではないようだ。少女の身なりが良いことから、貴族の娘ということが見て取れる。交渉でもしていたのだろう。盗賊でも貴族の娘に手を出せば報復がある。盗賊でもそれは怖いのだろう。

 すぐに正気を取り戻した盗賊が急いで武器を構えた。


「な、何者だ! 仲間どうした⁉」

「冒険者様だよ。仲間は全員あの世さ」

「っち。冒険者か……だが俺は元Aランク。勝てると思っているのか?」

「そんなこといいから。それで、そこのお嬢さんは無事?」

「は、はい!」


 まだ手を出される前だったようで一安心。


「よかった。すぐに助けるから待っててね」

「はい!」

「テメェ、俺を無視だと? よほど死にたいようだ」

「無視じゃない。あれだあれ。飛んでいる小さな羽虫ってそこまで気にならないだろ? アレと一緒だ」


 俺の発言に男は顔を真っ赤にプルプルと震えている。


「ぶっ殺してやる!」


 襲い掛かってきた男は剣を振るうが俺に当たる直前で止まった。

 あと数センチという距離で止まったのだ。


「な、なにが……」

「あぁ、自動的に展開している重力場にすら貫けないのね。底が知れるね」


 男は何度も俺に剣を振るうが、触れることすらできなかった。


「はぁ、はぁ、くそっ! どんな魔法を使ってやがる!」

「魔法じゃないんだけどなぁ。俺、魔法は使えないし」

「クソッ!」


 続けて攻撃をしようとする男の剣を手で掴み砕いた。

 驚く男をそのままに腹を殴って気絶させた。


「さて。戻りますか。王都に行く途中だから一緒に行こうか。他に囚われている人は?」

「ありがとうございます。他にはあと二人おります」

「わかったよ。助けに行こうか。キミ、歩ける?」


 頷く少女は「こちらです」と囚われている人の場所へと案内してくれた。

 歩けない女性が一人いたので、俺が背負いつつ片手で盗賊のボスの髪を掴みみんなが待っている場所へと向かった。

 戻るとすぐに他の冒険者が駆け寄ってきたのでボスを引き渡す。


「気絶させただけだから。元Aランクらしいから気を付けろよ」

「元Aランク⁉ それにこいつ、懸賞金が掛けられていた盗賊ですよ!」

「そうなの? 金が欲しかったからちょうどいいや」


 俺は依頼主である商人のところに向かい、攫われた人を助けたことを報告しに向かう。


「テオさん、この方たちが攫われた人ですか?」


 俺が頷くと少女が代表して自己紹介する。


「私はレグルト・エヴァレット公爵が娘、リディア・エヴァレットです。この者たちは私の付き人です」


 二人の女性は「助けていただきありがとうございます」と礼をする。

 だが、それよりも商人さん、というよりも周りの人たちが驚きで固まっている。

 公爵ということはかなり身分が高い。この国だと王に次ぐ爵位なのだから当然といえば当然。

 そんな高貴な方が盗賊に囚われていたのだから驚かない方が無理だ。


「それで、どうして盗賊に?」

「実は――……」


 リディアは盗賊に捕まった理由を話し始めた。

 昨日、領地から王都に向かう最中に盗賊に襲われたとのこと。早く解放されるように交渉していたところに俺が来たとのことだった。


「盗賊でも貴族からの報復は怖かったのか」

「はい。あの二人も貴族の令嬢ではあったので、盗賊は手が出せなかったようです。盗賊のリーダーがそのあたりは話してくれました」

「へぇ……そこまで理解できていたなら裏に誰かいそうだな」

「はい。生かして捕えていただきありがとうございます」

「別にいいよ。懸賞金あるらしいから」

「はい。たしか200万ゴールドでしたね」


 200万か。かなりの副収入だな。

 それから一緒に馬車で王都まで乗せていくことになり、リディアと捕まっていた他二名は俺とエイシアスが乗っていた馬車に相席した。


「あの、お名前を伺っても?」

「テオだ。冒険者をしている。こいつは――」

「エイシアスだ。主よ。王都に着いたら起こしてくれ」

「なあ、俺はお前の主だよな?」

「もちろんだとも」

「ならその主を枕にして良いとでも?」

「減るものではないのだからいいではないか」


 そういって俺の膝を枕に寝てしまった。

 リディアはその光景を見て頬を紅くさせていた。年頃は16歳ほどだろう。こういったのに興味があるのか?


「あ、あの。お二人はどのような関係で?」

「こいつが勝手に俺のことを主人と煽っているだけ」

「そ、そうでしたか。それにしてもテオ様は、私たちが貴族と知っても態度が変わらないのですね」


 リディアの助けた二人、名前はマナとエレオラも頷いていた。

 なので、俺の態度が変わらない理由を告げた。


「別に貴族、王族だからって態度を変えるつもりはない。暴力さえあればすべてが解決するからな」


 ハッハッハと笑っていると、目を見開いて驚いていた。


「そ、それは……」

「国が喧嘩を売ってくるなら買ってやるまでだ。雑魚がいくら吠えようと変わらないからな。俺の邪魔をするなら圧倒的な暴力で潰すだけ。な、エイシアス?」

「うむ。主の言う通り。やはり主といると退屈せずに済みそうだ。これから国でも滅ぼすのか? 楽しそうだ」

「やるわけないだろ。今のところは」

「そうか」


 そう言ってまた寝てしまう。

 しかし、リディアは俺の発言が嘘か本当か分からないだろうな。

 事実だったとしても。



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