29話 魔力付与

解放された巧は家に帰り、リオは授業に出ることになった。


「それじゃあ、頑張れよ」

と巧がリオに言った。


「うん。タクミもあれだけ重症だったんだし休んだ方が良いよ」

とリオが心配してくれた。


「ありがとう。今日は休むよ」

と言って巧は家に帰った。


ボロボロの服であったが、早朝だったため人に見られず無事家に帰った巧は、服を探そうとテラを起動した。

「魔力があれば、付与術が掛けられるのか。それならここにある品物も魔力があれば良いんだけどな」

と独り言を呟いた。


すると、ランクと書かれた所に記載されているブロンズという文字が光ったような気がした。

(そういえば、前の世界ではここをクリックするとメニューが出てきたな)

と唐突に思い出した巧はブロンズという文字を選択してみた。

するとランクメニューが出てきた。

ランクメニューには利用可能ルピーというのがあり、その額は3410となっていた。

更に”ルピーを使う”という項目があり、巧はその項目を選択してみた。

すると、そこには魔力の付与というのがあった。


「まさか、製品に魔力を付与できる機能?」


巧は、魔力の付与を有効にしてみた。

だが、特に変わった様子はない。


「どうやって使うんだろう?」

まあ良いや、一先ず服だと服を見始めた。


そして、漸く見つけた中世の平民のようなコスプレ服を購入しようとした。

すると、ルピーを使用しますか?という表記が出てきた。

そのルピーは100だった。


「これか! これで製品に魔力が付与されるはず!」

と興奮気味に言った。


巧は、ルピーを使ってコスプレ服を購入しようとした。

だが、魔力を付与しようとしても一向に付与できなかった。

「何でだろう? もしかして、この商品には魔力は付与できないのか?」

そこで、このコスプレ服を魔力の付与なしで購入してみた。

すると簡単に購入することができた。


「やはり、この服には魔力を付与できないんだな」

巧は、学園長が言っていた魔法鉄などの魔法物質にのみ魔力が付与できるのかもしれないと推測した。

それから巧は、テラを見ながらどの製品に魔力を付与するか考えた。


「これにしよう」

と巧が選んだのは鉄のインゴットだった。

1kgのインゴットを5個、合計5kgを魔力を付与して購入した。使ったポイントは50ルピーだ。

どうやら、物によって使うルピーが異なるようだ。


「やはり、鉄には魔力が付与できるんだな」

推測が当たったことに安堵する。

「だけど、これは本物の魔法鉄なのか?」

巧は、それを確かめる方法を考えた。

すると、鍛冶屋に見てもらえば良いと思いついた。

早速、着替えて鉄インゴット5kgをリュックに入れ、近くの鍛冶屋に向かった。

向かった鍛冶屋は、前に炎の魔法剣を見た鍛冶屋だ。


「こんにちは」

と巧は挨拶しながら鍛冶屋の扉をくぐった。


店主と思われる40くらいのゴツイ体をした男がカウンターに腰かけている。


「装備をお探しかい?」

と巧をを歓迎するかのように言った。


巧は、買い取りをお願いしたいと言った。

すると店主は、客じゃないのかと態度を変化させた。

「武器か? 金属か? 鉄なら余ってるから1キーグラ(Kg)で銅貨5枚だ」

そうぶっきらぼうに言った。


巧は

(この前も冒険者と喧嘩していたし、あまり良い店主じゃないのかも)

と心の中で思った。


だが、他の店と値段の比較をしたいのと、この出した鉄が本当に魔法鉄なのかを知るためにインゴット1つを取り出して査定してもらうことにした。

「これです」

と言って鉄のインゴットを1つ机に置いた。


店主はそれを見て、目を見開いた。

「魔法鉄か。それにこれ程綺麗に精錬されたのを見るのは初めてだ。

どこかの遺跡で見つけたのか?」


「どこで取れたかは言えません」


店主は少し考えて

「この魔法鉄なら1つ小金貨1枚だ」

と言った。


巧は少し考えるフリをして分かりましたと、その取引を承諾した。

巧は、1枚の小金貨を受け取ると、また別の鍛冶屋に向かった。


もう1つ別の鍛冶屋に行くと同じように鉄のインゴットを取り出して査定してもらった。

するとやはりすぐに魔法鉄と判断され、金額は同じ小金貨1枚だった。


(これは間違いなく魔法鉄だ。ということは、あの機能は本当に魔力を付与することができるんだな)

思考にふける巧。


しかも、魔力を付与した1kgの鉄インゴットを売れば小金貨1枚になる。

巧はこれで商売しようかと思い始めていた。

だが、それを阻む出来事が起きる。


次の日


いつも通り店を開けた巧は、人に見られている気配を感じた。

気のせいかとそのまま店を開けて店番を開始する。

すると、1人の男が店に入ってきた。

その男は、品物を見ながら店を一回りすると奥の部屋に続く扉を一瞥して店を出て行った。

そして、その日の夜。

巧達が寝ていると、ガタッという音がした。

巧は、気になったので2階から1階へと降りていき、テラで購入したランプ型LED電灯で工房側の部屋を照らした。

すると、棚が何者かに荒らされており、かき回されていた。

しかも、棚に置いておいた鉄インゴットが3つとも無くなっている。

そして、部屋の窓が開けられていた。

犯人は、おそらくこの窓から侵入したのだろう。


巧は、どちらかの鍛冶屋の店主の仕業と思った。

証拠はない、あくまでも推測だ。

それから巧は、これ以上どこかの店に魔法鉄を持ち込むと、魔法鉄の在庫が沢山あると思われ、この店どころかあらゆる所で狙われると考えた。

そして最終的に、魔法鉄を鍛冶屋に持ち込む計画を諦めた。


更に、信用できる人物でなければ、もう魔法素材は出さないと心に誓い、魔力の付与機能もOffにしたのだった。



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