攻略開始
翌日。タクシーを使い、ダンジョンの現場にたどり着いた。山奥にある神社、その小さな鳥居が入口になっていた。
シーカーゲートにカードをスキャンし、シールドを解除する。
そして二人でダンジョンに入る。
「暗いですね」
「ライト、つけるよ」
バミィの手首に光が点き、周りを照らす。苔まみれの暗い通路が続いていた。ところどころ壁を食い破るように太い根のようなものが出ている。
「録画開始っと」
バミィはスマートフォンを操作して録画を開始する。ドローンモードになって浮かんだスマホが二人の姿を映す。
バミィはスマホに向けて笑顔をみせた。
「おはこんちばん〜! バミィだよ。今回は、この間助けてくれたフェクトさんとBランクダンジョン攻略していきたいと思います。Bランクなので、配信じゃなくて動画なのが寂しいけど……応援してくれると嬉しいな! それじゃ早速進んでいきましょう!」
あいさつもそこそこにといった感じでバミィはすぐに真剣な表情に切り替わると、進み出す。
「ボクが先導するから、フェクトさんはサポート……危なかったらフォローしてほしい」
「了解です」
フェクトはバミィの後ろをついていく。バミィの格好は以前のダンジョン攻略とはまた違っていた。全身タイツのような格好の上にジャケットやショートパンツ、ブーツなどを身に着けており、両サイドの腰にウエストポーチがある。背中にはファンのついたパーツがついており、ハンマーは手に持った状態だ。
バミィいわくダンジョン攻略用のパワードスーツらしい。バッテリーが使い捨てらしく、魔力と電力を大量消費する特殊なバッテリーで、それだけでもかなり高額とのこと。Bランクダンジョンで厳しい場面にのみ使う装備で、前回は着ていなかったのは、一度使用するだけでもかなりコストがかかるから、だそうだ。
だからか、バミィは普段、C+以下のランクのダンジョンで配信をして稼いでいる。Bは滅多にいかないのだそうだ。
「戦闘はフェクトさんメインで行こう。ランク昇格かかってるしね」
「はい」
警戒しながら進むバミィに釣られるように、いつもより慎重に観察するフェクト。普段であれば懐中電灯片手に気分で進むのだが、やはり誰かと一緒となれば勝手なことはできない。
空気がどこか重々しく感じるのは、Bランクダンジョンだからなのか。それもフェクトを慎重にさせる要素だった。
「魔力酔いは大丈夫そう?」
「今のところ平気ですけど。あの……魔力酔いってなんです」
「ダンジョン内には魔力が満ちてるからね。濃度が濃ければ濃いほど、それに順応した強いモンスターが出てくる。だからランク判定には魔力濃度の測定が行われるんだ。フェクトさんは強いから大丈夫そうな気がするけど。ボクは最初辛くてダンジョン終わりに吐いたね」
あはは……と力なく笑うバミィ。ということは重く感じているのは魔力か。
「毒みたいなもんですね」
「でもより濃い魔力に慣れれば慣れるほどシーカーの身体能力も強化される。魔力に順応するのはモンスターだけじゃなく、人間もってわけ。だからって一般人がBランクに来たら死んじゃうかもしれないけど」
その話を聞いて、歴史の授業で習った「Sランクダンジョン事件」を思い出す。ダンジョンは成長する。一時期、ダンジョンを攻略せずに放置する時期があったらしい。つまりCランクダンジョンが現れても、Bランク、Aランクと成長するまで放置し、より質の良く大量の資源を得ようとしたのだ。
結果はSランクダンジョンにまで成長し、誰も攻略できなくなった。ダンジョンの出現地となった樹海はまるごとモンスターの領域と化し、近くにいる住民たちは魔力の濃度に耐えられず死んでいった。
最終的にSランクダンジョンは海外のSランクシーカーによって攻略された。だが、この事件をきっかけにダンジョンは発生した場合速やかに攻略することが望ましいとなった。
曲がり角のクリアリングを済ませたバミィが唇に人差し指を当てる。フェクトはこっそり進行方向を確認した。
木でできた大トカゲが通路を徘徊している。四匹ほど壁に張り付いていたり、地面を這っていたりしていた。
「C+モンスターのジュモクドラゴンね」
「俺行きます」
「打撃は不利だよ。ボクなら倒せるけど、フェクトくんは?」
「大丈夫です。こいつがあります」
拳を握って火のエフェクトを宿す。拳全体を火のエフェクトが包んだ。
そこには熱もなければ灯りとしてもあまり役立ちそうにない。本当に火が浮かんでいるという感じで周りを照らせていないからだ。
「ちょ、それってただのエフェクト……」
「では行ってきます!」
「ちょっと待てぇ!」
突撃した。
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