ネットショップの勇者~危機に瀕した異世界を救う~

@Tera-world

第1話 転移

夢を見た。世界が今にも滅びかけている夢だ。

世界が悲鳴を上げていた。

そこに住んでいる人々の悲鳴も聞こえる。

その光景から、滅亡へのタイムリミットが間近に迫っているのだと頭に浮かぶ。

そして、微かに助けてという声がした。


ジリジリジリ

カチッ


目覚まし時計の音がして目が覚めた。

何故だか、目に涙を浮かべている。

夢の内容は覚えていないが、悲しい夢だったことだけは覚えている。

夢の内容を思い出そうとするも上手く行かない。

だが、今それを続けている時間はない。

仕事に行かなくては。

寝ぼけ眼を無理矢理目覚めさせ、出社の支度を始めた。


「行ってきます」


無人になったアパートの部屋に挨拶をして、今日も満員電車に揺られていく。


「よっ、巧。今日も疲れた顔をしてるな」

と気安く声を掛けてきたのは同僚の斎藤浩二だった。


「ああ、浩二か。おはよう」


俺は、日高巧(ひだかたくみ)。今年で23になったしがないサラリーマンだ。

中肉中背、顔も平凡を地で行く容姿だ。

趣味はネットショッピング。

あらゆるサイトに飛び、世界中の商品を見て楽しむのが趣味だ。

今日も仕事が終わると携帯を弄って、ショッピングサイトを覗いていた。


「ふむふむ。今日は裏サイトを見てみるか。おっ、このサイトは随分と怪しげな品を売っているぞ」


巧は、そのサイトで売っている商品を訝しげに見ていた。

そこには、魔力を増幅する杖やら魔法で切れ味が強化された剣など、見るからに怪しい商品を売っていた。


「見るからに怪しいな、このサイト。詐欺かな?」

と巧は真っ先に詐欺を疑った。


だが、そのHPに”これらが本物である証拠はこちらの動画をご覧下さい”というリンクがあるのを発見した。

巧は、好奇心に負けその動画のリンクをクリックした。

すると動画が始まり魔法陣が現れた。

巧がその魔法陣を見ていると次第に光り出し、回転し始めた。


巧は、何が起きるのかと不安と期待が頭の中を渦巻いていた。

だが、動画は魔法陣が回転して終わりだった。


「何だ、やっぱり詐欺じゃねーか」

巧は落胆した。

「まあ、こんなもんだよな世の中って」

と諦めた様子で言った。

ふと、時計を見ると針は既に夜中の12時を回っていた。

「そろそろ寝ますか」

と独り言を言いベッドに潜り込んだ。


その夜、巧はまた夢を見た。

やはり、世界が今にも滅びそうになっている夢だ。

世界が悲痛な声を出し助けを求めていた。

夢の中の自分が、今助けると叫びその世界へ続く扉に飛び込んでいった。



はっ。

ふと目が覚めた。

目を開けると太陽が燦燦と輝いている。

ここはどこだ?

新しいVR機をかぶったまま寝ていたのだろうか?

どうやら、草むらに寝転がっているようで草の匂いがする。

だが、何故こんな事になっているんだ?

まだ夢の中なのか……。


「そうだ会社は?!」

と起き上がって叫んだ。


とその時、遠くからギギィという声が聞こえた。

「なんだ?」

巧がその声のする方へ緩やかに視線を向けると、そこには驚いたことに緑色の肌をした小男がこん棒らしき物を持ってこちらに向かってきていた。

「何あれ?」

巧は、意味不明な生物を見てハテナを頭に浮かべた。

しかし、そう思考している間にも緑色の小男はどんどん近づいてくる。


巧は、素早く今の状況を頭の中で整理した。

1. 緑色の肌をした小男は卑下た顔をしている

2. 友好的な雰囲気は感じられない

3. 相手は武器を握りしめて向かってきている

4. 言葉は通じそうもないどころかギィしか言ってない

5. こちらは武器を持っていない


「何だか分からないが、ヤバい状況かも」

巧は、本能的に危機を察知し、緑色の小男がやってくるのとは反対方向に走り出した。

するとその小男も追いかけてくる。

「くそっ、いきなり草むらに放り出された上に、謎の生物から追いかけられるなんて」

緑色の小男は、卑下た笑いを浮かべて巧を追いかけ続けた。


「はぁはぁはぁ。もうだめだ」

5分程走った所で普段の運動不足がたたってか、巧はもう走れなかった。


巧は、一か八か緑色の小男に対峙した。

緑色の小男は、身長は150cmくらい。横に大きく開いた口から牙を生やし、涎を垂らしていた。

顔は醜く、体にはボロ布を巻き付けているだけだった。

なんだこいつ? と巧は思った。


すると小男はこん棒を振り上げ飛び掛かってきた。

巧は、とっさに左に飛んで避けた。

だが、走った疲れからか踏ん張れず転倒してしまった。


「ギギギ」

と小男は口を歪めた。


「くっ。ダメか」

巧は、後ずさりした。


すると、横から凄まじい速度で飛来する物体が緑色の小男を吹っ飛ばした。


「何が?」

巧は、物体が飛来した方を向いた。

そこには、2m近いムキムキの大男が1.5mはある杖を小男の居た方に向けていた。


巧は、意味が分からなかった。

大男は一体何をしたんだろう?

それよりも、その大男の恰好が絶望的に似合っていない方が気になった。


あっ、そういえば緑色の小男はどうなった?

大男の恰好にツッコミを入れていた巧は、小男の方を見た。

その小男は、頭がひしゃげ息絶えていた。


「うげっ」

と巧は小男の死体から目を反らした。


すると大男が近寄ってきた。

「$#%##$」

何かを喋っているようだ。


巧は、何を言っているのか分からなかったが

「ありがとうございました」

とお礼を言った。

さすが礼儀にうるさい日本人である。


「まさか、ヤマト人とはな」

とその大男は珍しいとでも言いたげに言った。


「日本語を喋れるのですか?」


「喋れる訳ではない、お主がヤマト言葉らしき言葉を喋ったのでな。こちらの言葉をヤマト言葉に翻訳する言語魔法を自身に掛けたのだ」


「????」

巧は、全く意味が分からなかった。

「言語魔法?」


「まさか言語魔法を知らぬのか?」

信じられないというようにその大男は言った。


「魔法? あなたは魔法が使えるのですか?」


「先ほどのゴブリンを倒したのが魔法だ」

と大男が倒れている緑色の小男を指して言った。


だがあの時は、あまりのスピードに魔法かどうかの判断が付かなかった。

「不躾で申し訳ありませんが、もう一度見せてもらえませんか?」

とお願いしてみた。


「構わぬが、何故だ?」


「魔法を見たことがないもので」

巧は興味津々な顔で言った。


「分かった。ふむ、ヤマト人は魔法を知らぬのか」

すると大男は杖を、100mほど先にある大木に向けた。

「ストーンバレット」

そういうと杖の先から、人間の頭くらいの大きさの岩が物凄いスピードで木に向かっていった。


ズドーン

メキメキメキ

ズシーン

100m先にあった木は、飛んで行った岩に根元を破壊され折れていた。


巧はその一連の魔法を見て呆気に取られていた。

「そりゃあ死ぬわ」

緑色の小男のことをほ~んの少しだけ気の毒に思った。


「どうだ?」

とその大男は言った。


「これが魔法ですか。凄まじい威力ですね」

と感嘆の言葉を発した。


「だが、これは初級魔法だ」

とその大男は驚愕の一言を放った。


「これが初級?!」

巧は魔法とは凄まじいモノだという認識をこの時植え付けられた。


「どうやって魔法を使うのですか?」

と巧は聞いた。


「自身の中にある魔力を練り上げ収束し、呪文を以てその力を目的の物に変換し放出するのだ」

とその男は、魔法の使い方を言葉で説明してくれたが、巧はあまり良く理解できなかった。


「魔法を見せて頂きありがとうございました。おっと、遅まきながら僕は巧と申します」

と自己紹介をした。


「俺は、ニージェスという」


改めてニージェスと名乗った大男の事を見た。

ニージェスは30歳手前くらいの2m近い身長とムキムキの肉体を持つ偉丈夫だ。

その偉丈夫が、パンパンに張った半袖シャツに黒のサスペンダー付き半ズボン、それに黒いマントという出で立ちでいた。

その恰好は、黒いマントを除けば私立小学校、幼稚園の制服である。

巧は、さすがにこれで出歩いているのは大人としてまずいんじゃないかと思った。


「その恰好は?」

と巧は今一番気になることを聞いた。


「これは、マジェスタ魔法学園の正装だ」

とこれまた衝撃的な発言をニージェスはした。

巧は、大人用の正装がこんなのとは、随分とぶっ飛んだ学園だなと思った。


そんな巧の訝しむ雰囲気を無視するかのようにニージェスが

「お主のその恰好、もしやジャージか?」

細部まで良く見ようとジロジロと巧の周りを回り始めた。


そう言われて巧は、自分の恰好を意識した。

確かに、ジャージだ。

巧は、家に帰るとすぐジャージに着替える。

近場ならジャージで行くほどジャージをこよなく愛していた。


巧は、はっとした。

こんな恰好で草原に来ている自分が、ニージェスの恰好を笑えないことに気が付いたのだ。


ニージェスの恰好を笑ったことに申し訳なさを感じていると、ニージェスが

「初めて現物を見るぞ。まさか伝説のジャージをヤマト人が復元しているとはな。流石に機能的で洗練されておるわ」

とうんうん頷いていた。


「はい?」

巧は、またもや呆気に取られた。


どういうことだ?

ジャージに伝説?

このジャージという服に一体どういう伝説があるというのだ?


巧は、疑問だらけとなった。


ともかく、巧は一番聞かなくてはならないことに気付いた。

「ニージェスさん、ここはどこなんです?」

と巧は、ここでやっと本題に入った。


「なんだ、お主、迷い人か? ここはエールス大陸の西の端にあるアムの村近くの草原だ」


「エールス大陸?」


「お主、記憶喪失か? エールス大陸はこの世界で最も大きい大陸のことだ」


「因みに、今はいつなのですか?」


「今は、ガラル歴532年9月だ」


ダメだ、聞いたことが全く参考にならない。

巧は、全く聞いたことのない地域と歴に混乱していた。


「そもそも、ヤマトは魔物の大群に襲われ滅亡したはず。ヤマトから逃げてきたのか?」

とニージェスは聞いてきた。


「分かりません。何もかも」

日本が魔物に襲われたって? どういうことだ? と大層混乱していた巧は思わずそう言った。


「記憶喪失か」

ニージェスはその説明に納得していた。


「記憶喪失ならば放り出す訳にもいくまい。付いて来い」

と言ったニージェスは、巧を小さな村に連れていった。


その村をアムの村と言った。

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