第8話 剣術2
――それから1週間が経過した
リゲルは、巧の剣技を見て思った。これなら単独のゴブリンになら負けないだろうと。だが、実戦では何があるか分からない。
「そろそろ、2人共、実戦してみるか? ベイルにも魔物を狩る経験を積ませたいしな」
とリゲルは言った。
「実戦ですか? まだ早くないですか?」
と巧はリゲルの提案に不安気味だった。
「大丈夫だ。いざとなったら助けに入ってやる」
リゲルは実戦に投入した方が良い結果になるとの判断のようだ。
明日、朝からゴブリンを探して見つけ次第1対1をやることになった。巧は、不安を吹き飛ばすかのように剣を振るった。
朝、村の出入口に行くと、そこには既に4人が集まっていた。
警備隊長のリゲル
斥候(スカウト)のリード
弓(アーチャー)のフロウ
剣士のベイル
の4人だ。
「良し、揃ったな。出発する」
と隊長のリゲルが号令を出した。
5人で村の外れにある草原に赴いた。そう、巧が降臨したあの草原である。
そこで、スカウトのリードが早速ゴブリンを見つけたようだ。そのゴブリンは巧が最初に見たあのゴブリンと姿形は一緒だった。
「どちらから行く?」
とリゲルは聞いた。
「じゃあ、俺から」
ベイルが手を挙げた。リゲルは頷き、ベイルが剣を抜きゴブリンへ向かっていった。
ゴブリンはベイルが近づいてきたことに気付き、ギギという声を上げベイルを睨みつけた。対峙する2者、その距離は3メルテ(1m=1メルテ)もない。
「行くぞ! 身体強化!」
その発声と共にベイルの体が淡い光に包まれた。
そして、ベイルは一気に3メルテの距離を縮めた。驚きに目を見張るゴブリン、それをよそにベイルは剣を振り上げた。そして、振り下ろす。
ズシャ
ベイルが振り下ろした剣は、力んだからか、身体強化された一歩が早すぎたせいか、ゴブリンの服を切り裂いただけだった。
「くそっ」
続いて、横薙ぎを繰り出すベイル。だが、力が無くゴブリンに避けられてしまった。焦り始めるベイル。そこで、リゲルからの檄が飛んだ。
「焦るな! 良く見ろ!」
焦り始めていたベイルだが、その声で我に返った。そして、ゴブリンを良く観察し始めた。ゴブリンはその姿に少し戸惑っていたが、直ぐにこん棒を振り上げベイルに襲い掛かってきた。しかし、そのゴブリンが振り下ろしたこん棒を、ベイルはあっさり躱してみせた。そしてベイルは、ゴブリンがこん棒を空振りして態勢が崩れた所を、横薙ぎに斬り伏せた。
「やった」
倒れていくゴブリンを見ながらベイルは喜んだ。
「良くやったな。冷静になれば大した相手じゃない」
リゲルの言うことが理解できたのか、ベイルは大きく頷いた。
「次はタクミだな」
「心配です」
「なあに、フロウがいるから大丈夫だ。危なかったら弓で助けてやるさ」
リゲルの言葉にフロウも頷いた。
小一時間ほどするとまたゴブリンが見つかった。
「では、行ってきます」
と巧は覚悟を決めゴブリンへ向かっていった。
対峙する巧とゴブリン。そして、今度はゴブリンが先に動いた。巧に向かって正面から突っ込んでくる。
ギギィ
ゴブリンはこん棒を横薙ぎに振ってきた。巧は、それを見て剣で受けた。
ガキィ
手に若干の痺れが残ったが受け止め切った。確かに、それほど強くはない。そう思った巧は、時代劇のようにこん棒を剣で跳ね上げ、がら空きになったゴブリンの体を袈裟斬りに切り伏せた。
「詰まらぬモノを斬ってしまった」
あれだけやられそうだったゴブリンを圧倒できて嬉しかったのかノリノリの巧であった。
それからベイルと巧はそれぞれ1匹づつ追加でゴブリンを倒した。そのついでに魔石の取り方も教えてもらった。
「これが魔石?」
巧は1cmほどの小さな水晶を思わせる欠片を見て聞いた。
「そうだ。売れば銅貨10枚になる。逆に売る以外に使い道がないとも言える」
「それは、なぜですか?」
「魔石を使用する道具を魔道具と言うが、それを使うには最低3シーメルテ(1シーメルテ=1cm)の大きさが必要になる。
その大きさの魔石が取れる魔物となると、結構強い魔物となってしまうから貴重なんだ」
「なるほど」
2匹づつゴブリンを倒した所で実戦はお開きとなった。巧は家に帰る途中、今日の実戦のことを思い出していた。それは、確かにこの世界で生きるには必須の技能だなと思った。
そして、村に着いた時リゲルが
「良いか、よく覚えておくんだ。ゴブリンといえども数匹に囲まれたらやられる可能性が上がる。その場合は、逃げろ。良いな?」
「「はい」」
「良し、今日の訓練は終わりだ。ゆっくり休め」
「「ありがとうございました」」
巧は家に帰ってきた扉を開けると中にリオは居なかった。
「丁度いい。スキルの実験をするのにリオが居たらやりにくい」
と独り言を言いながら巧は2つの魔石を机の上に置いた。
そして、スキル”テラ”を立ち上げ、1つの魔石を見つめて査定と言った。
すると、見つめていた魔石は消えうせ
「査定結果は1万ポイントです」
と無機質な声がして査定結果が表示された。
「確かリゲルさんが、ゴブリンの魔石1つで銅貨10枚と言っていたな。
そうなると銅貨1枚で100ポイントだから、変換効率は魔石を直接査定する方が良いわけだ」
そして、もう1つの魔石も査定で1万ポイントに変換した。
「これで2万ポイントだ。これで買えるのか?」
と巧は、ネットショップ内を眺めた。
「おっ確かに、買えるようだぞ」
ネットショップ内の購入ボタンがアクティブになっていることが分かった。巧が暫くネットショップ内の商品を眺めていた。
「これは、俺の時代のネットショップそのままだ。なぜかは分からないがあらゆるサイトが統合されたような感じだ」
更に見ていくと武器のカテゴリーがあった。当然高くて買えないが、現代武器も買えるようだ。
「非合法のサイトまで統合されてる感じだな。こちらはあまり近づかないでおこう」
巧は一通りネットショップ内の商品を見てから、スキルの使用を止めた。もう日も落ちそうなくらい日が傾いていた。
「やばい。日が落ちる前にご飯にしないと」
巧は急いでパンと野菜スープの準備をして夕食を始めた。すっかりこちらの生活に慣れた巧であった。
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