自決
水燈紫雲
自決
午前一時三十四分。ふと浮かんだ仄暗い衝動を、思い立ったままに実現しようと外へ続く扉をゆっくり開く。携帯も、鍵も持たず、等間隔に立つ街灯を頼りにコンビニへと足を踏み出した。
光のない墨色の空には、私達人間の矮小な、暗闇を消してやろうという目論見は通じていないようだ。現に、灯のおかげで全くもって見えないとまではいかないが、その先、遠く離れた空間が、空の闇色が溶け出してそこと混ざり合うような……先の見えぬ恐怖が、自分の足を重くさせている。
早く、目的地へ行かねば。恐れに取って代わった焦燥感に駆られ、
コンビニに着くと、見慣れた内装と、眼球を刺す蛍光灯の光とにささやかな安堵を抱いた。
三、四本の太い突っ張り棒と、ガムテープ、延長コードに酒、お菓子。それらを、まるで自分にとっての宝物であるかのように、懸命に握り締めて、左手の買い物かごへ入れていく。一つ五百円以下で売られている物達が、この後の使い道を考えると、とても価値がある物のように見えた瞬間だった。
会計を終えると、自分の足は存外軽やかに暗闇へと躍り出た。街灯は舞台照明、爪先は勝手に跳ね、円舞曲を諳んじる。高揚した気分は、例の大事も必ず成功し得ることのように思わせる。言うなれば、根拠の無い全能感。片手に提げた宝箱を軽快に振り回し、夜を不遜に踏み潰す。大合唱する
ふと、べちゃりと何かを踏んだような音が下から聞こえて、立ち止まる。自分の気味良い行進が遮られ、少し嫌な感じがした。緩慢な動作で足を上げ、地面を確認する。
……蛙だ。蛙が、腹を晒して、死んでいる。自分の靴の跡を、そこへハッキリ写しながら、息絶えている。ぬらりと光って静かに広がる液体が、自分が殺してしまった証明に思えて、目を逸らしたくなった。命を奪ってしまったという悍ましい自覚とは裏腹に、口は掠れた
未来を奪ったにも関わらず、果てには羨望を口にするなんて、と、今度は嘲笑を形作る。自分がそうした癖に、なんと責任感の無いことだろうか。
居心地の悪さと、刹那、胸中を支配した思いから来る申し訳なさにここを去りたい一心で、靴底を地面で拭ってから再び足を踏み出した。
先の傲岸さはすっかり消え失せ、今や、肩に伸し掛かる罪悪感に、必死になって縮こまることしか出来ないでいた。
自決 水燈紫雲 @aruheruto-orumanka
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