キルヴィ戦記〜ヴァグラはセルーニアをめざす〜

沼津平成

第0話 文学湾

「なんだ、あれは……。」ある国の、他の国と比べるとわかい王が、馬にのって広い草原を旅していた。あるまちで、王がいった。

「あれですか。」付き添いの若い観光案内人が答える。

「ああ、あれだよ、あれ……。」

「あれか……、あれは、ですね……。」観光案内人は急にどもってしまったが、あきらめて、イヤイヤと首を振った。「そんなにあれが気になるなら、お話しして差し上げましょう。」

「ああ、話してくれ。何日かかっても、わしはあきらめないぞ。」

(わかいのに、語尾ごびは『わし』なのね。)

 若い観光案内人はついくすくすと笑ってしまう。

「どうした。はやく聞かせておくれ。」

 王は顔をゆがめた。馬も退屈そうに小さくヒヒーンと鳴らした。

「わかりました。この話は長くなります。近くの旅館に泊まって話を始めるとしましょう。」

 観光案内人は王の顔をまっすぐに見て、頷いた。

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