45話 アーティファクト
――次の日
巧は、護衛の2人を伴ってルードルの工房に来ていた。
魔法剣を買うためである。
「こんにちは」
スージーが工房に入っていく。
「おう、嬢ちゃんか。どうした?」
とルードルが奥から出てきた。
「巧が魔法剣を買いたいんだって」
と巧が言うより早くスージーが用件を言った。
「あぁ? もうあの魔法剣を壊したのか?」
と怒りの表情をするルードル。
「いや、そういう訳じゃないんだが……」
と言い愛剣が無事だということを見せた。
そういえば、ルードルは剣に愛情を持つ人だ。
そういう人が作った剣を査定で消してしまっても良いのだろうか?
考える巧。
「いや、やっぱり止めるよ」
と巧は言い、工房を出て行く。
「何だったんだ?」
と言うルードル。
スージーとメイベルも不思議な顔をしていた。
巧は、ルードルの作った剣を消してしまうことを嫌ったのだ。
そして、トボトボと当てもなく歩いていくと1軒の魔道具屋にぶつかった。
そこは、古びた、いかにも壊れそうな掘っ立て小屋だった。
その屋根に魔道具屋ベローンという看板が設置されている。
店の中には、これまた色々な種類のアイテムが所狭しと並べられていた。
巧は、何気なくその店の中に入っていく。
そして、ボーっと商品を眺めていた。
すると、1つの短剣が気になった。
その短剣は、鞘もなく先っぽが折れて3分の2になっていた。
だが、その刀身には何か強い力を感じた。
自分の持っている剣すら超える力を感じたのだ。
だが、見た目から魔法銀ではなく魔法鉄であることは明白。
その不思議な短剣に、思わず惹かれた巧は、
「これ幾らですか?」
と店員に尋ねた。
すると、禿げ頭の店主が
「それは金貨20枚だ」
と言った。
「えっ?」
と巧は絶句した。
短剣な上先っぽが折れており、実用としては全く役に立ちそうもない剣だというのに、金貨20枚もするのかと巧は思った。
巧は、どうして? というような顔をしていた。
それを店主は察知したのか、
「それは、アーティファクトだ。実用的ではないが、途轍もない力がある」
巧は、マジマジと短剣を見つめた。
確かに自分の剣とは次元の違う力を感じる。
普段から魔法剣を使用しているから分かるのだ。
「買います」
と思わず巧は言ってしまった。
「毎度あり」
その店主はニンマリして言った。
それを見て騙されたかと思ったが、自分を信じることにした。
巧は金貨20枚を払って短剣を手に入れた。
それを見たメイベルは、巧ってバカ? とのたまった。
スージーも巧の行動を理解できなかったのか擁護する言葉を発しない。
自宅に帰り、短剣をじっくり見まわした。
短剣の柄は、精巧にできており、何かの模様が刻まれていた。
その刀身は、途轍もない力を感じるものの魔力が明滅を繰り返していた。
暫く短剣を見ていると、リオが帰ってきた。
巧がじっと短剣を眺めているのを不思議に思ったリオは、その短剣を見た。
そして目を見開いた。
「それを良く見せて?」
リオが言うので巧は、短剣をリオに手渡した。
リオは、じっくり短剣を調べると
「これ凄い!!」
と感嘆の言葉を発した。
「やっぱり凄い物なのか?」
と聞く巧にリオは
「この短剣に掛けられている付与術が凄いの。切れ味強化+と耐久力強化+よ。こんなの見た事ないわ」
と感激しているリオ。
だが、巧はそれの何が凄いのかが分からなかった。
「それの何が凄いの?」
と聞く巧。
リオは、そんなことも分からないのといった風に少しイラついた声で、
「切れ味強化+は切れ味強化の2倍の効果、耐久力強化+も2倍なのよ」
「それじゃあ、この魔法剣の2倍の性能ってこと?」
巧は自分の魔法剣を指さして言った。
「そうよ。この短剣が正常ならタクミの剣も切断されちゃうよ」
それを聞いた巧は、目を剥いた。
「それほど違うのか?」
「うん。でも、その短剣、寿命が近いわ。魔力が明滅するのって魔力が切れそうってことなの」
リオは残念そうに言った。
巧は、あの店主のニヤけた顔の理由を理解した。
寿命が近いことを知っていたのだろう。
いつまで持つか分からない物を買わされた訳だ。
「どれくらい持つと思う?」
「う~ん。分からないけど長くて1年かなぁ。短ければ数日以内」
とリオは言った。
「直せないのか?」
と聞く巧にリオは、
「無理よ。魔法鉄の魔力を回復させる方法はないの」
巧は、残念そうに短剣を見た。
こんなに凄い短剣がガラクタになるなんてという思いだ。
巧は、明日にでも魔力が切れてガラクタになる可能性があるということなら、査定することに決めた。
「残念だけど、ガラクタになる前に有効に使わせてもらうよ」
と巧は短剣に謝った。
そして、査定と唱えた。
すると、短剣は消える前に一際強い光を放った。
まるでさよならというように。
そして、その査定額を見て巧は驚愕した。
2500万ポイントだったのだ。
「本当に凄い物だったんだな」
と巧は呟いた。
「今までご苦労様」
と言ってYESを選択した。
そして、その短剣は2500万ポイントを残し虚空へと消えて行った。
――数日後
魔道具屋ベローンの店主は、贅沢をしていた。
久しぶりに高額商品が売れたからだ。
「ぐふふ。あの短剣が売れるとはなぁ」
確かに、あの短剣は遺跡から発掘されたアーティファクトだった。
しかし、先端が折れていたし、魔力が尽きそうだった。
店主はアーティファクトコレクターに売れれば良いと思っていたので売値を高額に設定していた。
正常であればもっとしただろうが、なにせガラクタになる寸前だ。
店主は、ガラクタになる前に売り逃げられて満足していた。
もし、あの買った黒髪の男が付き返してきても知らんぷりをするつもりだった。
おっ、客が来たようだ。
「いらっ……」
げっ、あの黒髪の男だ。
あの短剣、遂に魔力が尽きたか。
そうでなければ、こんなにも早くここに来るわけがない。
禿げ頭の店主は、冷徹な商人として黒髪の男を迎え撃つ心構えを整えた。
黒髪の男が近寄ってくる。
何を言われても冷静さを失わないように心に鍵を厳重に掛ける。
さあ、来い!!
店主は、万全の準備を整え終えた。
「あの~、すみませんが……」
と黒髪の男が用件を言おうとした。
来た!!
店主は、脳内で対応のシミュレーションを行った。
最初が肝心だ。先ずはそんな事知らんと言って先制攻撃だ。
「こないだの短剣みたいなアーティファクトが欲しいんですが」
店主は、何を言われたのか分からなかった。
思わず
「はえ?」
と気の抜けた声を出してしまった。
まさか、あのガラクタをまた欲しいとのたまう人物がいるとは思わなかった。
巧は、アーティファクトの短剣が予想以上に高額となったので2匹目のドジョウを狙いに行ったのだ。
金貨20枚で2500万ポイントが得られたのだ。
その差額は金貨を査定するより500万ポイントも高い。
それをゲットしてしまった今、掘り出し物を探したほうが得だと巧は思った。
そして、それを狙うため再度魔道具屋に来たのだ。
店主は、あの短剣に文句を言いに来たと思っていたが、どうやら違うようで混乱していた。
そこで、あの短剣の事を恐る恐る聞いてみた。
「あの短剣はどうでした?」
すると、黒髪の男は
「素晴らしい短剣でした。非常に役に立ってくれましたよ」
と言う。
店主は、さらに混乱した。
役に立ってくれました? 何故過去形なのだ?
「何に使ったのです?」
と聞いてみた。
その黒髪の男は言う。
「僕の血肉になってくれました」
巧としては、査定してポイントになったとは言えないので、自分の生命線を支える物になったという意味でそう言ったのだった。
「えっ?!」
店主は、絶句した。
まさか食べたのか? あれを?
店主は、恐る恐る黒髪の男の顔を見た。
その黒髪の男はニヤリと笑ったように見えた。
店主は恐怖した。
さらにその男は、
「あの短剣のように、魔力切れ寸前の物が希望です。そいういうのを安く売って下さると良いですね」
と言った。
店主は、さらに恐怖した。
まだ食べたりないとでも言いたいのか?!
それに、ガラクタを売ったとバレてる。まさか、ガラクタを売った俺をも食おうとしているんじゃないだろうな?
マズイぞ。なんとかしなくては。
「申し訳ありません!! 今はありません、お許しください!! 必ず良い物を探しますので!!」
巧は、店主の変貌ぶりを不思議に思ったが、やる気になってくれたと思って、
「よろしくお願いします」
と言って帰った。
黒髪の男が去っていく。
禿げ頭の店主は、ふーと安堵の息を吐きだした。
ひとまず危機は去った。
だが、良い物を見つけなくてはならない。
期限は聞いてはいないが、あまり時間は掛けられないだろう。
希望の物を用意して、許してもらわなくては。
それから、禿げ頭の店主は魔力切れ寸前のアーティファクトを探し回ることになる。
それは鬼気迫る表情だったという。
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