第12話「ミューズからの依頼」
「インドラ………。俺は面識は無いんだが、ニーザ。どういう神なんだ?」
「零落して地上に追放された神っていうのは知ってたっけ?」
「そこまでは。」
「じゃあそこは大丈夫ね。下界に追放された後、インドラはミューズの前の代の族長の厚意で、エルフが管理してる遺跡に住む事にしたの。基本的には気の良いお爺ちゃんの神様なんだけど……」
そこまでニーザが話すと、引き継ぐような形で集まっていた初老のエルフの男が会話に加わった。
「ここ最近、インドラの爺さんの様子がおかしくなったんだよ。今までは食料とか分けに顔出しに行ってたんだが……、ある日体調悪そうにしててな。大丈夫かと尋ねたんだが、暫く来ないようにって言って追い返されたんだ。んで後日、他のエルフと様子を見に行ったんだが、そしたら入口に爺さんが張った結界があってよ。それで……」
「ミューズに相談。俺やロキ達に依頼が飛んできたって訳か。」
そう口にすると、ミューズは「はい……。」と目を伏せ頷いた。
「初めは本当にお身体の状態がよろしくないのかもしれないと思ったのですが、最近になってインドラ様が住まわれている遺跡から感じる気配の質がおかしくなってしまったのです。」
「そうよね。アタシは面識あるから元の気配を覚えてるけど、異常よ、コレ。」
「ああ。面識無くても大分おかしいのは分かる……。」
俺とニーザはある方角に目を向ける。
遺跡の場所とやらは知らないが、それでも気配だけでどこにいるかは嫌でも分かる。
何かが混ざったような、それでいて滅茶苦茶な波長の気配を放っているのだ。
まるで、今大陸に発生しているような暴走魔族の様な……そんな気配を。
「事情は分かった。最悪の場合、戦闘になる可能性があるから、一応避難を―――――、」
「その必要はない。ボク達も同行するからな。」
「…………ん?」
聞いたことのある声が響くと同時に扉が開いたので、全員でそちらを見ると、そこには何故か知らないがマグジール達が立っていた。
どうしてここに?と思ったが、城で大事な話をする時は基本的には盗聴対策をしている。
恐らくだが、ニーザと合流して移動してるのを目撃して追いかけてきたのだろう。
大分速度が出ていたというのにそこまでして追いかけてくるとは、悪い意味で大したものだ。
しかし、マグジール達は俺の視線に気づく事なく、ミューズ達に人の良い笑みを浮かべて話しかけていた。
その隣ではエドワードとムスタ達が嫌な笑みを浮かべてこちらを見下すように見ている。
「ご安心ください、ミューズ殿。このマグジール・ブレント達が来たからには、必ずやその様子のおかしくなったインドラ神を………、」
「ニーズヘッグ様、アルシア。此度の件はよろしくお願いします。勝手ではございますが、私達はここで、お二人が無事に帰られるのを待たせていただきます。どうか無事に帰ってきてくださいませ。」
言い終える前に、ミューズは穏やかな笑みを浮かべて話を終わらせた。
マグジール達など、まるでそこに存在してないとでも言うような立ち振舞いだ。
見ると、それは他のエルフ達も同様で、いない者として扱ってるようだ。
マグジール達はそんな扱いを受けて、焦ったようにミューズに詰め寄る。
「ま、待ってくれミューズ殿!僕達は君達を助けに………!」
「あら、勇者マグジールとそのお仲間達ではございませんか。悪王ヴォルフラムの犬が何をしにこられたので?」
ここでようやくミューズがマグジール達を相手した。露骨な敵意丸出しで。
それもそうだろう。彼らがやった事はエルフ族からしてみれば到底許される物ではない。
ミューズの周りで殺気立ってるエルフ達が今すぐ襲いかかっても不思議ではないのだ。
「そ、そんな事を言っている場合ではないだろう!?そのインドラ神とやらがもし暴走すれば、エルフ達とて……!」
「それこそ要らぬ心配ですわ。妖姫ニーズヘッグ様と災い起こしのアルシア、彼らなら安心して今回の件、お任せ出来ますので。そもそも……、」
「あの時の件で俺の息子がお前達に殺されかけた事、忘れちゃいねえだろうな?勇者様よ。」
ミューズ達の会話に、今まで黙っていたエルフ達の内の1人が会話に混ざった。
こちらは今すぐにでも殴りかからん勢いだった。
横にいるニーザがその大きな赤い瞳で視線で「何のこと?」と聞いてくるので、俺は小声で「後で話す。」とだけ返した。
「ぐっ…………。あ、あれは国王の命で仕方なくっ、」
「お前らは王様が頼めば何でもやんのか?そんな奴に俺達エルフが守る聖域に足を運んでもらいたかねえな!!」
「そうだそうだ!帰れ!!」
「二度と俺達の村にその
「てめぇら、言わせておけば………!」
「……マグジール、リディア、止めんなよ?流石に我慢ならねえ……、」
息子を殺されかけたという男の怒りに乗るような形で、次々と他のエルフの罵声がマグジール達に浴びせかけられていき、元々気の短いムスタとエドワードがあろう事か武器を抜いて戦闘態勢に入っていた。
マグジールとリディアが止めに入るが、当然それで止まる訳が無い。
(厄介な真似を……。)
俺は苛立ちを抑えるように溜め息を吐きつつ、アダムの書と鎖を構えた。
そして、空間操作と分裂させた鎖を使ってエドワード達を手にした武器ごと拘束する。
「なっ、アルシア、てめえ!!」
「解け!解けクソぉ!!」
後ろで何やら喚いているが、取り敢えず無視だ。
俺は改めてミューズ達に向き直る。
「マグジール達は連れていく。」
「――――――は?」
「アル、シア……?」
マグジール達の間の抜けた声が聞こえてくる。そして、今度はエルフ達の怒りが俺に向けられるも、ミューズはそれを静かに手で制した。
「理由をお聞きしても?」
「理由は3つだ。1つ目、こいつらの性格を考えると、ここで追い出しても後をつけてくる。それなら、相手が神である以上、目に付くとこで監視した方がいい。」
「2つ目は?」
「腐ってもこいつらは王国の最高戦力だ。荒事になった際、その原因がエルフ達にあるとなれば、ヴォルフラムの性格上、ここに軍隊を送りかねない。俺が原因なら、アンタ達に被害は及ばないし、そもそもさせない。」
「アタシもいるしね?」
ニーザがいたずらっぽく笑うので、軽く苦笑して頷く。
「3つ目は?」と尋ねるミューズに、俺は一度、眼を閉じてから開き、それに応える。
「どうせマグジール達じゃ、
ミューズは俺の両眼を見て息を呑んだ後、すぐに穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「……分かりました。なら、アルシア。貴方にそれもお任せします。皆も、それでいいですね?」
ミューズの穏やかながらも力強い言葉に、集まっていたエルフ達は渋々ながらも頷いた。
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