30話 勇者
巧との出来事があってから2週間後、学園長は王城に登城した。
学園長は、巧のことを王へ報告すべきと思ったのだ。
だが、王が多忙のため会えず巧との邂逅から2週間の時間が経過してしまっていた。
学園長は、応接室に通されると国王が来るのを待った。
暫くすると、国王が部屋に入ってきた。
「久しいな。レオードよ」
と国王が言った。
「ご無沙汰しております。ローレンス陛下」
学園長は、うやうやしく王に礼をした。
「それで、何の報告だ?」
「ははっ。実は異世界人が現れたことを報告しに参りました」
と学園長は切り出した。
「なんと! 遂に現れたか! それで、その者の力は?」
王の心には様々な思惑が流れて行った。
「ははっ。異世界の品を出せるようです」
「それは強力な品なんだろうな?」
王の問いにレオードは、巧に関する説明をした。
「なんだと! 魔力の無い品しか出せない? それでは使い物にならぬではないか!」
散々な言い様である。
王は、前代の異世界人が超強力な装備を持っていたことから、異世界にはそういうものが有るものと思っていたのだ。
「ですが、王よ。異世界人は、全員が例外なく強力な力を持っておりました。今後、何かの役に立つやもしれませんぞ」
「ふむ、そうだな。ならば護衛を付けさせよう」
王はそう言うと、命令書を書いて衛兵に渡した。
とそこに、防衛大臣が駆けつけてきた。
「陛下、重大事でございます」
大臣は息を切らして、部屋に入ってきた。
王の横に居るのがマジェスタ魔法学園の学園長だったことに少し驚きながら、大臣は言った。
「勇者が現れましたぞ」
王、学園長
「「な、なんだと!」」
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勇者降臨
フローク国の東にバカラ辺境伯領という場所があり、その東の果に小さな村があった。
その村の名前はセタと言った。
そのセタの村に15になる少年がいた。
その少年は、体は小さくか細い少年だった。
セタの村人は農業でしか生きていく術はなく、力持ちであることが何より尊ばれた。
その少年は力が弱く農業の仕事をうまくこなせなかった、悪く言えば役立たずだったのだ。
その村の住人達は、その役に立たずな少年を邪魔者として扱った。
そしてある日、その村に災いが降り掛かった。
東の山から魔物の大群が押し寄せて来たのだ。
物見台からいち早くその動向を発見した村人たちは、戦うのを諦め逃げることにした。
だが、今から逃げても直ぐに追いつかれてしまう。
そこで、村人達は普段役に立たないその少年にある役目を押し付けた。
それは、村人達が逃げる時間を稼ぐことだった。
村人達は今まで育ててやった恩を返せと言い、盾になることを強要したのだ。
1人で村に捨て置かれ、その少年は魔物の大群と戦わなければならなくなった。
武器として鉄の剣と革の鎧だけを与えられ、その少年は魔物の大群に対峙した。
そう、これから死が決まっている悲壮な戦いが始まる。
魔物の大群が村に到達した。
先頭を走るのはウルフ系の魔物だ。
そのウルフ達が村の入り口に差し掛かった所で、少年は家に火を付けて回った。
少しでも時間を稼ぐためだ。
家々に火が回り始めたことで混乱し始める魔物達。
少年は、その隙を付いて魔物の背後から切りつけた。
だが、その攻撃はあっさり躱されてしまった。
そして、近くにいた別のウルフに腕を噛み付かれてしまう。
剣を取り落とし、痛みに意識が朦朧とする。
そこからは蹂躙されるだけだった。
体中を嚙まれ、血が幾重にも流れだしていた。
もう意識も殆どない、体も動かない。
それでもその少年は、村人の安否を心配していた。
自分は上手くやれたのかと、それだけを心配していた。
すると、目の前に巨大な象の魔物が現れた。
ウルフ達はその魔物を恐れ散開していった。
その巨大な象は、その巨大な足を振り上げた。
少年は、さよなら皆と擦れた声で言った。
そして、その巨大な足が少年を踏みつぶそうと振り降ろされたその時、巨大な光がその少年を照らした。
その光は、目を開けていられない程強く、魔物達も誰もが瞼を閉じていた。
その光が収まった時、魔物達は信じられない光景を見た。
あれだけ、瀕死だった1人の少年が、何のダメージも受けていないかのように立ち上がっていたのだ。
そして、その体から発せられる溢れんばかりの力。
それを感じた魔物達は、恐怖に駆られ逃げ出した。
だが、一部の強力な魔物達は、恐れず戦うことを選択した。
その少年は、小声で身体強化+と唱えた。
そして、魔物達の目の前から消えた。
少年は、象の魔物の顔の前に突然現れると、手に持っていた鉄の剣を魔物の目に突き刺した。
ぐぉぉおぉおお
と大地が揺れる程の轟音が鳴り響いた。
そして、ライトニングボルトという声が聞こえた。
剣を伝いその極大威力の電撃が象の魔物の体内に入り込む。
ぎぉおおおお
体内を極大の電撃で焼かれた象の魔物は、その重い体を横たえた。
それを見た、少年はまた姿を消した。
それからは、殺戮の嵐だった。
少年の姿は消えたまま、次から次へと魔物の頭部だけが切り飛ばされていく。
そして、全ての魔物が居なくなると、少年は力尽き地面に崩れ落ちた。
それから、2日後異変を聞きつけたバカラ辺境伯家の騎士隊がセタの村に到着した。
その光景を見た騎士達は絶句していた。
村にある家々は焼け焦げ、魔物の死骸があちらこちらに散乱していたのだ。
その中心に、1人の少年が無傷で横たわっていた。
その少年の周りには精霊の力と思われる力場ができており、騎士達も近寄れなかった。
騎士達が被害状況を確認しに村の周辺を調査していると、その少年が起きた。
顔を左右に振って
「あの、ここは?」
「ここはセタの村だ」
「あれ? 魔物に襲われて? あれ? 俺が倒した?」
少年の記憶は曖昧であった。
自分が魔物を倒した記憶はあったのだが、それが現実だとは思えなかったのだ。
騎士隊は、その少年をバカラ辺境伯の城へ連れて行こうと考えた。
「少年よ。名前は?」
「はい。ジョシュアと言います」
それから、ジョシュアは城へ連れていかれ調査を受けた。
すると、スキルの項目に光を導く者というのが見つかった。
バカラ辺境伯
「これが伝説の勇者であるか?」
お抱え魔術師
「ははっ。これは伝説に謳われる勇者のスキルでございますれば、間違いなく勇者でございましょう」
「であれば、王に報告せねばなるまい。早急に魔伝にて伝えよ」
そして、防衛大臣に報告が行き、王と学園長に話が伝わることとなる。
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