🔮紫式部奇譚・パープル式部一代記
相ヶ瀬モネ
🔮パープル式部一代記・第壱話
※🔮パープル式部一代記・おしらせ➡フィクション平安昔話です。もちろん、ま〇ろちゃんではないです。主人公は、ゆかりちゃんです。以下、本編です。
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平安の世に、学識高くも、名ばかりの貧乏学者な貴族がいた。彼には、娘がひとり、息子がひとりいる。
娘は、生まれながらに才能に満ち溢れ、代わりにといってはなんであるが、実に根が暗く、
娘が、どのくらい、ジメジメしているかと言えば、ひと目、娘が空を見上げれば、干ばつが疑われて、雨乞の予定が組まれていた。そんな晴れすぎて、我が物顔にギラついていた太陽も、その視線には驚き、瞬く間に姿を隠し、どっさりと大雨が降るほどに、ジメついて暗い、闇に引きずり込まれるような、陰湿な瞳の輝きと、情念を持つ娘であった。
貧乏貴族の家には、高級品である紙が、学者である父親の為に、必要最低限しかなかった。
そんな訳で、余った紙など、ありはしないので、ヨレボロの御簾内で、几帳や屏風、ありとあらゆる古ぼけた家具に、娘は、漢詩や経典の書き写しなど、なにかしらを、日々それはそれは美しい筆の跡で、書き殴っていたので、ついには、筆の跡が重なり過ぎて、家具は墨色に、黒光りしていた。
そんな娘の父や兄は、「いつか、とんでもないことを、しでかすのではないか?」そう思うが、あまりの迫力に、ふたりで肩を寄せ合って震え、おののいたような視線を、どこか暗い菫色の光に覆われているような、そんな娘に向けるだけであった。
娘の名は『ゆかり』後の『パープル式部』である。
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ある日のことであった。父の
それを横目に、「どこか書く場所はないか?」そんな狂気じみた様子で、墨のたっぷり入った硯、そして筆を手に、いつものごとく、御簾内をウロウロしていた娘、ゆかりは、やはり知らぬそぶりで、やり過ごしていた父と兄の前に、突然姿を現すと、右手に持った筆を床に振り下ろし、
無論、床は全て墨にまみれはしたが……
「あ……えっと、素晴らしい! あの、その、お、お前が男であったなら……うん、残念だ……」
いや、男でもちょっと、かなり困難な性格であったかも……。
ゆかりの才能に驚嘆しながらも、父はそんなことを考えつつ、前出の言葉を口にしていたが、ゆかりは、床をじっと見つめ、それから、床の上で置物になっている兄を凝視してから、やはり硯と筆を持って、どこかへ消えてゆく。
その翌朝からのことである。兄の
そしてそれから先は、ゆかりが
父もはじめは戸惑うばかりであったが、呪いをかけるが如き、娘の眼差しに怯え、なにも言えなかったし、母は、ゆかりの弟を産んですぐに身罷っていたので、彼女に歯止めはなかった。
たったふたりの下男と下女は、ゆく当てもない者たちだったので、やはり貝のように、硬く口を閉ざしていた。
そんな、かなりあやうい家に、滅多に来ない客がひとり来た。
親戚の男である。
「ゆか……い、いや、
「ほう、ようやく、やる気を出したのか……あれ? なんだか少し、小さくなっていないか?」
「きっ、気のせい!」
「気のせいですよ……」
時々たずねてくる又従兄妹で、父とは兄弟のような付き合いのある
「……計算通り」
「…………」
にたりと笑う、
まあ、打てば響く、自分で自分のことを、「出藍の誉れ」なんて言っちゃう、ゆかりの方が教えていて楽しかったのも、事実やもしれない。
それから時は流れ、寛和弐年(986年)花山天皇の退位に伴い、父の
***
〈 後書き 〉
※なぜに「ゆかり」かと言えば、ふりかけからのオマージュです。「ゆかり」を食べると大人になった気分を味わえた子ども時代……そして、彷彿とさせられるあの色味
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