第7話
放課後の西階段には相変わらず誰もいない。遠くから下校する生徒の声が響いてくる。あの踊り場には、当たり前だが何も残っていなかった。
「ごめんね、待った?」
「いや、別に」
遠野が階段を上がってきた。昨日とは逆の構図だ。包帯を巻いた側に通学バッグを下げている。
「今週掃除当番だから」
「うん、知ってる」
「あ、そっか。そうだね」
落ち着きなくバッグの手提げをいじる遠野は、俺と目を合わせようとしない。ちらちらと階段の下を気にしている。
「あのさ、昨日のこと、なんだけど」
「うん」
「なんであんなことしたの?」
俯いたままそう聞く遠野に、何と答えたらいいだろう。遠野が何を考えているのか、全く読めない。
「ごめん」
「あ、ううん、違うの。そうじゃなくて」
遠野がぱっと俺を見た。昨日の引き攣った顔とは全く違う。なんというか、すごく、かわいい?
「えっとね、その、坂上くん……好き、なの?私のこと」
少し赤くなった耳。何これ。ひょっとして?
「えっと、うん」
「そっか。うん……そうなんだ。そっか」
まさか、本当に薬が効いてる?あれ、本当に惚れ薬だったの?遠野の口元がふわっと緩む。どうしよう、遠野が暴力的にかわいい。少し目線を下げた遠野がバッグの中を漁る。そこから取り出してきたのは、キラキラ輝く刃の包丁、だった。
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