物理で殴れば良い
モンスターといえど、生物だ。存在が木であり、認識できるのであれば火を敬遠するはずだ。
そしてエフェクトのスキルで火の明かりや熱を忠実に再現できなくとも、そこに「火」があると認識させれば、生物は警戒しなければならない。
人が咄嗟に引き抜き、突きつけたものが銃だったとして、一瞬のうちにそれが本物か、モデルガンか、はたまた何もできないただの玩具か判別できる人間は少ない。
駆け寄るフェクトに気づいたジュモクドラゴンはこちらを警戒していた。特に拳に視線が向いている。しっかりと火を見て警戒を強めていることがわかった。
「ギャバァ!」
一匹のジュモクドラゴンが口から大きな木の塊を吐き出す。恐らく種だろう。自分の体は火に触れれば燃えるが、種なら別だ。吐きつければ自分を傷つけることなく、攻撃できる。燃えやすいとはいえ、一瞬で燃焼させるほどの高熱の火を出せるものは少ない。燃やされても攻撃として種をぶつけるという目的は達成される。
「フッ」
フェクトは身をひねりながら種を避け、ジュモクドラゴンたちに近づく。
「木なら、こいつでどうだァ!」
手を振り上げ、エフェクトを解除する。その形は手刀。
木材の強度はヤング係数で表される。要はある圧力に対する強さだ。圧縮、引張り、曲げ、せん断――打撃というのは圧縮が該当するのだろうか――とにかく木材において圧縮、引張りの数値は高くなりやすい。つまり、そういった圧力には比較的変形せずに形を保てる。曲げる、は木材によるが、これもまぁまぁ形を保とうとできる。
せん断。これが木材において数値が低くなりやすい。
せん断とはハサミのように二方向から圧力をかけるものである。そしてせん断とは切断方法の一種。
そして格闘技にはせん断の例がある。
瓦割りだ。
二つの台の上にのせた瓦に台の存在しない中央部分に手刀やパンチを振り下ろして破壊する瓦割り。
あれにはせん断力が働いている。
そして斬撃エフェクトによって己の手が刃になったかのような気分になり、切断できる気がするのだ。
……気分だけ。
台はジュモクドラゴンの四本足、そして狙うは胴体。
「オリャア!」
その縦一閃は、ジュモクドラゴンの真っ二つにした。
「グぎゃアァア!」
ジュモクドラゴンの悲鳴と、木特有のメキメキやバキバキといった音と共に体を破壊し切る。
「次ぃ!」
右腕を縦に構えて、近くのジュモクドラゴンに飛び込む。
空手で言う落とし
肘はエフェクトによって槍のように突き刺さる。肘にそんな貫通力はないが。
「ゴギャァ!」
バキッと、ジュモクドラゴンの背中が大きくへこむ。車に轢かれたかのように潰れ、動かなくなった。
続いて三体目のジュモクドラゴンが口を開き、噛みついてくる。
「うぉ」
鋭いキバを掴み、二、三歩後退するが、そこで踏みとどまり、噛みつかれず動きを止め続ける。
「すぅ」
陽炎のようなエフェクトがフェクトの全身にかかる。気分があがれば力も入りやすくなる。
所詮プラシーボ効果。だが、プラシーボ効果を侮るなかれ。人は気持ちひとつで病気すら治してしまうのだ。
実際の効果に比べれば確かに劣る。
しかし、意味がないわけではない。
なぜなら……このほうがかっこいいからだ。
「ふんっ!」
ジュモクドラゴンを牙を持ったまま捻って、ひっくり返す。
体がひっくり返ってもがくジュモクドラゴンの腹部目掛けて正拳を落とし、穴を空ける。
これで三体。
残るは――。
「やっぱ強いね。あはは……」
苦笑いしているバミィの足元で倒れていた。頭部を破壊されて倒されている。
ジュモクドラゴン四体は光の粒子に変わり、魔石を落としていった。
◯
ランクの高いモンスターを倒せたからといって他のランクの高いモンスターを倒せるかはわからない。
モンスターの特徴とシーカーの強さの方向性の相性。その問題があるからだ。ジュモクドラゴンは打撃に強く、斬撃も通り悪い。有効な手段は「掘削」することだ。要は刺突が有利なのだが、レイピアなんてものを使っても意味はない。バミィの持っている片口ハンマーは片方が尖っているため、掘削を行える。
よってジュモクドラゴンの攻略はスキルと組み合わせて急所や部位を破壊していくか、火のエンチャントで燃やすかだ。ただ、火のエンチャントはジュモクドラゴンの体内の水分で途中で消えてしまうときもあるためある程度の火力が必要だ。
これ以外で倒せなくもないが時間がかかる。C+となっているのはCランクのシーカーが遭遇した際の有効だが非常に限られてしまうからだ。
「木片……ですかね」
ジュモクドラゴンのドロップ品をまじまじと見るフェクト。彼が、素手で三体瞬殺すると思わなかった。改めて強さを実感する。
「香木で人気だから結構売れるよ」
「マジですか。入れとこ」
三体分のドロップ品を回収し、フェクトは満足そうにする。
バミィも自分で倒した分は回収する。
「大丈夫? 疲れてない?」
「全く。あと百体は倒せます」
にかっと笑うフェクト。本当に疲労を感じていないようだった。Cランクダンジョンまでしか潜れなかったであろうに、どうしてここまで身体能力が高いのか、疑問は尽きない。
「じゃ、どんどん行こうか」
まぁ、おかげでパワードスーツ「スケルトンパワード」のバッテリーも使わなくて良かったり、かなり体力も温存できている。強いことはいいことだ。
バミィは再び先頭に立ち、ダンジョンを進み始めた。
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