第7話 勉強会 - 0.5

「お邪魔します」


 あれ?そういえば男の子の家に上がるのは初めてだな。なんかちょっと緊張してきた……


「どうぞどうぞお上がりください」


「僕の部屋でもいいんだけど…、リビングでいいか?」


「うん、わかった」


 正直言って健人君の部屋にも興味はあったけどそんなこと言ったら変に思われちゃいそうだなぁ。


「じゃあ少しの間くつろいでてくれ。色々持ってくるから」


「いや、手伝うよ」


「ううん、大丈夫。一人でできるから」


 だめだったか。あわよくば健人君の部屋に入れたら良かったんだけど……そう上手くは行かないか。


 ◆


「で?で?どうなんですかぁ?美希さぁん。お兄ちゃんのこと、好きなんですかぁ?そうなんですかぁ?やっぱりそうですよねぇ。お兄ちゃん、かっこいいですもんねぇ」


 いや、まだ何も言ってないんだけど。けど、健人君がかっこいいことは確かだし、健人君といっしょにいるとドキドキする。私は人を好きになったことが無いからこの気持ちが何なのか、これが『好き』と言う気持ちなのかどうかわからない。

 仮にこの気持ちが、感情が『好き』だとしても、彼の方はどうなんだろう。彼は私のことをどう思ってるんだろう。ただの女友達としか思ってないのか、少しは私を一人の女の子として意識しているのか。はたまた、彼も私のことを好きなのか、わからない。


「………どうなんだろう。この感情をなんて表したらいいのかわからない……」


「ほほう、それはどんな感情なんですか?」


「なんだろう、健人君といっしょにいると落ち着かないというか、ドキドキするの。それなのにすごく安心して、楽しくて、すごく幸せで、私が私じゃなくなっちゃいそうなの。だけど、それでいいというか…それでも健人君と一緒にいたい、いっぱい喋りたい、もっと彼のことを知りたい、彼を独り占めしたい、と思うの。これって私がおかしいのかな……」


「……そうですね、これは至って普通の恋ですね。『好き』という感情で間違いないでしょう」


「やっぱりそうなの?私、健人君のことが好きなの?」


 私は、健人くんが好き……


「で?お兄ちゃんのどこが好きなんですかぁ?顔ですかぁ?優しいところですかぁ?それとも別の…ああ、全部ですかぁ。デレデレですねぇ」


 いや、だからまだ何も言ってないんだけど。そうだな…声とか、笑顔とか、優しいところとか、ちょっと不器用なところとか…ああ、挙げだしたらきりがない!


「うん…控えめに言って全部かなぁ」


「いや、本当にデレデレじゃないですか。いやぁしかしどうやってこんなに綺麗な人をお兄ちゃんはどうやって堕としたんだろう」


「ちょっと未悠、そんな事言わないで。私がちょろい女みたいに聞こえるじゃん。これでも学校では『氷姫』って呼ばれてるんだよ?」


 健人君や未悠の前では『氷姫』の仮面を脱いでるんだけどまだ他の人の前――親の前でさえ――仮面を被って過ごしてるんだからね?


「まぁ、私は学校での美希さんを知らないですからねぇ。」


 確かにそれはそうだけど……


「ていうかなんで他の人の前では素を出さないんですか?」


 ああ……それ、聞いちゃう?


「それ聞いちゃう?」


 ちょっと答えづらいな……


「ごめん、それは言えないかも。」


「そうですよね。本人の配慮もせずに踏み込んだ質問をしてしまいました。すみませんでした」


 いや…そんなに謝られるとこっちまで申し訳なくなってくるなぁ……これを言ったらまた謝られそうだ…


「いや、そんな謝らないで。私は大丈夫だから」


「でも……」


「いいの。私がいいんだから。そんなに気負うことじゃないよそれに、そんなに深刻なことじゃないし」


 ただの私のわがままというか自己責任だから……


「そうですか。ありがとうございます」


 未悠が笑った。うん、こっちのほうがかわいい。


「未悠はやっぱり笑ってるほうがかわいいよ」


 私がそう言うと未悠は驚いたような顔をしてその後顔みるみるうちにが赤くなっていった


「ちょっと美希さん!急にそんな事言わないでくださいよ!ビックリします」


 困ったような怒ったような表情をみせる未悠もかわいい


「そんな顔もかわいいよ」


「もう!やめてください!」


 恥ずかしがりながら怒ってるのもかわいいけど流石にからかいすぎたかな?


「ごめんね。少しからかいすぎちゃった」


「これからも仲良くしてくんですから、あまり変なことを言わないでくださいよ?」


「別に変なことは何も言ってないんだけどなぁ。……ていうかこれからも仲良くってどういうこと?」


「どういうことと言われましても……そういうこととしか言えないですね。」


 どういうこと?と一瞬悩んだけど答えはすぐ出てきた。


「ちょっと未悠?そういうことってそういうこと?やめてよぉ。まだそんな仲じゃないんだから。」


「まだってことはいずれなるということですか?」


「うう…それは言葉のあやで………気が早いよ、まだ好きって気づいたばっかだよ?」


「いやいや、恋は『攻め』ですから。お兄ちゃんもグイグイ来る人のほうが好きかもしれないですよ?」


「でもそんなのわからないし……」


「ものは試しですよ。この勉強会で少し大胆なアピールしてみればいいじゃないですか。」


「でも……」


「あ、お兄ちゃんが降りてきましたよ。」


「ごめん。電話がかかってきて………美希、どうした?顔が赤いけど」


 なんか顔が赤くなってる?いつもより心臓がバクバクしてるしこころなしか健人くんがかっこよく見える……そんなふうに思いながら喋れないでいると


「大丈夫?熱でもある?」


 とおでこに手を当ててきた


「やっぱり熱いよ。今日はやめる?」


「だ…大丈夫!さあ!やるよ!」


 やばい、めっちゃドキドキする。これが好きってことなのか。




 どうやら私は近くに健人くんがいるドキドキに耐えながら勉強をしなければいけないみたいだ――――。

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