復讐の同窓会

馬宮いち丸

第1話 復讐に至る過去

 草野は25歳になった今でも、中学時代の記憶が鮮明に蘇ることがある。


 中学2年になった4月から、草野の地獄が始まった。朝教室に入るとすぐに、タクヤを中心としたいじめっ子連中が待ち構えていた。彼らは草野を取り囲み、罵詈雑言を浴びせた。シューズを隠したり教科書を破るのはいつものこと。夏休み前にはそれがさらにエスカレートして、金銭を巻き上げたり、罰ゲームと称して万引きを強要された。

 特にタクヤは、草野を徹底的に追い詰めることに快感を覚えていた。体育の授業では柔道の練習と称して草野が絶叫するまで関節技や締め技をかけ、トイレでは草野に小便をかけた。

 ヒロシや彩子もタクヤに追従し、草野をいじめることで自分が強い人間であることを周囲に知らしめようとしていた。

 担任の太田は、いじめの現場を見て見ぬふりをする、最低の教員だった。いじめに耐えられなくなって太田と面談したものの、「草野は自分の考えを表現できないからダメなんだ。いじめられる草野にも責任がある」と言い放った。ある日草野が使っていた机に油性ペンで「死ね」「消えろ」といった落書きがされていたのだが、太田はこれを消して元通りにするように、草野に対して命令したのだ。

 直樹もまた、当時の学級委員としての責任を放棄して、草野を助けることはなかった。


 このような日々が続く中で、草野の心は次第に壊れていった。結局草野は、中学2年の夏休み後から学校に行くことができなくなった。裕福でない家庭に育った草野は塾にも行けず、成績は低いままだった。家でも、両親には心配をかけたくないという思いから、両親に対して悩みを打ち明けることはなかった。孤独と絶望の中で、草野は次第に自分の価値を見失い、多感な10代の時期のほとんどを引きこもり生活の中で過ごすことになった。

 一年遅れで通信制高校をなんとか卒業したものの、人と接することを極端に恐れる彼に向く仕事の口はほとんどなく、通販の荷物を仕分けする深夜のバイトで何とか食い繋ぐ日々だった。


 そんなある日、草野は偶然にも当時のいじめっ子連中の現在の状況を知ることになった。バイトの同僚の山下は草野の2歳年下で、草野の二軒隣の家に住んでいる。語学留学に向けてバイトを掛け持ちしてお金を貯めていて、誰とも分け隔てなく話す気の良いやつだ。長く地元にいてバイトも掛け持ちしているだけあって、色々な方面に知り合いがいて、なかなか情報通だ。その山下から、ある日タクヤの名前を聞いたのだ。草野に対して最も熾烈な暴力を加えたタクヤの名前を。


 タクヤがフォークリフトの免許を取ったらしいという小さな話題に過ぎなかったのだが、そこから派生して、草野をいじめた連中の現況が分かってきたのだ。

 タクヤは地元の工務店で安定した給料を得ていて、その子分だったヒロシは結婚して地元の信用金庫で働いているようだ。タクヤと付き合っていた彩子は、駅前のキャバクラでそこそこの稼ぎを得ているそうだ。


 「あのいじめがなければ、俺だってもっと幸せな生活を送れていたはずだ」と草野は思った。草野に対して暴力や恐喝など明らかな違法行為を働いてきた彼らが安定した生活を送っていることを知った草野の心に、怒りと憎しみが湧き上がってきた。それからというもの、草野は夜な夜な、いじめっ子たちに復讐する方法がないか考えるようになった。


 そんなある日、草野のもとに学校主催の同窓会の知らせが届いた。当時の担任だった太田が定年を迎えることになり、学級委員だった直樹が送別会と同窓会を企画したのだった。草野はこの機会を利用して、当時クラスで自分を痛い目にあわせた連中に復讐を企てることを決意した。彼の心の中で、復讐の炎が大きく燃え上がったのだった。

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