第8話:受付嬢には優しく

 宿に着いた俺たちは部屋に入る。

 二回の部屋から見る夕日が街を茜色に染めている。

 窓を眺めていると、エイシアスが声をかけてきた。


「主よ。夕食はどうするのだ?」

「外でもいいけど宿代に入ってるから、下の食堂で食べよう」

「そうね。私のお金なんだから私が決めればよかったのか。主は無一文だからね」

「うぐっ……」


 正論パンチに俺は何も言えない。

 それでも言い訳をしたい。


「俺はずっと不幸な人生だったんだぞ! 金なんてあるか!」

「それもそうだね」

「そこは慰めてくれよ……」

「ヨシヨシしてほしいのかい?」

「子供じゃないんだからいい」


 何千年も生きているお前から見れば子供だろうけどな!


「何か失礼なことを考えなかった?」

「……んなわけないだろ。気のせいだ」


 それから時間が過ぎていき、エイシアスはベッドでスヤスヤと寝息を立てていた。

 俺じゃなかったら襲っていただろうな。まあ、俺は紳士だからな!

 実際にエイシアスで欲情するのかと問われれば、当然欲情する。

 城で過ごしていた時に何度も誘惑され――ヤってしまったのだから。

 俺は外に顔を向ける。

 こうして異世界に転生してゆっくりしたのは始めてだ。

 しばらくの間、俺は外の眺めを楽しむのだった。

 翌朝、下の食堂で朝食を食べて街へと繰り出した。


「主よ、どうするのだ?」

「街をもう少し見ても良かったけど、早く王都に行ってもいいなと」

「ほう。王都か。それは楽しそうだ」

「だろう?」

「で、何で行くつもりだ?」

『ギャウ?』

「いや、今回赤丸はお休みだ。折角冒険者に登録したんだ。護衛依頼を受けようじゃないか」

「主は無一文だから仕方がない」

「おい、地味に傷つく言い方辞めない? 俺の心はガラスなんだぞ」


 朝食を済ませた俺たちは冒険者ギルドに赴いた。

 昨日の噂が広まっていたのか、俺たちが入った瞬間に静かになった。

 視線はあるが誰もが声をかけない。

 そのまま受付に行き話しかける。


「昨日の方ですね。おはようございます」

「おはよう。王都に行きたいんだが護衛依頼とか出てるか?」

「はい。二日後に出発ご依頼がございます。お受けなさいますか?」

「頼む」

「では護衛依頼の手続きは終わりました。集合は二日後の早朝です」

「ありがとう。それと今日受ける適当な依頼を見繕ってほしい」

「わかりました」


 依頼書だろう紙の束をペラペラと捲っていく。

 すると数枚の依頼書を出す。


「こちらなどはいかが出ようか?」

「ふむ。ゴブリンの討伐、他は採取か」

「この私にゴブリンを倒せと?」


 エイシアスが受付嬢を威圧する。

 威圧された受付嬢はヒィッと顔を青くさせる。受付嬢だけじゃない。他の冒険者たちも顔を青くさせていた。

 なので俺はエイシアスの頭を叩いた。


「馬鹿野郎! 威圧してるんじゃねぇ! ビビってるじゃねぇか!」

「だが、この私にゴブリンを倒せなどと命令して――痛い⁉」

「仕事を斡旋してくれるんだぞ。さっさとその威圧を止めろ」


 俺がそう言うとエイシアスはすぐに威圧するのを止めた。


「連れが悪いね。この依頼を受けるよ」

「わ、わかりました……」


 完全に怖がっているじゃん。

 どうしてくれるんだよ……

 手続きをして早々にギルドを後にして、受付嬢に聞いた森へと向かった。


「この森だな」


 森に到着し、そこからゴブリンと依頼の薬草などを探す。

 ゴブリンは薬草探しで森を歩いているとすぐにエンカウントした。

 だが、俺たちを見た瞬間、逃げ出してしまったのだ。

 思わぬ行動に俺は驚く。


「なんで逃げるんだよ⁉」

「そりゃあレベルがカンストしている者が二人いるのだ。本能的が逃げろとでも言ったのだろう」

「あ、うん。なるほどね」


 エイシアスの言葉に俺は納得してしまった。

 だってあの森で生き抜いてきた俺には理解できるからだ。

 本能が勝てないと悟ってしまうのだ。


「まあ、依頼だから逃がさないんだけどね」


 俺が指先をピストルのようにしてゴブリンに向ける。

 指先には魔力が集束し、小さな球体になり放たれた。

 放たれた魔力の塊はゴブリンの胴体に直撃してはじけ飛んだ。続けてゴブリンの数だけ放ち全滅させた。

 討伐部位を剥ぎ取り薬草探しを続ける。程なくしての目的の薬草が見つかり採取した。


「これで終わりだな。帰るか」

「つまらんな」

「したかないだろ。俺たちはFランクなんだから」

「さっさと上げてほしいものだ」

「はぁ……まあ、そうだな」


 俺には世界中をまわって楽しむという目的がある。

 なのでその日銭を稼ぐには低ランクでは足りないのだ。

 地道に上げていくしかない。

 ギルドに戻った俺たちは依頼達成報告をして宿に帰るのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


下にある【☆☆☆】をポチッと押すのと、【ブクマ】をしていただけたら嬉しいです!

作者の励みになり、執筆の原動力になります!

少しでも応援したい、という方はよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る