Bランクダンジョンへ
カフェで食事を楽しんでいたとき、テーブルに置いていたスマホが通知画面を表示した。
それを見たバミィは素早くスマホを取り、食い入るように見る。
フェクトからのDMだった。
『こんにちは。突然すいません。Bランク昇格の件ですが、Bランクダンジョンの攻略をしたら認められることになりました。Bランクのシーカーの付き添いが必要らしくてお願いしてもいいですか? 知っている人バミィさんしかいなくて』
「――行くっ! 絶対行く!」
即答した。返信すればいいだけというのに周りに見られるほどの大声で。
◯
以前は別れるときに寄った駅だが、今日は待ち合わせに使う。
水色のワンピースにベージュのカーディガンを羽織ってバミィはフェクトを待っていた。うさぎのタレ耳のようなパーツのついたキャスケット帽子を被り、その手にはキャリーケースがある。
ここから電車を使用して二時間、そこからタクシーを使用しなければならない場所にBランクダンジョンが出現中で、そこがフェクトの昇格に関わるダンジョンとなっている。
ダンジョンはバミィの生活している市では月三〜十回出現する。幅があるのは、安定して出現するものではないからだ。
ほとんどがD〜Cランクダンジョンだ。C+以上のダンジョンは滅多に出ない。地域によってダンジョンの発生率が違うので、Bランクのダンジョンが月一単位で出てくる地域も存在する。
ダンジョンの出現頻度に反してシーカーはいるため、普段シーカーは別の仕事をしている者も多い。バミィの場合は配信だ。
「おまたせしました」
ボストンバッグを持って、フェクトがやってくる。
「おはよ、フェクトさん」
「おはようございます」
「敬語やめてもいいんだよ?」
バミィが頬をふくらませながら言うと、フェクトは恥ずかしそうに頭をかいた。
「いやぁ、なんとなくむず痒くて」
「むぅ、慣れたらやめてね」
「善処します」
いつになるやら。バミィはそう思いながらもスマートフォンを出して、交通系のICカードアプリを起動する。
「それじゃ行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
二人で改札口を通る。
今回はホテルを予約してある。バミィが二部屋予約した。フェクトは日帰りのつもりでいたが、慌てて引き止めた。
移動でも体力を使う。万全じゃない状態でダンジョンに挑むべきではないし、ダンジョン攻略後に帰るのも疲れて大変だ。
特に、C+以上になるとダンジョンの構造も複雑になってくる。
駅のホームで並び、来た電車に乗る。
「なんか、上機嫌ですね」
「そうかなぁ?」
「はい。そういう風に見えます」
「フェクトさんがボクを頼ってくれたし、Bランクのダンジョンは稼げるからね。しかも昇格用のロックがかかるから他のシーカーに攻略されることもないし」
配信はリアルタイムでダンジョンの様子を伝えられるが、自分のランクよりも下のランクでなければ許可されない。だが、動画だと別だ。
動画撮影し、協会に申請して許諾を得られれば動画投稿できる。
せっかくフェクトの動画でバズったのだから、今回のダンジョンも動画を撮っておけばみたいという人もいるだろう。フェクトには許可は得ている。
報酬は動画収入額の山分けを提案したが、「いえ付き合ってもらうのでそれだけで十分です」と断られた。稼がせてもらえるのは確定であるし、せめて素材は多めに持って帰ってもらおう。
◯
電車の席に座っていると、肩に小さな頭が乗る。視線をそちらに移すとバミィが寝ていた。
(これは、起こしたほうがいいのか?」
せっけんの香りが鼻腔を通り、心地よい重さに心臓の音が大きくなる。降りる駅までまだ三十分ほどある。
ワンピース姿なのもあってかわからないが、胸元が若干ゆるくきめ細やかな肌が間近に見えるし、耳元で規則正しい寝息が聞こえる。
「すぅー、すぅー」
メガネが少しずれているのが、かわいいと思ってしまう。
赤の他人ではないし、このままでいいだろうか。いやしかし彼氏でもないのにこの状況はいいのだろうか。
女性だからキャリーケースにいろいろと入っているだろうし、準備にも時間がかかっただろう。ギリギリまで寝ていたほうが良いだろうし……なんて思考がぐるぐる頭をめぐり、最終的に思考を放棄してとりあえず現状維持の方向に落ち着いた。
Bランクダンジョン。
いったいどんなモンスターがいるのだろうか。楽しみではある。
とりあえず隣の悩ましさから気をそらすようにスマホでサイトやSNSを見ることにする。
流れているアニメのイラストとかを見ようそうしよう。
◯
あと一駅のところで、フェクトはバミィを起こすことにした。
「バミィさんバミィさん」
声をかけても起きないので、肩を少し上下して、ゆっくり頭を揺らす。
「……うぅん」
「次、降りる駅ですよ」
「ふぇ? えき?」
頭をあげてぼうっとこちらを見るバミィ。よだれが口の端から垂れている。じっとフェクトを見つめてから、顔が徐々に赤くなっていく。
「あの、よだれ垂れてます」
「ご、ごめん」
バミィは急いで袖でよだれを拭い、ずれているメガネを掛け直した。
「ずっと肩貸してくれてたんだ。ごめんね?」
潤んだ瞳で見つめられる。口元で手で三角をつくるようにあわせて、首を傾けるしぐさがかわいらしかった。
「い、いえ、俺なんかの肩でよければ」
どう返答したらいいのかわからず、フェクトは目をそらしながらそういった。
『次は――』
目的地の駅名が告げられ、気を取り直す。
「ではいきましょうか」
「うん」
電車が止まり、扉が開く。二人で電車を出た。
いざBランクダンジョンへ――の前にホテルで休憩だ。
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