俺に会いにいく

@masakaneko

第1話

仕事帰りにいつもの定食屋に寄って、夜ご飯を食べ帰宅しようとした時だった。


「危な〜〜、間に合ってよかったよかった」


今まさに開けようとしたドアから男が入ってくる。見た目からして四、五十代といったところだろうか。その顔には何故か既視感があって、どこかで会ったことがあったか?と記憶を辿る。残念ながら思い出すことは出来ず、他人の空似だろうと脇を通ろうとした。


「俺の顔見覚えない?」


その瞬間そう言われて立ち止まる。確かに見覚えはあるのだ。それがなぜ分かったのか不審に思いつつも、静かに頷いてみた。


「だよね。実はさ、俺お前なんだよ」


思考が止まる。数秒考えてこれは面倒くさいタイプの人間だと察した。どうせ勧誘か何かだろうと横を通ろうとするとちょっと待ってと行く道を塞がれる。


「信じられないかもしれないけど未来のお前なの」


とこちらの顔を指す。信じられるわけが無い。

「タイムマシーンはこの世に存在しない。もしも存在していたら今頃世界は未来人で溢れているだろう。過去に戻るというのはありえない。諦めなさい」

幼い頃タイムマシーンを発明したいと無邪気に言った俺に、父親が無慈悲にもこう説明したのを俺ははっきりと覚えている。幼かった俺はそれがショックでそれきり夢を諦めたのだ。


「確かにね、親父はタイムマシーンはないって言ってたけど未来はすごいんだって」


ありえない、と思う。俺の心を読んだのかと思う程考えを見透かされ驚きと共に不信感も増す。


「なんでって顔してるけど同一人物だからわかるんだって。んーーお前がつい一週間前に振られた元彼女の名前でも当てたら信じれる?」


この頃は誰だっけなーーと言って悩み始めたそいつにじゃあ振られないようにもうちょい早く来るとかないの、と思わず愚痴がこぼれた。


「タイムマシーンにも色々あんの、制約とか諸々」


そう言って少し嫌そうな顔をする。


「例えば"わざと未来を変えさせてはいけない"とか。こうしなさいとかアドバイスとかしちゃだめなんだよ。だから結局ユウカちゃんとは別れてたよ多分」


元彼女の名前を当てられもうそろそろ信じざるを得なくなってきた。


「あとまだタイムマシーンが一般的ってわけじゃないから、普通の人は一生に一回使えるかって感じかな」


その貴重な一回をどうして今に使ったんだ?と聞く。今日はなんでもないただの仕事の日だった。


「今来た理由はもうすぐわかるよ」


となんとなく誤魔化すような返事が返ってきた。話題をそらすように他にもタイムマシーンは…と説明し始める。


流石に店の出入口でずっと話しているわけにもいかず、場所を近くの公園に移して話し込む。自分だからと言えば当たり前なのだが気が合うもので、話は弾み気が付けば一時間ほど経っていた。


「あ、そろそろ戻らないと」


ふと時計を確認したそいつが言う。こっちにいれる時間も決まっててさ〜とだるそうな顔をする。


「あとさ、未来から来た人に会ったとか誰にも言っちゃだめだから」


なぜ?と聞くより先に俺の心を読むように答えられる。


「そんなんしたら未来変わっちゃうからな」


確かにと納得すると同時にこうして過去に来てる時点で未来は変わっていないか?と疑問に思う。


「多少はいいの多少は。大きく変われば未来にも影響あるし。そんなことなって俺のせいってなったら未来の俺が犯罪者になるんだからな、やめろよ」


そう念を押されれば少し好奇心が出てきてしまうのが人間である。そしてまたそれを見透かすように


「やったらまじで終わるから」


と真剣な顔で言われたので本当にだめなんだな理解した。タイムマシーンというのはよく分からない。


「じゃあ帰りますか」


と言って重そうな腰を持ち上げ立ち上がった。案外あっさりした別れだなと思う。そもそも出会いだって感動的なものではなかった。とはいえ何だか心寂しいものだ。


「お前はきっと俺に感謝するしお前も将来この時に過去に戻ってくるよ。元気に生きろよ」


と言ったそいつの周りが少し明るくなって、姿が消えた。今までのことが事実だと押し付けられる。たちの悪いドッキリでもなんでもなくタイムマシーンが実在するということに興奮すると同時にまだ信じられない自分もいる。去り際に言った言葉の意味を考えてみたがよく分からず、俺だったら絶対もっと大事な時に帰ってくるけどなと思う。数分、公園のベンチでぼーっとした後、そろそろ帰ろうかと帰路に着いた。


家の前に着くと人だかりが出来ていた。なんだと思い見ると明らかに自分のアパートに警察がいた。訳も分からずその場に立っていると周りからあの強盗だって、良かったわね捕まってという内容が聞こえてきた。

詳しく聞けば最近県内で強盗殺人が何件か起きていて、俺のアパートでも同じことが起きようとしていたそうだ。幸いにも盗みに入った部屋には人はおらず、アパートの付近にいた犯人を怪しいと思ったご近所さんが通報して捕まったらしい。その盗みに入った部屋というのが俺の部屋で、それらを全て聞いてやっと俺は未来のあいつが言っていたことを理解した。

アドバイスは出来ないがああして話すことで俺が家に帰らないようにしていたのか。あいつもそうして助かったのか?だから俺のところに来たのか?最初の俺はどうやって助かったんだ?最初の俺ってなんだ?とあれこれ考えるがもう答えはわからないままである。俺はあと数十年で完成するであろうタイムマシーンを待つことしか出来ない。


ただ俺は、スマホのメモ帳に今日の日付とおそらく定食屋にいたであろう時間をメモした。過去の俺を助けられるように。

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