第22話「忠告と警告」


「そいつを下ろして、アルシア。」

「断る。」


リディアが言った言葉を俺は間髪入れず拒絶した。

リディアの表情が悲しげな物に変わるも、考えるまでもない。

ヴォルフラムがこいつらに監視以外に何を指示したのかは知らないが、そんな信用出来ない奴の言葉など聞く必要は無いからだ。

だが、そんな思いとは裏腹に、ニーザは自分から降りようと俺の胸に手を置いた。


「ニーザ、聞く必要なんか無いぞ。まだ―――、」

「少しくらいは平気よ。。」


俯いた顔から聞こえる言葉に一瞬ぎょっとするも、その言葉に従いニーザを下ろすと、彼女は先程までのダメージなど無かったかのように歩き出した。

俺は遺跡の入口に向かう途中で振り向いて、念の為にと釘を刺すことにした。


「……いじめ過ぎるなよ?」

「アルシアは私の事を何だと思ってるのかしら。終わったら続き、お願いね?」


見た目に合わない艶っぽい微笑みを浮かべるニーザを見て引きつった笑みを浮かべながら、今度こそ遺跡の入口に向かうのだった。




◆◆◆


アルシアが去った後、そこに乗ったのはニーズヘッグとリディアだけとなった。

リディアは相変わらず敵意を見せたまま。

ニーズヘッグは顔を俯かせている。


「……それで、何か用かしら?」

「アルシアから離れなさい。貴方は………、貴方達はアルシアに相応しくない。」

「それは貴女が決めた事かしら?それともアルシアが自分で言ったの?」

「………っ、ふざけないで!誰が見ても明らかでしょう!?」

「私達が命じた訳じゃない。が自分で私達といるって決めたのよ。貴女が口を挟む余地なんて無い。」

「……………この!」


思い通りにならないばかりか言い返されて、思わず頭に血が上って手にした杖を振り下ろすが、ニーズヘッグはそれを見ることなく、難なくそれを掴んで止めた。


「酷いわね。でも、弱っている今ならくらいどうにか出来ると本気で思ってるのかしら?」

「な、なに……?!」


顔を少しだけ上げ、不気味に笑ったニーズヘッグの身体が黒い魔力の渦に包まれる。

思わず杖から手を離し、杖はカランと音を立てて地面に転がる。

そして、黒い渦が徐々に薄れると、そこには先程の少女とは別の女性が立っていた。

いや、ニーズヘッグが成長すれば将来的にはこうなるのだろう。


貴族の着るドレスの様な戦闘装束を着たニーズヘッグは、変化すると同時に背中の翼をばさりと広げ、それで見たリディアは後退る。


「なに………、貴女は。」

「これが人化した私の本来の姿よ。いつも外に出るのが面倒だから、普段はあの子に主導権を預けて私は寝ているの。知らないのは無理は無いわ。それよりも……、」

「………………。」

「貴女、アルシアの事が好きなのね?」

「……………っ!」


図星を突かれ顔を赤くするが、ニーズヘッグはそれを気にする事なく続ける。


「なるほどね。それで私が……いえ、私やフェンリル達が近くにいる事が気に入らないと。」

「……悪いかしら?」

「それ自体は別にいいんじゃないの?誰を選ぶかはアルシア次第。無理矢理捻じ曲げてまで干渉する権利は誰にも無いわ。ましてや、私達は高位魔族。時間の感覚も、身体の作りもまるで違うのだもの。そういう意味では貴方の言う事は別段、間違いでもないのよ。」


それだけ言って、ニーズヘッグは背を向ける。

あまりにもあっさり引き下がった事にリディアは拍子抜けするが、「ただ………、」とニーズヘッグは足を止めて、肩越しに振り返る。

その目は先程とは違う、どこまでも冷たい物だった為にリディアは青褪め、落ちていた杖を構える。


「忠告と警告よ、リディア・フルール。まずは忠告。アルシアを本当に愛し、大事と思うのなら、ここぞという大事なところで判断を誤らない様になさい。でなければ、大切な物を全て失う事になるわ。そして――――、」


重たい重力に似た魔力の圧が辺りを覆い、リディアは堪らず膝を付いて、滝のように嫌な汗を流しながら目の前の竜姫に改めて視線を向ける。

その瞳は強い怒りを孕んでいた。


「最後に警告よ。アルシアを傷付け、悲しませるのであれば、貴女であろうと誰であろうと例外なくこの私がその全てを殺す。忘れない事ね。」


それだけ言って今度こそニーズヘッグはアルシアを追う為に去っていく。

心を見透かされた事による動揺と、向けられた強い怒りによって動けないリディアを置いて……。

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