🔮パープル式部一代記・第六十六話
怪しげな人影は、どんどん近づいてくる。この家に入ってこようとする意思は、最早明白であった。
「えっ!? 男が通ってきた!? そんなの取説に書いていないし、あり得そうにもない! やはり強盗か!?」
「知りあい……?」
影は、やがてぼんやりと正体を現し、しわがれた声を出しながら、
「悪しき気が漂っておる……久しいな、妖怪イワシ女房……」
そんな声が聞こえたかと思えば、すぐになにかを詠唱する声が聞こえ、あたりが一瞬、煌々とした光に包まれ、思わず眩しさから目を逸らし、なんとか気を取り直して、抜刀した刀を手に、紫式部のいる
「田舎者だから、ご高名を知らないんですよ……」
「変なじじいではなく、希代の陰陽師、
なんて、変なじじい……ではなく、
「えっと……なぜ、
まさかの紫式部と道長の関係を想像した
「わたしは、希代の陰陽師だからね……」
「はあ……」
「君があの有名な和泉式部の夫か……よかったら、浮気封じの札を売ってあげてもいいよ? 効果100%……」
「えっ、本当に!? って高っ!」
「それなりのモノには、それなりの価値がいるのだよ……」
そして、火災の後始末に、年末年始が重なって、道長が、超忙しかったことが災いし、かなりたってから、ようやく道長から「支払い保証状」が届き、それからすぐに、
「バールのような物(手斧)に注意ってこれか……」
紫式部は、生霊に取りつかれていたのである。
「しかし、かなりの耐性があるね? 普通は、もうあの世に行ってるはず……誰の生霊か知りたかったら、別料金……」
「わたしは選ばれし存在だから……あと、わたしは別に、正体は誰でもいいから、そこは道長にまかせるよ……どうするか聞いといて? この、生の取り憑かれ体験も物語に生かさねばっ……もう少し早かったら、あの場面に生かせたのにな……」
「わかった……」
太陽がうっかりにらまれると顔を隠すほどの、ジメついて暗い、闇に引きずり込まれるような、陰湿な瞳の輝きと情念を持つ女、紫式部は、「やはりわたしは選ばれし存在」と、自分に感動していた。
そう、彼女は忘れていたのである。自分の被っている衾から床に転がった『豪華漆塗り螺鈿細工の祈祷済み
紫式部がすっかり寝込んでから、
そして
「替えのきかない大作家だからね!」
巨額の支払いに、なぜか紫式部は威張っていたが、その分はあとの給料から分割払いと、
下手をすれば、親子ローンになりかねない……そんな、巨額の支払いであった。
「じじい……少しまけてくれ……」
「いやいや、もう、退官しちゃって、老い先が長そうな生活があるからね、
「じじい……覚えてろよ……紙と墨を無駄遣いしやがって……わたしみたいな大作家しか、本なんて、そんなホイホイ売れるもんじゃないんだよっ!」
じじい……史実では、既に身罷ったはずの
***
「電子書籍か……でも、まだ先に在庫を掃いてしまわないとね……実は、源氏物語の漢文バージョンもあるんだけど、うち、見つけにくいのかなぁ……」
ここだけの話であるが、現代、日本の京都の片隅で、「じじい」がそんなことを言いながら、直筆の『
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