第31話「お仕置き」


「魔族討伐、本当にありがとうございました……!」


ヴェルンドに戻ってすぐ、ガウフは何人かのドワーフ達を連れて、同時に頭を下げた。

俺だけだとかなり軽い感じなので、やっぱりニーザとかがいると対応違うな……と苦笑していると、当の本人は気にした様子も無く軽い報告だけをする。


「気にしなくていいわ。全滅はさせたから大丈夫だと思うけど一応、暫くの間は気をつけてね。」

「はい!アルシアもすまないな……。同盟関係切れてる亜人種相手だってのに……、」

「アレはヴォルフラムが勝手にやった事だからいいんだよ。困ったらいつも通り呼んでくれりゃいい。それよりも廃村にいた魔族だが、ガウフさんの言う通り魔法の効かない魔族だったよ。」


神衣に関しては混乱を招きかねないので意図的にぼかして説明すると、ガウフは「やっぱりか……。」と顔を顰めた。

目で合図をしている辺り、こちらの意図と、その意味をちゃんと理解してくれたらしい。

俺は続ける。


「とは言っても、神術や環境操作の魔法は通る。

あとはガウフさんが言った通り、武器なんかの接近戦もだ。ドワーフ族なら魔道具でその辺上手くやれるだろ。」

「簡単に言いやがるぜ。まあ、その辺は心配しなくても平気だ。神術は俺らん中じゃ使える奴はいねえが、既に工業区画で同じ奴らがまた出てくるのを想定して対抗用の魔道具をいくつか作ってる。あとで他の亜人種にも送る手筈だ。」

「他の亜人種にもう伝えてあるのか?」


対応が早かったので驚いてそう聞くと、ガウフは頷いた。


「暴走魔族は今や何処でも湧いて出てくるからな。定期的に連絡のやり取りはしてるんだ。今回の件も伝えてるぜ。」

「そっか、ならこの後亜人種達に連絡を入れなくても大丈夫か……。」

「さすがにそこまでさせられねえさ。今日はご馳走もたんまり用意してっからよ。遠慮無く食ってくれ。それと……、」


そこで言葉を切ると、ガウフは俺の肩に腕を回して引き寄せ、こっそりと耳打ちした。


「お前……、今度はしっかりやれよ。分かるよな?」

「………でもなぁ。」


ボソッと言いながら背後を振り返る。

そこでは、竜の尾を犬の様にぱたぱた振りながら、こちらを見て微笑んでるニーザが立っていたのだ。

頑張ったからご褒美を寄越せ、という事なのだろうが、ここで?

周りには数人ばかりドワーフ達も集まっている。

これから起こることを楽しみにしてる、というより……、明らかに警戒してる様な顔だが。


「馬鹿野郎……、でももへったくれも無えんだよ!いいから行けっ。」

「あ、ちょっ………!?」


静かに声を荒げたガウフに背中を文字通り押され、勢いでニーザの前まで立つと、うずうずした様子で微笑んでいた。


「アルシア、分かってるわね?」

「……ご褒美だよな。」


短く答えて、その頭を優しく撫でる。

大体、こっちの彼女が出てくるとこうしてご褒美を求められるのだが、やはりと言うべきか、眉がへの字になる。


「0点よ。」

「あだっ。」


不満気に言われ、チョップを食らった挙げ句、尻尾が脚に巻き付いて拘束される。

そして、そのまま肩に手を置かれて目を瞑ったニーザの顔が近付いてきた。

拘束されたまま助けを求めるように背後を見ると、ガウフはいつの間にか来たゴドーと一緒に腕を組んで静かに頷いていた。

(他人事だと思いやがって……、何の羞恥プレイだよ……!?)

俺は覚悟を決めてニーザの肩に手を……、置きかけてその頬を指で摘んで引っ張った。


「………やっぱ駄目だ。」


肩で息しながら項垂れる。どうしても異性の好きより友人への好きがまだ強い。

見守っていたドワーフ達が大急ぎで逃げ、背後にいるガウフが「バッカ!お前……!?」と怒りながら遠ざかる気配を感じた。そして……、正面からは殺気が……。


「いい度胸ね、私の可愛い可愛いアルシアは?」


冷や汗をだらだら流しながら恐る恐る見上げると、こめかみをひくつかせながら冷たい笑みを浮かべるニーザが目の前にいる。

心做しか、肩に置かれている手に込められている力が強くなってきてる気がしなくもない。

俺は必死にこの場を丸く収めようと、どうにか言い訳の言葉を紡いでいく。


「いや、その………、なんと言いますか?こういうのはもう少し人がいなくて、ちゃんとした関係で、尚且つちゃんとした場面でやるべきだと俺は思う訳で……、だから日と場所を改めて………」

「よく回る口ね。毎回言ってるけど、貴方それ何回言って、何回逃げ回っているのかしら?」

「うーん…………、毎回かな?」


敢えて無邪気に笑うと、ぎりっと掴まれた肩に力が込められる。ロキ、タスケテ……。

だが、そんな願いは届くわけもなく、その切れ長の瞳は細められ、そして……、


「お仕置きよ、アルシア。」

「ちょ!?待っ――――――、」


空から赤い雷が俺目掛けて落ち、ついでとばかりに数棟、余波で家が吹っ飛んだ。

遠くからガウフの怒号が聞こえる。


「てめえアルシア!?毎回毎回、俺らの村でいちゃついた挙げ句、ここぞで逃げて家ぶっ壊しやがって!この災い起こしが!!」


ドワーフや他の亜人種の村で被害を叩き出しまくった事でついた異名でガウフに罵倒されるが、それに返すことなく気絶し、俺は結局、夜まで意識を失う事になるのだった。




―――――――――――――――――――――


第3章・完

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