夢日記1028 あのちゃんとべろちゅー
場所はおそらく、実家の和室。
襖が全て閉めてあるが、外から光がぼんやりと差し込んでくる。
薄暗い部屋の畳の上に、誰かが俺と相対している。
誰だろう。
かろうじて差し込む光を頼りに、その姿形を探り当てる。
自然、相手と身体が触れ合うほどに近づく。
と、俺の唇が、その何者かによって、突如として遮られた。
俺はびっくりして目を閉じ、そして、そろ、そろりと、瞼を開けていく。
そこには、実家には絶対いないであろう女性の顔があった。
あのちゃんだ。
あのちゃんの舌が、容赦なく俺の唇を突破し、そしてまた容赦なく俺の舌を舐め回すのがわかる。
俺あのちゃんにべろちゅーされてる!
ゲロの方じゃない、真っ当なディープキスが俺の口内を絶え間なく包み込む。
「ん……」「んんッ……」「んふゥ……!!」みたいな声にもならない息を二人して響かせたあとに「ぷはぁ!」と、俺はあのちゃんのべろちゅーから豪快に解放された。
と、俺の肩あたりがぐいっと掴まれて、頭ごと、あのちゃんの顔の横まで一気に引き寄せられた。
頬にあのちゃんの髪の毛がさらさらっとかかる。くすぐったい。そう思うまもなく、あの腫れぼったい唇が、右耳の至近距離を詰めた。
「休みたければ休んだらいいからね」
「え?」
「適応障害って言って大丈夫だから」
テレビやYouTubeで何度も聞いた、鼻にかかった甘ったるい声で、彼女は俺にそう囁いた。
どうやら俺は何かしらの理由で、会社か学校を休んでここにいるらしい。
で、そんな病んだ心をこうして癒してもらってる、ということなのかもしれない。
「俺は過去にも水泳が嫌で2時間休んだりした、それくらいのことだよ」
そう、自分でもよく分からない返事をすると
「野良犬はたくさんいるから、静かにして」
と言われ、「しーっ!」のポーズを取られた。
「結果的に心身の不調で二日休まなくても良いって話やし……」
と、そんなあのちゃんに、ささやかな抵抗のような反論のような何かをもにょり、景色はそのままブラックアウトしていった。
あの畳の部屋は、実家ではなくてどこかの新地だったのかもしれない。
場面が切り替わった。
母、妹、俺の3人で、京都の北野天満宮へと歩みを進めた。みんな荷物を持っている。
すると、突如として木製のハイツのような建造物が現れた。
母と妹は、そこにズカズカと入っていく。
俺は察しが悪く、この状況を理解することができなかった。
「俺、関東に住むって言ったやんな?」
「いや、やから実家売ったやん。話したやろ?ここに引っ越すって」
「聞いてない、そんなこと。」
俺は親に当たり散らかした。
「もっと俺に分かる言葉で説明してよ!」
妹が、またこいつが何か言ってる、と言ったように、無言でため息をつく。
「俺が納得するまで説明してから、するものやろ?引っ越しは!」
母が妹に目配せする。顔には、どうせお前は一人暮らしやし、お前に言っても理解も納得もせえへんやんけ、と書いてあるような気がした。
それを見て、さらに頭に血が上った。
目覚ましが鳴った。
俺はつっかえつっかえ、今の理不尽な状況を、虚空に向かって話すところだった。
一人暮らしの部屋の壁に向かって。
夢日記傑作選 三年分文字起こし計画 むすカルマ @ssromuska
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